『山田くんとLv999の恋をする』漫画家ましろと担当編集が明かす創作秘話 ゲーム×恋愛、歳の差ラブの人気作品はどう作られる?

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2023年01月26日 08:11  リアルサウンド

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 「第6回 みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」や「第13回ananマンガ大賞」といった名だたる漫画賞で大賞を受賞。さらに待望のアニメ化が決定するなど、快進撃を続ける『山田くんとLv999の恋をする』。漫画アプリ「GANMA!」(ガンマ)で連載中のこの作品は、ネトゲで出会った女子大生と男子高校生が織りなす、じれったくもキュンとする年の差ラブに魅了される読者が続出中だ。


(参考:【写真】『山田くんとLv999の恋をする』の象徴的なシーン


この話題作の漫画はどうやって創作されているのか。ましろ先生と担当編集者にインタビュー。そこには、少女漫画と読者に対して真摯に向き合う姿勢。それに、大いなる「山田」への愛が詰まっていた。


■各有名漫画賞で大賞、アニメ化決定……快進撃の2022年を振り返る


――2022年は有名漫画賞で大賞を受賞しアニメ化が決定するなど、名実ともに人気を集めた一年でした。この盛り上がりを受けて心境の変化はありましたか?


ましろ:なんだか自分の作品じゃないみたいだと不思議な気持ちになることもありました。ですが、私自身は家でずっと漫画を描くという連載当初から変わらない作業をしていたので、良い意味で何も変わらずにやってこれたと思います。


――ご自身の軸がぶれずに描き続けられたということでしょうか。


ましろ:そうですね。連載当初から、私が描きたいものではなく読者の方が「次に何を読みたいか?」を予想しながら描いてきたのですが、それが今年も変わらずにできたんじゃないかなと。


――担当編集の塚原さんはいかがですか?


塚原:『山田くんとLv999の恋をする』が広がっていくにつれて、忙しさも増していますが、その最中に改めて強く感じたのがましろ先生のプロ意識。もともと作品の作り方などましろ先生から学ばせていただくことが多かったのですが、改めて凄さを実感しています。


■自身の経験から生まれた“ゲーム×恋愛”


――ゲームと恋愛を掛け合わせたアイデアはどこから生まれたのですか。


ましろ:連載の企画案を出す時にいくつかネタの候補があったのですが、自分の知識が豊富なテーマが良いなと思ったんです。私自身、もともとかなりゲームをやっていたことがあり“ゲームを使った恋愛モノ”というネタを選びました。


――その頃から茜や山田といった主な登場人物も完成していたのでしょうか。


ましろ:いえ、もう今の『山田くんとLv999の恋をする』とは全くの別物でした。一番最初はゲーム×恋愛と言うよりもインターネットを介した出会いみたいな感じの話でしたね。


――ましろ先生がゲームをやられていたことは作品の中に実体験が反映されているのでしょうか。


ましろ:そうですね。山田と茜がやっている「Forest Of Savior」というゲームの世界観や仕組みは、私が以前やっていたゲームを参考にしています。


ましろ:作中に登場するオフ会に関しては、私自身が引っ込み思案なこともあり実際に参加したことはないです。けれど、ゲームで仲良くなった人と気軽に会って話してみたいなという願望は当時から持っていて。茜のフットワークの軽さは、そういった憧れを込めて描いています。


――ましろ先生からゲーム×恋愛の企画を提案された時、塚原さんは率直にどう思われましたか?


塚原:ゲームって、恋愛漫画においては珍しいテーマだと感じました。ネトゲは私の周りでも熱中している人が多い印象だったので、「ぜひ!」と思いました(笑)。それからすぐにネームに取り掛かっていただきましたね。完成したネームもすごく面白くて、ほぼ修正なしで会議に出したくらいです。


■「どこまで恋愛、少女漫画に振り切って良いのか」連載当初の苦悩


――2019年3月より連載を開始し、今年で4年目。これまでに苦労した点や思い出深い出来事などがありましたら教えてください。


塚原:やっぱり最初の方ですかね?


