2100年までぶっ飛ぶ――日本科学未来館がSF作品を創作 参加型イベントで「SFプロトタイピング」を使ったワケ

1

2022年10月07日 07:41  ITmedia NEWS

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

日本科学未来館の科学コミュニケーター

 こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。



【その他の画像】



 ここでは、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。SFプロトタイピングとは、SF的な思考で未来を考えた上で、実際にSF作品を創作して企業のビジネスに活用することです。



 今回の記事ではSFプロトタイピングの実践事例として、日本科学未来館が2022年9月11日に実施したSFプロトタイピングのイベント「ことばでえがく「未来の日常」」を紹介します。



 イベントの様子を見学させていただき、その後にファシリテーターを務めた同館の科学コミュニケーターである三澤和樹さんと宮田龍さんにお話を伺いました。



●「未来はかなえるもの」 日本科学未来館のコンセプトを伝えたい



 今回のイベント、ことばでえがく「未来の日常」を発案したのは宮田さんでした。きっかけはSFプロトタイピングに精力的に取り組む大澤博隆准教授(慶應義塾大学)や科学文化作家の宮本道人さんとの出会いだったといいます。



 「SFプロトタイピングに詳しい大澤博隆先生や宮本道人先生とお仕事をする機会が3年ほど前から増えており、そこでSFプロトタイピングを知りました。私もお二人が手掛けるSFプロトタイピングの研究プロジェクトに参加しています」(宮田さん)



 そんな宮田さんから話を聞いた三澤さんもSFプロトタイピングに興味を抱き、今回のイベントにつながりました。



 「SFプロトタイピングを日本科学未来館のワークショップとして行えないかと宮田さんと相談しました。普段からワークショップは数多く行っていますが、親子や子ども向けのものばかりです。大人向けの難易度の高いワークショップは初めての試みでした」(三澤さん)



 初めての試みになった今回のワークショップは、何を目的に企画したのでしょうか。その意図を聞いてみました。



 「企業や行政向けのワークショップとは違い、初めての会う人が集まります。どういうテーマにすると限られた時間のなかで楽しくやれるか、未来についての考え方やアプローチ方法の一つの選択肢を提供できないかと考えました」(宮田さん)



 宮田さんがこう話す背景には、日本科学未来館が2022年7月8日に発表した新たなビジョンがあります。2030年を念頭に置いたもので、コンセプトは「Mirai can _!未来は、かなえるものへ。」です。人の視点から未来を捉え、一人ひとりが自分事としてかなえたい未来を思い描き、作っていくためのプラットフォームを日本科学未来館が目指していくという思いが込められています。



 その一環としてSFプロトタイピングを活用することになったそうです。「未来はかなえるものというコンセプトを、ワークショップを通して伝えていきたいと考えました」(宮田さん)



●SFプロトタイピングで「2100年までぶっ飛ぶことにしました」



 ワークショップではテーマを「2100年のロボット・AIとわたしたちの暮らし」に設定しました。



 「ロボットやAIは、今後さまざまな研究や社会課題の解決につながる分野のひとつなので今回のテーマにしました。また、時代設定は2100年です。2030年や2050年はありきたりです。SFプロトタイピングは長期的な視野で考えられるのが特徴なので、そこで2100年までぶっ飛ぶことにしました」(宮田さん)



未来を考えるヒントは「ことば健康診断」「脳波カセットテープ」



 ことばでえがく「未来の日常」に参加申込みしたのは10人、当日は8人が参加しました。ワークショップでは参加者をファシリテーター役の三澤さんチームと宮田さんのチームの2つに分けました。



 最初にワークショップの説明をした後、アイスブレークとして各チームに2つの質問を投げかけ、参加者が自己紹介を兼ねて答えていきました。



・質問A:最近、気になっていること、趣味、買った物、はまっていることを教えてください。



・質問B:本日のテーマに関することで気になることや実現したいこと、興味のあることなどについて教えてください。



 次に、この質問Aと質問Bへの回答からそれぞれキーワードを抽出して、2つを掛け合わせます。



 三澤さんチームのキーワードは「ことば健康診断」です。これは参加者から出た「最近、健康診断を受けたところ精密検査を受けなければならなくなって」という発言と、「ことば」という発言を掛け合せました。



 宮田さんチームのキーワードは「脳波カセットテープ」になりました。同じく参加者の「最近、カセットテープDJにハマっていて」という発言と、「今は手で書いたり入力したりしているけれど、脳波でできるようになったらいい」という発言を掛け合わせています。



 実はこの、ことば健康診断と脳波カセットテープという2つのキーワードが、2100年を考える足掛かりになる「未来ガジェット」なのです。



未来ガジェットを使っている登場人物を考え、SFストーリーを描く



 次に各チームで、未来ガジェットを基に描く「未来の日常」を考えます。ここでは、未来ガジェットを使っているのはどのような人なのか、複数の登場人物を作ることで考察します。今回は6人で進めて、その中から主人公を決めます。



