プロ結婚詐欺師の正体は老婆だった 元警官がみた「結婚詐欺」の悲しい実態

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2022年09月17日 09:01  弁護士ドットコム

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詐欺にはさまざまな手口が存在します。最近は振り込め詐欺や給付金詐欺といった時代の流れに沿ったものが注目されていますが、古典的な手口を活用する「プロの詐欺師」もまだまだ健在です。


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ターゲットを選定する嗅覚、相手をだますための下準備、磨きぬいたトークが活きるのは、新たな手口よりも古典的な手口かもしれません。



筆者が警察官として勤務していた際、実に様々な詐欺師たちと出会いました。あるプロ詐欺師が語った「結婚詐欺」の手口をはじめ、悲しい実態を紹介します。(ライター・鷹橋公宣)



●結婚詐欺を生業にしているプロ詐欺師の正体

結婚詐欺を専門にしているプロの詐欺師…。そう説明すると、どんな人物像を描くでしょうか?



男性なら、大企業に勤めていたり自分で事業を起こして成功していたりして金銭に余裕があり、清潔感があふれているのにどこかワイルドな人物。女性なら容姿端麗で、どこからか繊細な香りがするような人物。



いずれにしても、異性からみて誰もが「結婚したい」と憧れるような魅力的な人物でなければ、結婚詐欺なんて大それた犯罪は成し得ないと想像するでしょう。



しかし、私が知る結婚詐欺師の正体は、そのイメージとは正反対の人物像でした。



過去に複数の結婚詐欺を犯して検挙されてきた、ある意味では実績豊富なプロの結婚詐欺師。その正体はごく普通の「老婆」だったのです。



高齢なのに若々しくみえるといった特別な点はなく、きらびやかな生活を送っているわけでもありません。住まいは古びた公営住宅です。



彼女は、30歳代まではある暴力団員の愛人として囲われていましたが絶縁されてしまい、40歳代で初めて結婚詐欺で検挙され、以後、事件化されなかったものも含めて何件もの結婚詐欺を繰り返していました。



私が知ったときにはすでに80歳代に突入したのに、まだ同じ公営住宅に住む独身男性から結婚をエサに小銭を巻き上げていたのです。



被害者が事件化を望まなかったトラブルからその老婆と懇意になった私は「なぜこの老婆が結婚詐欺なんて難しい犯罪を遂行できるのか?」という点に興味がわきました。



茶菓子を手みやげに何度も通いつめて話を聞き、見えてきたのは「生活感」です。



彼女は、ターゲットに「結婚後の生活」をイメージさせる力に長けていました。「おかずを作りすぎたからおすそわけ」とか「男ひとりじゃ洗濯も掃除も大変でしょ?」などと言って接近し、相手の家に上がりこんでは押しかけ妻のようなことをしていたのです。



ときには弱い女性を演じて甘えたり、わざと強い女性を演じて「妻の尻に敷かれる」という感覚を演出したりといった小技も効果を発揮していたのかもしれません。



●こんな人がターゲット!結婚詐欺師に狙われやすい男性のスペックとは?

結婚詐欺師の老婆からは「どんなターゲットだと成功しやすいのか?」という情報も聞くことができました。



彼女がおもに狙っていたのは「農家の独身男性」です。



両親とともに実家に住みながらマジメに農業に勤しんできて、結婚相手を探す余裕なんてないまま中高年になってしまったような男性が「カモ」だと言います。



「生真面目で世間知らずだから、手を握ってやっただけで『自分の女だ』なんて勘違いするのさ」



そう聞かされて、一瞬背筋がゾッとしました。



「その気になればオマエが相手でもだませる」



そう言われたような気がしたのです。



過去の事件資料を調べると、たしかに農家の男性が被害に遭ったものがいくつかありました。



どの被害者も彼女より年上で、中年にしてすでにお爺ちゃんと呼べるような年代の男性も食い物にしていたあたりは、生粋の詐欺師です。



被害者の情報に目を通しながら気づいた共通点は、やはり「結婚願望が強い」という点でした。



農家は常に後継者問題に直面しているので、一般的な結婚適齢期を過ぎてしまってもあきらめることなく婚活に勤しむ傾向があります。



若手の刑事からみれば老婆でも、同年代の男性からみればやはり恋愛対象になるようで、被害者は「結婚できる!」と喜んで数十万円、数百万円という大金を彼女に貢いで、だまし取られていたのです。



とくにお金をかけるような趣味もなく、家庭もないので、稼いだお金は浪費することなくプールしていたという点も共通するスペックでした。



じわじわと接近しながら結婚願望の強さとお金の匂いを探知して「女」の武器でたらしこむというあたりは、手口も被害者のスペックも古典的でありがちだったという印象です。



●一方、男の結婚詐欺師が狙う女性のスペックは?