ましろ:そうですね。瑠奈が登場して、茜が「あの子誰なんだろう?」ってなっている時。あの頃は作品の方向性が定まっていなかったんですよ。だから、瑠奈の扱いも恋のライバルにするのかマスコット的キャラにするのかどうしようって……しっかりと固まらないうちに登場させちゃったんです。他にも、初期の頃はとりわけコミカル感が強いというか、もちろん物語を回すためでもあるのですが、茜がピエロみたいな役割をしているシーンが多いんですよね。本当に試行錯誤の時期でした。


――なぜ方向性に苦戦していたのでしょうか。


ましろ:当初は幅広い読者層を意識して描いていたんです。だから、男性読者も意識しなければいけないというプレッシャーがずっとあって。そうなると、私としては少女漫画が得意だけれど、どこまでそっちに舵を切って良いのかと常に迷いがありました。


塚原:「GANMA!」は当時、男性読者が多かったんですよ。だから、たくさん読んでほしいという狙いもあったので、かなり男性読者を意識していました。


ましろ:確かに最初の頃は「GANMA!」で表示されるパネルもアフロの山田がバンって押し出されてましたよね(笑)。だから当時は宣伝ひとつ取っても、男性読者をはじめ広い層を意識して、少女漫画っぽくないものを使っていたなと。


塚原:でも、恋愛色が強くなってきた10話くらいから、『山田くんとLv999の恋をする』がランキングTOP10入りしたり、人気が出始めてきたんですよ。読者の方も女性がどんどん増えて、ファンの方がコメントくださったりして。


ましろ:椿が登場したあたりだったと思うのですが、そこからやっぱり自分の得意な恋愛・少女漫画の方向に振り切りましたね。


■意識しているのは “やりすぎない”こと


――『山田くんとLv999の恋をする』を連載していくうえでお二人が意識している点はありますか?


ましろ:あまりかっこよくさせすぎない。つまり、やりすぎないという点は意識しています。『山田くんとLv999の恋をする』は、「GANMA!」だと10〜20代、単行本になると若年層だけではなく、幅広い年齢層の方が読んで下さる。だから、読んでいる方がなるべく気恥ずかしくならないように気をつけています。


塚原:私はゲーム要素がある作品なので、編集としてはゲームに詳しくない方でもわかりやすいようにという点を意識しながらましろ先生と打ち合わせをしています。


――かっこよくさせすぎないように意識していると仰っていましたが……山田、かっこよすぎませんか?(笑)毎話、彼の一挙一動にドキドキしているのですが、山田というキャラクターはどのようにして形成していったのでしょうか。


ましろ:山田って私の中では昔から脈々と続く“クール系男子”のテンプレートだなと思っていて。そこに一芸秀でる部分をプラスしています。やっぱり何かひとつ特別に優れていたり、人に負けないものを持っている男性キャラクターはかっこいいと思うんです。絵が上手いとか仕事ができるとか、得意なものはなんでも良かったのですが、先ほどお話した通り私がゲームの知識があったのでプロゲーマーという設定にしました。


■山田、茜と対になるように周囲のキャラを創造する


――山田と茜を取り巻く、瑛太や椿などのキャラクターたちも魅力的で目が離せません。そのようなサブのキャラクターはどのようにして作られているのでしょうか。


ましろ:まず、メインのキャラクターを主軸に置いて、そこから対をなすキャラクターをイメージして作っていくんです。例えば椿の場合だったら、茜を主軸に置いた時、彼女よりも不器用だし、恋愛ももっと下手だし、自分の本音も怖くて言えない……みたいな。瑛太も同じですね。山田を軸にして考えて対軸になるようなキャラクターにしています。


――言われてみれば山田や茜と対局的なキャラクターが多いですね。ちなみに、みんなと仲介役の鴨田さんは……?


ましろ:鴨田さんの初登場シーンはオフ会なのですが、もともとは存在しないはずのキャラだったんですよね。当時、オフ会のシーンを描いたら塚原さんから「オフ会人数が少なくて寂しいよね」って言われまして、じゃあ誰か一人入れようって流れで生まれたキャラなんですよ(笑)。物語が進むにつれて今の鴨田さんが完成していきました。


――そんな裏話が! 数あるキャラクターの中でも一番思い入れがあるのは誰でしょうか。


ましろ:思い入れというか、なるべく丁寧に取り扱いたいなと思うのは椿ですね。やっぱり失恋しちゃいましたし。失恋したから出番が終わりなのではなく、仲間の一人としてずっと大切にしていけたらなと思います。


■「そう簡単にときめいてはくれない」恋愛描写へのこだわり


――『山田くんとLv999の恋をする』は、今までの恋愛漫画では見たことがない予想不可能な胸キュン展開がとても魅力的です。ストーリーを創る上でこだわりがありましたら教えてください。


ましろ:基本的には“少女漫画を読み尽くしてきた人たちに向けて描いている”というのをすごく意識していますね。それは私自身、少女漫画が大好きで今までたくさん読んできたからなおさらそう思うのかなと。