 ここからSFショートストーリーを作っていきます。物語を構成する起承転結に合わせてどのような未来で、どのような社会で、そして主人公はどうなるのかを考え、大枠のプロットを完成させます。



 それぞれのチーム内で完成したものを発表して、ワークショップは終了です。振り返ってみると午前11時〜午後15時30分まで、途中お昼休憩を挟んで、濃い議論が交わされました。



●自己紹介から未来ガジェットを作り、登場人物から他者の視点を生む



 ワークショップでは、アイスブレークが未来ガジェットのアイデア出しになっていました。ここにファシリテーションのポイントがあります。



 「最初から『では未来ガジェットを作ります』というのではなく、初めて会う人のアイスブレークにしようと決めました。自分のプライベートなことが未来ガジェットになるのは面白いのではと思ったからです」(宮田さん)



 「振り返ってみると、未来ガジェットを作ることが少し難しいと思いました。時間が限られている中で、質問し過ぎるとキーワード候補が増えるのでなるべく抑えなければなりません。その中で出てきた言葉は、ありふれたものが多かったかなという気はします」(三澤さん)



 未来ガジェットだけで2100年を考えるのではなく、登場人物まできちんと考えたのはなぜでしょうか。そこには宮田さんの思いがありました。「自分ではない他者の気持ちになって未来を見る、想像して課題を探るということを大事にしたかったからです」(宮田さん)



 時間が限られているため深堀りはせず、未来ガジェットと登場人物を決めるというシンプルな構成にしたそうです。また、6人の登場人物を考えることで多様性が出てくることを狙っていました。



 最後の工程では未来ガジェットがどのような社会でどう使われ、そして主人公はどうなるのかを考えました。「登場人物を通して社会の課題を考え、世界観の解像度を上げていこうと考えました」(宮田さん)



 登場人物が未来ガジェットに対してポジティブなのかネガティブなのか、それは何故なのかを整理することで、その世界が抱える課題が浮き彫りになるだろうと考えたそうです。そして、どうすれば解決でき、解決した先にある世界はどう変わっていくのかを考えるよう導くのが目的でした。



 そうして生まれた大まかな物語を起承転結に落とし込んでいきました。



 「物語に落とし込む工程がうまくいくか不安はありました。でも、いざ進めてみると参加者の協力もあってスムーズにできました。しかし別のメンバーでやったときにも上手くいくように、ファシリテーションのスキルアップが必要だと思いました」(三澤さん)



 「やはり、SFショートストーリーを作る部分に体力を使いました。とはいえ登場人物を作り込んでいたので、登場人物を動かすことで物語にすることができました」(宮田さん)



●SFプロトタイピングはコミュニケーションの方法として有効



 全体を通してスムーズに進んだ今回のワークショップですが、他にやってみたかったことや今後取り組む際に改善したいこともあるでしょう。お二人それぞれに聞いてみました。



 「起承転結で作った物語を演劇の台本にして、寸劇をしたかったというのはあります。そこまでやれば参加者も達成感があったと思います」(宮田さん)



 「イベントとして良い記憶として体験を持って帰ってもらいたかったと思っていました。私たちとしては成果のあるものになったと思いますが、『あれは何だったんだろうね』で終わるともったいないです。今後は分かりやすい楽しさを提供したいと考えています」(三澤さん)



 最後にSFプロトタイピングの可能性を教えて頂きました。



 「ユートピアでもディストピアでも良いというのがSFだと思います。2100年は今と全く価値観が違うと思います。そうした未来を想像するために、ファシリテーターがうまくリードする必要があるでしょう。そのコミュニケーションの方法として、SFプロトタイピングなら深い部分に近づける手法だと思いました」(三澤さん)



 「僕は企業や行政にとどまらず、もっと広く科学コミュニケーションの場面でSFプロトタイピングを生かせる機会が多いのではないかと思っていたので、第一歩として試せたのは良かったです。誰でも巻き込めるし、全然違う人の視点になれるので、誰一人取り残さない社会を作っていくための話し合いに向いているという実感も得られました。未来への発想をぶっ飛ばすのは、科学コミュニケーションとしてやり方を工夫できると思っています。今後も間口を広げて取り組んで行きたいと考えています」(宮田さん)



 日本科学未来館はその名の通り、科学の未来を提示する施設です。SFプロトタイピングとも親和性が高いといえるでしょう。実際に館内では、微生物と人間が共生する未来について考える展示の題材にSFプロトタイピングを取り上げており、SF小説「ココ・イン・ザ・ルーム」(著者:青山新)の冊子を置いています。小説はネット上でも公開しており、こちらのPDFファイルで読めます。



 今回、同館では初めてSFプロトタイピングを活用してのワークショップを実施しました。参加者のうちSFプロトタイピングを知っていたのは約半分でしたが、SFプロトタイピングに興味を持っている人は着実に増えていると実感します。今後はいろんな場面でSFプロトタイピングのワークショップが行われるでしょう。


    前日のランキングへ

    ニュース設定