私が知る範囲では、もうひとり、男の結婚詐欺師が存在しています。



こちらも結婚詐欺を繰り返すプロですが、先ほどの老婆とは少し毛色が違うかもしれません。



貿易会社を経営していて中国語が堪能、前妻と離婚したが海外留学中の娘がいるという「いかにも」な設定で、60歳を過ぎているのに体躯が良く、ポロシャツとスラックスで身を固める清楚系でした。



彼がターゲットを探す狩場に選んでいたのは「テレクラ」です。



出会い系サイトが流行しはじめた時代に起きた事件でしたが、流行りの出会い系サイトではなくあえて古典的なテレクラにこだわったのがこの詐欺師の上手いところでした。



世間では出会い系サイトの危険性が指摘されていたので、電話越しながら肉声で本人の存在や印象を確認できるという点でテレクラは女性側の警戒心を和らげるのにうってつけだったのです。



彼の毒牙にかかったのは、同年代で結婚経験のない、仕事一本で頑張ってきた女性でした。 高齢の母親と同居しており、母親は「ついにいい人が見つかったのね」と大いに喜んでいたそうです。



結婚を期待させながら、会社の経費立て替え、娘の学費など、さまざまな名目で5000万円超をだまし取った事件でしたが、妻と暮らす自宅の前で取り押さえて逮捕に至りました。



過去の結婚詐欺を含めてターゲットの共通点を探ると、見えてきたのは「さみしさ」です。 同年代の女性が家庭をもち熱心に子育てをしている様子をはた目にしていた被害者にとって、独身を貫きながら仕事や親の介護に尽くしてきた自分は「さみしい人生だ」と感じていたようです。



過去の被害者も、やはり結婚経験がなかったり、若いうちに離婚して女手ひとつで子育てに勤しんできたりといった経歴をもっていました。



ただし、過去の被害者は金銭に余裕があったのではなく、どちらかといえば「お金で苦労してきたタイプ」の人ばかりです。



ムリをして借金をしたり、親の反対を押し切って不動産を売却したりと、彼のためになんとかしてお金を用意して被害に遭っていました。



参考情報を求めて過去の被害者のひとりにも接触しましたが、事件後は借金返済に追われる苦しい生活を強いられていたようです。



こうしてみると、男の結婚詐欺師は「お金に余裕がある女性」よりも「結婚のためならムリをしてでもお金を用立てる『尽くすタイプ』の女性」をターゲットにする傾向が強いといえます。



●意外と勘違いしやすい「結婚詐欺」とは?

数ある手口のなかでも誤解が生じやすいのが「結婚詐欺」です。



場末の居酒屋で「実は結婚詐欺に遭っちゃってさ」などと愚痴をこぼしている人のほとんどが、法律に照らすと詐欺の被害者とはいえません。



結婚詐欺とは、結婚をエサにして金銭などをだまし取る行為です。



たとえば、バツイチの男を装って「キミと結婚したいが、元妻への慰謝料として500万円を支払わないと再婚に納得してもらえない、かならず返すから500万円を立て替えてくれないか?」といった嘘でお金をだまし取るケースが考えられます。



被害者は「慰謝料の問題さえ解決できれば結婚できるんだ」と期待するからこそお金を渡すのであり、単なる善意などではなく「結婚」が金銭を差し出させるための理由になっていなければなりません。



結婚詐欺においては「結婚」と「金銭などの財産」がセットになっている必要があるのです。



非常に誤解が多いのが「結婚すると約束したのに『ほかに好きな人ができた』と言われてフラれた」といったケースですが、これは結婚詐欺にはあたりません。



犯罪ではないし、法的な責任を問えるとしても、民事上の「婚約破棄」に該当するか否かという論点にとどまるでしょう。



婚約破棄として責任を追及するためには、互いの両親に結婚を報告している、婚約・結婚指輪を購入している、結婚披露宴の予約をしているなど、客観的に婚約の事実を証明しなくてはなりません。



詐欺罪が保護するのは「財産」であり「結婚を期待する気持ちやこれまでに過ごした時間」を対象としてくれないというのはドライな話ですが、別の生き方で癒すしかないでしょう。



●ある意味では「プロのアクター」

結婚詐欺の怖いところは、結婚に向けて気持ちが昂ってしまい、明らかに怪しいウソでも信じ込んでしまうという点です。



ド三流のドラマばりのシナリオでも、経験を積んだ「プロのアクター」が演じればまるで本当の話かのように見えてしまいます。



「そんな展開、現実にあるの?」 「やたら演技がかった言葉を平気で言う人だなぁ」



そんなふうに感じたら要注意です。もしかすると、あなたのお相手は結婚詐欺師かもしれません。



【プロフィール】 鷹橋公宣(ライター):元警察官。1978年、広島県生まれ。2006年、大分県警察官を拝命し、在職中は刑事として主に詐欺・横領・選挙・贈収賄などの知能犯事件の捜査に従事。退職後はWebライターとして法律事務所のコンテンツ執筆のほか、詐欺被害者を救済するサイトのアドバイザーなども務めている。


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  • 本当のプロは「お金を貸して」とは言わないというけどね。「自分が助けないとこの人は助からない」とか強く勘違いさせる。だから捕まっても騙してないと言い張る。
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