彩凪翔(あやなぎ・しょう)大阪市出身。2006年、宝塚歌劇団に入団。雪組男役スターとして数々の大役を演じる。21年に退団。写真集に『SHO AYANAGI』/
山里亮太(やまさと・りょうた)1977年、千葉県出身。漫才コンビ「南海キャンディーズ」のツッコミ担当。通称・山ちゃん。著書『天才はあきらめた』は18万部突破/
天真みちる(てんま・みちる)神奈川県出身。2006年、宝塚歌劇団に入団、花組でさまざまなおじさん役を演じる。18年に退団。著書に『こう見えて元タカラジェンヌです』
(photo 写真映像部・東川哲也) スカパー!の「山里亮太の宝塚男子になってもいいですか?」のリニューアルに合わせ、山里さんが、「宝塚男子」でいることの極意や喜び、観劇の際のポイントなどを宝塚OG2人と語り合った。AERA 2022年11月28日号より紹介する。
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スカパー!「山里亮太の宝塚男子になってもいいですか?」がリニューアルして戻ってくる。宝塚ファン初心者の山里さんが元タカラジェンヌをゲストに迎え、宝塚歌劇の世界を深掘りするトークバラエティーだ。山里さんと、リニューアル初回ゲストの彩凪翔さん、天真みちるさんが、“宝塚男子”や観劇をより一層楽しめるポイントなどを語り合った。
──さまざまなエンタメの世界を知り、目が肥えた状態で宝塚と出合った山里さん。宝塚に魅せられた理由はなんでしょうか。
山里:シンプルに「カッコいい」と感じるのと、エンタメの世界におけるさまざまなタイプの感動を味わえることが大きい。「歌がうまいな」「踊りがすごいな」「ひたすら美しいな」「カッコいいな」「かわいらしいな」といった、五感を刺激する突き抜けた感情のすべてが1回のショーに詰まっている。これまで感じたことのないタイプの感動でした。
■何事も突き詰めれば
──彩凪翔さんと天真みちるさんは宝塚歌劇団92期生として、同期のお二人です。
山里:収録では実際に歌っていただいたりもしましたが、お二人を前にして言うのも照れますが、ただただすごかったです。彩凪さんは美しくてカッコよくてエレガントだな、と改めて感じましたし、天真さんは、ある意味、僕が思い描いていた通りの方でした。
彩凪・天真:あはは。
山里:お二人とも、やはりエンターテイナーだなと思いました。僕は天真さんにお会いする前に、ご著書『こう見えて元タカラジェンヌです』も読んでいたこともあり、親近感というか、共感できる部分があるなと思っていて。天真さんは、ある時から唯一無二の“おじさん役”としてその才能を開花させた方ですが、トップを狙う人間以外の人の気持ちをこんなにも肯定し、勇気づけてくれる方はいないんじゃないかと感じます。「自分は何者でもない」と思っている人が、何者でもない人ならではのカッコ良さを放つ。どの世界でも言えることですが、「自分はダメだ」で終わろうとしたらそこで止まれるのですが、「ここがダメだ、なら何ができるのだろう」と、次のステップに行くことがいかに人生を輝かせてくれるか。天真さんはその象徴だと思うんです。何事も突き詰めていけば、どんなことにも負けない、楽しい人生になるんだなと感じることがありますが、ご本人にお会いしてもやっぱり楽しそうだったので、その感覚は間違っていなかったんだなと思いました。
──“宝塚男子”の醍醐味はどんなところにありますか。
山里:僕はもう、気持ちとしては娘役の視点から見ているんです。娘役として見ると、今までの人生で感じたことのない感情の高ぶりがある。「女の子たちはこうやって恋に落ちているんだ」と、手に取るように分かります。「キュンとする」という感情って実はおじさんにはないんです。でも気づけば、まるで少女のように胸の前で手を組み舞台を見つめている。あれは、宝塚でしか味わえない感情です。それに、男役さんって我々観客を落としにかかってくることがありますよね。みんながみんな「今日は目が合った」というエピソードを持ち帰っているでしょうから。
■舞台からはよく見える
彩凪:実は、舞台からは思っている以上に見えているんですよ。「あ、今日は山里さんいたね」なんて、裏ではそんな会話をすることもありますから。
山里:えー。見えているんですか!
彩凪:めちゃくちゃ見えています(笑)。いまのお話を伺って、男性の方に宝塚の男役を「カッコいい」と思っていただけるのはすごくうれしいな、と思いました。「女が女に惚れる」感覚に近いですよね。宝塚には、独特の衣装も華やかさもある。山里さんのように、さまざまな舞台を観られている方が宝塚に興味を持って下さり、番組を通して宝塚を広めて下さっているのは、すごくうれしいことです。
天真:私も、初めて宝塚の舞台を観た時は、漫画『ガラスの仮面』の北島マヤのごとく、雷に打たれたかのように「ここに入りたい」と思ったことを覚えています。舞台を観終えても、客席から立つことができない、ということが本当にあって。究極的にカッコいいと感じると、山里さんのように自然に手と手を合わせてキュンとしたポーズになってしまう。「尊い」という感情が芽生えてくるんです。山里さんも同じ思いを抱いていらっしゃるのだと知ったいま、これからは公演を観たらすぐに電話をして「観ました? どう思いました?」と聞いてみたい気分です(笑)。
──まだ宝塚の舞台を観たことがないという男性に、どんなアドバイスを送りますか。
山里:食わず嫌いの人が多いと思うんです。僕もそうでした。でも、ぜひ一度観ていただきたい。初めて観劇する際のオススメは、ストーリーがわかる作品を選ぶことですね。僕がラッキーだったな、と思うのは初めて観た作品が星組の「ロミオとジュリエット」だったこと。ストーリーがわからない作品を最初に観ると、「難しいな」で終わってしまう可能性もあるので、初めて観る作品に何を選ぶのかは重要かもしれません。
■ハードボイルド系も
彩凪:確かに、観る作品は重要ですね。衣装もすごければ、照明もすごい。宝塚って本当に観るポイントが多いので。私も最初は、「女性が男役を演じている」という前知識だけで足を運んだので、「この人も実は女性なの?」とキョロキョロするだけで終わってしまった。だからこそ、多少内容を知っていたり、シンプルなお話だったりすると、比較的入りやすいと思います。
天真:たとえば「ベルサイユのばら」のような、コスチュームものはハードルが高いと感じるのなら、ハードボイルド系の作品から入ってみるのもいい。スーツにトレンチコートを羽織り、ソフト帽をスッとかぶり、背中で語る──。そんな美学を貫く作品もあるので、男性のお客さまなら、そうした姿勢を学ぶのもいいのかな、と思います。小物や髪の流し方、ため息のつき方……。とにかく宝塚は“カッコいい”の宝庫。一度舞台を観て、自分なりのカッコ良さをパートナーに披露するなど、いつの日か役立つ時がくるかもしれません(笑)。
彩凪:ショーと芝居がセットになった作品も、二度おいしく、純粋に楽しめると思います。先ほどまでお芝居をしていた人が、こんなふうに歌って踊るんだ、と、そのギャップも楽しいと思います。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年11月28日号