お天気キャスター歴40年の森田正光さん「お帰りが遅くなる方は折り畳みの傘をお持ちください」など、ここ最近のニュースや情報番組での天気予報は、やたら懇切丁寧に情報を伝えてくれる。ありがたいのは確かだが、この「丁寧化」には理由があるのだろうか? お天気キャスター歴40年の森田正光さんに聞いた。
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お天気キャスターが、「厚手のコートでおでかけください」「朝はコートの前を閉めて、お昼ごろからは開けてもいいでしょう」など、とても丁寧に(しかもイラストつきだったり)語りかけてくる。こうした細かい情報伝達について、天気の仕事のキャリア50年以上の森田正光さんはこう話す。
「私は長年ラジオもやっているんですが、現場でご一緒したジャーナリストの方が『傘を持てだとか、服装がどうだとか、アレ、なんとかならないのか』って、いつも言っていたのを覚えています。あんな情報は『必要ないだろう』いうわけです。天気予報とは極端な話、晴れか雨か曇りかがわかればいいんですよね。『傘を持てとかこの服を着ろとか、やれ、温かい服装で出かけろとか言うな』っておっしゃっていて、私に対してもそう思っていらっしゃったそうです(笑)」
現役として、いまもお天気を報じる身として、やたら丁寧な言い方に対する受け手の気持ちも理解しながら、森田さんは続けてこう話す。
「だから、一部の人には、『服装や持ち物まであれこれ言うな』と思う方がいるのもわかります。箸の上げ下ろしをとやかく言われるのが嫌みたいな、パターナリズムに対する嫌悪感はありますよね。『傘をお持ちください』ならともかく、『長い傘で』とか『折り畳み傘で』とか、どっちでもいいでしょ!(笑)ですよね」
そう話す森田さんだが、いつしか天気予報が生活情報も扱うようになったきっかけは、森田さんだったかもしれないという。
「始まりは1983年ごろではないかと思います。当時、私は気象協会というところにいまして、そのときに、テレビ局のプロデューサーの方から『天気で生活情報が欲しい、何か面白いものはないのか?』と言われたんです。それで、洗濯情報というのを考えて、天気予報の中で伝えていきました。それが、天気予報が生活情報となったきっかけだと思います」
洗濯指数から始まり、90年代に入るとさらに進化していった。
「90年代になると天気予報の精度が高まってきました。また、気象予報士制度が気象業務法の改正によって平成6年度に導入され、96年から気象予報士がお天気キャスターをやるようになったんです。そのころから天気予報だけでなく、例えば夕方の報道番組の中で短いコーナーとして報じるようになりました。天気予報がより生活情報っぽいものに変化していきました。例えば、いまの季節だと乾燥対策だとか、いろいろな情報を天気予報のコーナーが発信し始めたんです」
そんな変化があった90年代に、森田さんが担当した番組では、新たに「指数」ネタを発案したそう。それが「ババシャツ指数」だ!
「私が出演していたTBSの夕方の番組では『ババシャツ指数』というネーミングで、翌日の気温から指数として報じていました。90年代に流行った言葉、ババシャツですよ(笑)!、ネーミングの面白さから何年か続けていきましたが、いまはババシャツという言葉はよくないだろうと思います(笑)」
天気予報の情報が細かくなっていった理由については「放送時間が関係している」と話す。
「夕方のニュース番組の放送時間が90年代から1時間、2時間……と増えていきました。そこで各局、いろいろなチャレンジをしたんですが、2000年代になってから2時間くらいの枠が定着してくるんです。いま、夕方のニュース番組だと『Nスタ』は16時から19時まで3時間やっていますからね」
ニュース番組の長時間化に伴い、天気予報も枠を埋める大事なコンテンツになっていったというわけだ。
「長時間の枠ですが、突発的に起きる事件や事故、災害などの対応をするためには生放送化していくしかないわけです。生で対応できる情報とは何かと取捨選択していくと、天気予報+天気に関する情報となる。天気予報だけを伝えると2〜3分程度のものですが、それに情報をプラスしていく。私はいま夕方のニュース番組では、1つの天気予報の枠で約5分間もらっています」
「お天気キャスターデビューの時は最年少で、いま最年長ですよ。最年少から最年長でいいの!?(笑)」と冗談っぽく話す森田さんだが、長年、天気予報を報じるうえで気を付けていることを聞いてみると「特にない」と笑う。
「災害時は災害優先ということだけで、それ以外は特にないです。人間は情報を大まかにしか受け取れないので、できるだけ『具体的に大まかに』ですね。矛盾するような言葉ですが、まず、雨なのか晴れなのか。曇りだったら晴れのほうに寄せて言うとかです。受け取る情報量には限界があるので、できるだけ、テレビを見ている人には大まかなわかりやすい情報をということです。昔、ラジオの天気予報でいつも20秒ある枠がたった5秒しかないときがあって、『晴れ、晴れ、晴れ、以上、森田がお伝えしました!』って言いました(笑)。できるだけシンプルにすることが大事ですね」
以上、天気予報がなぜ丁寧になっていったかをお伝えしました!(AERAdot.編集部・太田裕子)
森田正光(もりた・まさみつ)/気象予報士。1950年名古屋市生まれ。財団法人日本気象協会を経て、1992年初のフリーお天気キャスターとなる。同年、民間の気象会社 株式会社ウェザーマップを設立。