橋本愛は小心者だった? 「道を切り拓く力は役から受け取ってきた」

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2022年10月02日 10:00  AERA dot.

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橋本愛(はしもと・あい)/ 1996年生まれ。熊本県出身。2010年に俳優デビュー。「告白」「桐島、部活やめるってよ」などの映画で強い印象を残す。ドラマの代表作に、連続テレビ小説「あまちゃん」、大河ドラマ「青天を衝け」など。20年にはYouTubeの「THE FIRST TAKE」で「木綿のハンカチーフ」を歌唱し、「筒美京平SONG BOOK」にも参加。主演ドラマ「家庭教師のトラコ」は最終回を迎えたばかり。(撮影/写真映像部・高野楓菜)
26歳にして、しっかりとした“言葉の世界”を持っている橋本愛さん。12歳で芸能界に足を踏み入れ、たくさんのしんどさも経験した。経験によって獲得した自信は、声優に挑戦したその声にも表れる。


【画像】ヒロイン役で声優を務めた話題のアニメ映画はこちら
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 芝居の世界に足を踏み入れたばかりの14歳のときは「あれをやりたい」「これをやりたい」という意思は皆無だった。ところが経験を重ねるうちに「やってみたい」と思う仕事が生まれた。“声優”だ。元々漫画やアニメが好きだったこともあり、「年齢も性別も人種も関係ない役ができるのは楽しそうだな」と思うようになった。


 そんな彼女が、この秋話題になること必至のアニメ映画のヒロイン役で、念願の声優を務めた。「僕が愛したすべての君へ」(通称“僕愛”)と「君を愛したひとりの僕へ」(通称“君愛”)は、見る順番で結末が大きく変わるふたつのラブストーリー。並行世界を行き来することのできるひとりの少年が、それぞれの世界で、別々の少女と恋に落ちる。橋本さんがヒロインの和音を演じたのは、切ない余韻を残す“僕愛”。両作で主人公の暦を演じるのは宮沢氷魚さん。幸せな余韻を残す“君愛”のヒロイン・栞の声は、蒔田彩珠さんが担当する。


「ふたつの物語の、どちらを先に見るかで、作品への印象が全く違うというアプローチが新しいなと思って、すごく興味を惹かれました。面白いのは、“僕愛”と“君愛”とで、暦のキャラクターが大きく違うことです。“僕愛”の暦は、両親の離婚後、母親と一緒に暮らしていて、“君愛”の暦は、父親に引き取られる。そのことが、暦自身の人格形成にすごい影響を及ぼしているんです。たった一つの選択で、全然違う人生になることがあるのが、わかりやすく表現されているし、こんなにも違うのに、根っこの部分は同じなんだというのが、面白かったですね」


 声優をやりたいと思っていた頃は、どちらかというと栞のようなキャラクターを演じることをイメージしていた。可愛らしくて、多くの男の子が憧れそうな、いかにもヒロインらしい女の子。




「栞と暦は、幼い頃に同じ悲しみや痛みを経験したからこそ惹かれ合ったのかなと。和音は、暦がいなくても一人でたくましく生きられる人。暦とは、お互いにないものを持っているからこそ、いいパートナーになれるのかなと。今回、和音さんを演じてみて、生命力をすごく感じたんですよね。恵まれた環境で育って、人に与えられるものもたくさんあって。人としての強さのあるキャラクターだったので、演じながら、体の内側に太い幹があるみたいな感覚がありました。自立して生きている人ってこんなに芯が強いんだなっていうのを、疑似体験するようでした」


 人に出会って刺激を受け、アドバイスをもらうことのほかにも、演じた役柄から学ぶことも多い。


■役はいつも自分より偉い


「“役はいつも自分より偉い”という言葉が好きです。海外の女優さんがおっしゃっていたんですが、本当にそのとおりだと思います。役に対してリスペクトを持って演じることはもちろん、物語の登場人物のほとんどが、目の前にある壁にちゃんと向かっていって、戦って、その壁をぶち破って進んでいく力を持った人たちですよね。自分の場合はもともと小心者で、なかなか勇気を出せなかった時期が続いていました。でも今は、勇気を振り絞ること、道を切り拓く力のようなものを、私自身が役から受け取ってきたように感じています。和音を演じる上では、作為的に声を作ろうとはしませんでした。和音の心を体に入れて、最初に出てきた天然の声が、いちばん嘘のないエネルギーがこもっている気がして……」


 俳優として意識しているのは、可動域の広さ。ブレない軸さえ持っていれば、肉付きをどうするかは、いろんな可能性があると思う。


「役の可能性を潰したくはないので、あまり考えすぎずに、まずはやってみることを大事にしています。私……、こんなこと言ったらあきれられそうですけど、準備が苦手なんです(笑)。セリフ覚えが異常に速くて……あの、写真で覚えるんですよ。2〜3回声に出して音として覚えて、一晩寝れば、あとはカメラロールに保存される。子供の頃は、てっきりこの機能を人はみんな持っているものだと思っていました。『私はズルしてたんだな』って思いました(笑)。でも、それがあったから本当に助かってるというか。一人の心が体の中に入ってるだけでパンパンなのに、そこに他者の心を入れるとなると、『もう満員です』って、だいぶエネルギーを消耗してしまう。どんな仕事でも、楽しいだけではできないとは思うけれど、それだけしんどい思いをしてやったからこそ、現場で自然に湧き上がる感情と出会えたときが楽しいし、演じる醍醐味だと思っています」


(菊地陽子 構成/長沢明)

※週刊朝日  2022年10月7日号より抜粋


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