ましろ:皆さんそう簡単にときめいてはくれないから、工夫はいつも心がけています。例えば、「壁ドン」とか既に一般的になってしまった展開では、みんな反応してくれないんだろうなと。だから、手をかえ品をかえて“大人の女性がときめいてくれるような繊細な動作”や“ストレートではない優しさ”を『山田くんとLv999の恋をする』では“かっこよさ”として取り入れています。


――ましろ先生が試行錯誤して生み出されたストーリー。それを読んだ方が感じたときめき、そこから生まれた熱狂が「GANMA!」のコメント欄にストレートに表れているなと感じます。


ましろ:自分でも盛り上がるだろうと“狙ったシーン”で反響があると、とっても嬉しくなります。自分の感性まだまだいけるなって(笑)。


塚原:コメント欄は、あたたかいコミュニティになっているところが嬉しいですよね。作品への応援・感想コメントのほか、時々ご自身の近況を書き込んでくださる方がいて。それに対して、「頑張ってください!」とか「応援してます!」とか皆さんが励ましあっているんです。作品を通して「仲間」として連帯しているのを見るのはとても嬉しいです。


■欠かさずに描き続けてきたゲーム要素


――本編では山田も大学生になりましたし、茜との関係性もまた一歩踏み込んだものになっていて、いわば第二章に突入したのかなという印象を受けます。今後の見どころについて教えてください。


ましろ:山田と茜はもう付き合っているので、まずはこの2人のことを見守ってほしいなと思います。それと、『山田くんとLv999の恋をする』はゲーム要素をずっと欠かさずに組み込んできた作品なんですよね。


――山田と茜がやっているネットゲームの「Forest Of Savior」についての描写はかなり細かく描かれている印象を受けます。


ましろ:ゲームに興味がない人にとっては、「Forest Of Savior」の内容がなかなか頭に入ってこない部分があると思うので、できる限りわかりやすく描いています。できたら最終的に皆さんが「Forest Of Savior」に愛着を持ってくれたら嬉しいなって思いながらずっと描いてます。最終回までの道筋はある程度決めているのですが、このゲームの要素は、今後の展開に欠かせないポイントなので、これからもしっかりと描いていきます。ですので、フィナーレに向かう道すがら、山田と茜を見守りつつ、ゲーム要素にも注目してほしいです。


■アニメでは“彼氏ではない山田”に注目を


――4月からは待望のTVアニメもスタートします。豪華製作・声優陣によるアニメ化ですが、今のお気持ちはいかがですか?


ましろ:アニメ化が決まった時は本当にびっくりでした。特に作品の初期段階は迷いながら描いていたので、嬉しいよりも不安な気持ちが大きかったですね。でも、脚本会議に参加させていただいて、浅香監督のお話を聞いた時にお任せして大丈夫だなと安心したんです。浅香監督の感性やこだわっているポイントがすごく良いなと。


――既に公開されているティザーPVにも大きな反響が寄せられています。アニメ化によって期待していることはありますか?


ましろ:アニメを通じて、新たに『山田くんとLv999の恋をする』を知ってくれる方が増えるのではという期待が一番大きいです。原作では山田と茜はもう付き合っていますが、アニメでは“彼氏ではない山田”が観られます。すでに彼氏の山田に慣れきってしまった方にも新鮮に映ってくれたら嬉しいです。


これからも“自分自身が読みたいと思えるような少女漫画”を目指して


――山田がどれだけ大切にされているのかが伝わってきます。お話を伺っていて、二人で試行錯誤された結果が今の『山田くんとLv999の恋をする』なのだと感じました。お二人の関係性についてはそれぞれどのような印象をお持ちでしょうか。


塚原:ましろ先生は本当にストーリーを綿密に考えられていて、いつも完成度の高いネームをくださるんです。なので、私はその作品を届けるためにできることは全部やる……例えるなら伴走者なのかな? と思っています。引き続きましろ先生のサポートや作品の宣伝をやっていければと思います。


ましろ:『山田くんとLv999の恋をする』の現場は、塚原さんはもちろん、アシスタントさんも付き合いが長いんですよね。スケジュール管理やメディアの方々への連絡など、細かい管理はすべて塚原さんにお願いしていて、作品の背景の9割はアシスタントさんが描いてくれています。なので関係性としては3人体制のチームでやっているような感覚です。


――最後に、読者の方々にメッセージをお願いします。


ましろ:これからも“自分自身が読みたいと思えるような少女漫画”を頑張って描いていきますので、応援よろしくお願いします。そして今年の4月からはアニメがスタートします。アニメではコミカルな部分やゲームの動きなど、かなりこだわって描いてくださっているので、幅広い層の方が楽しめる作品になっていると思います。ぜひ楽しみにしていて欲しいです。


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