舞台は中絶が違法だった時代のフランス 思わぬ妊娠で壮絶な経験をした作者の自伝的小説を映画化

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2022年12月04日 07:00  AERA dot.

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なす術がないまま、時間だけが刻々と過ぎてゆく……アンヌの身に迫るタイムリミットを意識した演出はサスペンスフルでもある。「原作を読んだときスリラーでもあると感じた」という監督。テーマの現代性や社会性を認識しつつも「あくまでも“芸術”として楽しんでほしい」と話していた/photo (c)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS − FRANCE 3 CINEMA − WILD BUNCH − SRAB FILMS(映画) (c)Richard Giannoro(監督)
 1960年代、中絶が違法だった時代のフランス。優秀な大学生アンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)は思わぬ妊娠をする。医師に「堕胎に加担したら刑務所行きだ」と拒絶され、自力でなんとかしようとするが──。連載「シネマ×SDGs」の30回目は、今年のノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの自伝的小説を映像化した「あのこと」のオードレイ・ディヴァン監督に話を聞いた。


【写真】映画の場面カットをもっと見る*  *  *


 原作となるアニー・エルノーの『事件』を読んでショックを受けました。私自身、中絶を経験していましたが、現代でのそれは医学的な行為であり痛みもありませんでした。しかし作者自身を投影したヒロイン・アンヌが経験するそれは実に暴力的なものでした。



 フランスでは1975年に「ヴェイユ法」が制定されるまで中絶は犯罪でした。フランス人であれば誰もが知っている歴史ですが、みなオブラートに包んで語りたがらない。その時代に望まぬ妊娠をした女性たちにとって中絶がどれほど精神的・肉体的な苦痛を伴うものだったのか。その実態が本を読んでまざまざと感じられ、映画に描きたいと思いました。



 でも一番の理由はアンヌに強烈に惹かれたからです。アンヌは自由を希求し、それを阻止するものであればどんなことがあっても闘います。愛されることを求めるのではなく“自分自身”であることに重きを置いている。それはまさに私が人生で実践していることです。


 映画化に際し、アニー・エルノー本人に会うことができました。彼女は本の内容を忠実に私に解説してくれましたが、中絶のシーンになると目に涙を浮かべました。80歳を超えてもなお、その闘いと経験がどれだけの苦しみとして彼女のなかに生き続けているのかを目の当たりにしました。そんな思いを映像化できるのかとプレッシャーも感じましたが、試写を観て「とても的確だわ」と言ってもらえて心底ホッとしました(笑)。



 映画を観た多くの男性に「こんなに身体的に動転したのは初めてだ」と言われてうれしかったです。多くの観客が性別や年齢の区別なく、一人の若い女性=アンヌの体のなかに入り込み、その痛みを体験してくれたのです。それこそが映画の力なのだと思います。(取材/文・中村千晶)

※AERA 2022年12月5日号


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