短腸症候群について知ってほしい 学業や就業で直面する課題とは

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2023年01月30日 13:00  QLife(キューライフ)

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QLife(キューライフ)

問題は、短腸症候群があまり知られていないこと


千葉先生

 生まれつき、あるいは病気や事故などによって腸が通常より短くなった状態を短腸症候群(SBS)といいます。生活面でもさまざまな支障が伴う疾患ですが、周囲からの理解は十分とはいえないのが現状です。そこで、短腸症候群についての正しい理解を広めることを目的としたセミナーが2022年12月14日に開催され、千葉正博先生(昭和大学 教授)による講演と、患者の立場から高橋正志さん(短腸症候群の会 代表理事)、毛上友加さん(短腸症候群の会 会員、養護教諭として就労中)、谷川なおさん(高校生)によるトークセッションが行われました(武田薬品工業株式会社 主催)。

 短腸症候群の患者さんは、食事から十分な栄養を補給することが難しいため、経腸栄養剤や点滴(中心静脈栄養)、薬から栄養を補給する必要があります。しかし、点滴などによる栄養補給を長期間行うと、短腸症候群特有の肝障害やカテーテル感染を起こすことがあるため、命に関わる事態にならないよう注意を払わなければなりません1)。また、小腸で消化吸収が十分にできないため、排便の量や回数が増えてしまうことも患者さんを悩ませています。

 このように短腸症候群が健康や生活に及ぼす影響は実に多様で、治療には非常に長い時間を要します。「問題は、短腸症候群についてほとんど知られていないために、患者さんへの医療的ケアへの配慮が十分にされていないこと」だと千葉先生は訴えました。

周囲の理解に感謝しつつも、迷惑をかけてしまうことへの不安も


毛上さん(オンラインで参加)

 毛上さんは、短腸症候群と診断されてから仕事復帰した際の心境について「この病気であっても働けることを示したかった」と、当時を振り返りました。復帰の際には病気について伝えるべきか悩んだそうですが、きちんと伝えたことで、職場の方々も優しく声をかけてくれたり体調を気遣ってくれたりするようになったそうです。

 毛上さんは周囲からの理解に感謝しつつも、カテーテル感染をいつ起こすか分からない状況について「熱が出るとすぐに仕事を休んで病院に行かなければならず、長期の入院となり職場に迷惑をかけてしまうと落ち込むこともある」と、不安な思いについても打ち明けました。

疾患のある学生にも多くの選択肢がある社会になってほしい


谷川さん

 谷川さんは、生後3日目に緊急手術を経て短腸症候群となりました。「幼少期から食事制限がありましたが、今では時々外食もできるようになった」と話す谷川さん。現在では徐々に体力もつき、学校生活の行事などにも積極的に参加しているそうです。しかし、小学校入学後の1年間は母親の付き添いが必要だったり、新年度ごとに担任や保健室の先生に病状と緊急時の対応を共有したりするなど、家族や学校の支援が欠かせなかったといいます。

 また、進学する高校を選ぶ際に「やむを得ず出席できない授業に対して課題レポートの提出などの代替措置がある高校と、そうではない高校がある」ことを知ったそうです。そうした体験を踏まえ、「疾患への理解がもっと広がることで、疾患に対して柔軟に対応してくれる学校が増えてほしい」と、今後に期待を寄せました。

雇用や収入が不安定にならないよう、柔軟な働き方が広がってほしい


高橋さん

 高橋さんが短腸症候群の会を立ち上げたのは、「まわりに同じ病気の方もいなければ、担当医ですらも短腸症候群を診たことがないという状態だったため、とにかく情報が欲しいという一心で患者交流のためのブログを始めたのがきっかけ」だったそうです。現在、短腸症候群の会は毎月1回、数名〜10名程度で開催され、アットホームな雰囲気の中で困りごとなどを相談する場となっています。会を通じてさまざまな相談を受けるという高橋さんは、「ご自身の状態を説明できるように、症状やできること、配慮してほしいことをまとめて、早い段階から周りの人に協力を求めてほしい」と呼びかけました。

 短腸症候群の患者さんの中には、体調などの不安を抱えながらも一般の方と近い状態で働いている方もいらっしゃいます。高橋さんはそうした比較的症状が軽い方についても、「雇用や収入面で不安定な状況に置かれることもあるため、それが少しでも改善できるように柔軟に働くことができるような社会に変わってほしい」と訴えました。

 短腸症候群の患者さんへの理解は、まだ浸透しているとはいえない状況です。短腸症候群の患者さんが暮らしやすい社会を考えることは、その他の方々にとっても暮らしやすい社会を考えることにもなるのかもしれません。(QLife編集部)

1) Martinez M, et al.: Nutr Hosp. 26(1): 239-242, 2011.

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