倉田真由美 、介護芸人・さかまき。による原作を漫画化した理由「高齢者をここまでリアルに面白く描いているものはない」

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2023年02月24日 08:11  リアルサウンド

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『だめんずうぉ〜か〜』などの実録エッセイ漫画で知られる倉田真由美が、初となる原作付きの漫画を「WEBザテレビジョン」で連載開始した。


(参考:【写真】倉田真由美による介護エッセイ漫画を試し読み


タイトルは『お尻ふきます!!』。“介護芸人”として知られるマッハスピード豪速球のさかまき。の原作をベースに、介護の世界のリアルを描いた漫画である。倉田にとっても意欲作である本作に込めた想いを聞いた。


■倉田真由美初、原作付きの漫画


――ひょんなことからグループホームで働くことになった早乙女ウメを主人公に、介護の現場を描いた漫画です。どのような経緯で連載が決まったのでしょうか。


倉田:『お尻ふきます!!』はさかまき。さんの原作をそのまま漫画化する構想もあったんだけど、どうしても描けない話題も出てくるので、キャラをゼロから作ってフィクションとして描くことになりました。でも、内容はさかまき。さんの実体験が豊富に入っています。だから、フィクションなんだけれど、限りなくノンフィクションの要素が強い漫画じゃないかなと思います。


――倉田先生にとって初めての原作付きの漫画ですが、シナリオはどのような形で提供されているのでしょうか。


倉田:実はさかまき。さんは絵心がある人で、漫画のネームは彼が切っているんです。今まで漫画を描いたことがなかったそうなんですが、ネームの段階で既に面白いので、私は若干のセリフの調整しかしていないんです。あと、ネームが上がってくるまで、敢えて次の展開を知らせてもらっていません。だから、私自身どんな人が出てきて、どんな話になるのかなと楽しみにしています。


――ええっ! さかまき。さん、漫画初挑戦でネームが切れるんですか!? それは凄い!


倉田:早乙女ウメを高卒の元ギャルでキャバ嬢経験者にしようとか、設定もさかまき。さんが考えたんです。漫画の才能があるのはもちろんだけど、彼が介護人生で見聞きしたリアルな人間ドラマが余すところなく入っているので、純粋に面白いんですよ。それに介護の世界は専門的だから、経験者じゃないとネームは描けないと思います。


――ここは、一朝一夕で描けるものではないと。


倉田:私も認知症の父を介護したことはあるけれど、それこそ介護職の人は桁が違うほどたくさんの人を介護しているわけです。認知症の症例だって100人いれば100通りのパターンがあるわけですからね。


――認知症のエピソードは第1話でさっそく登場しますよね。ウメが実家に帰ったら祖父が認知症になり、要介護2に認定されていました。


倉田:認知症になったウメのおじいちゃんの源五郎は、突然玄関で「船はまだですか?」と言う。ウメは、最初は何のことかわからずに戸惑っていたけれど、ホームヘルパーさんはウメも知らなかった源五郎の過去を語ります。かつて源五郎は港で仕事をしていて、玄関に行くと、港で働いていた頃を思い出すそうなのです。ホームヘルパーさんは人の人生が見える介護の仕事は楽しい、と言います。これは秀逸なお話ですよね。


――1人の男の人生が、介護を通して見えてくるわけですね。


倉田:介護は大変ですが、一方でこういうほんのりといい話もあるんですよ。こういったリアルなエピソードはさかまき。さんだからこそ表現できると感じます。


■絵柄がテーマとベストマッチ!?


――『お尻ふきます!!』には介護現場のセクハラなど、様々な問題が描かれています。しかし、倉田先生のゆる〜い絵のおかげで重苦しくなく読めますね。


倉田:確かに、そうかもしれないね(笑)。『だめんずうぉ〜か〜』(以下、『だめんず』)でも、洒落にならんレベルの重い話をたくさん描いています。男に殴られて肋骨が折れた、という女性は何人も描いたけれど、それって普通に聞いたら凄惨な話だよね。私の絵で漫画にしたから、なんとか読めたというのはあると思います。


――仮に劇画調のリアルな絵だったら、絶対、笑って読めないと思いました。


倉田:『だめんず』がドラマ化したときも、暴力シーンの表現は悩ましかったですね。実際、再現ドラマでやるのは難しいと感じました。そして、介護の現場でも暴力の話は聞きますよね。これから登場するかどうかはわかりませんが、この絵のおかげで難しい問題を知ってもらう機会になるのかなと思います。


■介護に対する意識が変わった


――倉田先生は、「くらたまのいま会いたい手帳」という、介護をテーマにした著名人との対談企画を担当しています。


倉田:対談でいろいろな人に会ってきましたが、お会いしてイメージが一番変わったのは加藤綾菜さんです。ご存じ、加藤茶さんの奥様ですね。結婚直後は、「お金目当てで結婚した」などと中傷されていましたが、彼女は心の底からカトちゃんを愛しているんですよ。介護の資格もとっていますし、高齢者に接する姿勢が他の人と違う。お話を伺って、高齢者と接するのが好きなんだなあ、と感じました。


――介護の現場は暗いイメージで語られがちです。対して、介護が好きという方もいらっしゃるわけですよね。


倉田:どのように高齢者に接するかで差が出ますし、私は介護に向いていない人がやるから、高齢者の虐待に繋がってしまうと考えています。適性の判断は難しいけれど、向いている人が入ってきやすい環境を整える必要はあるよね。特に現状では、介護職の大変さと給料が釣り合っていませんから。


――給与面が改善されたら変わってくるのでしょうか。


倉田:そうしたら間口も広がり、すすんで介護職をやる人がもっと多くなるはずですよ。介護職って、人として思いやりがある人が向いているかなというと、意外とそうではない。さかまき。さんは介護に向いている人だと思うけれど、いい奴、という表現は合わないもん(笑)。芸人らしい変わった感性の持ち主で、笑いのセンスも漫画の才能もあるけれど、決して優しいとは思わないものね(笑)。


――さかまき。さんは、どうして介護に向いているんですかね?


倉田:どうしてなのでしょうね。彼に話を聞いたら「やめたいとは思わない」と言うんですよ。それがまさに、向いているということだと思います。芸人として売れちゃったら辞めちゃうかもしれないけれど、まだ幸いにも……(笑)。


■ノンフィクションの凄みを感じた


――(笑)。それにしても、作中にチョイ役で登場する高齢者も皆個性派揃いです。


倉田:高齢者をここまでリアルに面白く描いている漫画って、少ないんじゃないかな。私は『お尻ふきます!!』を描きながら、フィクションよりもノンフィクションの方が凄いかもしれないって、改めて思っています。第3話に出てくるジローさんみたいに、毛布を上着のように着込んで座布団を背負って歩きまわる人とか、そんな設定考えても思いつかないじゃないですか。


――倉田先生の創作意欲を刺激している点でも、さかまき。さんとは名コンビだと思います。


倉田:初めての原作付きの漫画で、凄い人と組めたと思っています。私は原作担当になることはあっても、まさか原作付きの作画担当になることはないと考えていたので、それだけで驚きです。とにかくいい作品に関われているのはありがたいですね。


――筆がのっている倉田先生です。これからの展開にも期待したいですね。


倉田:私もこれから漫画がどうなるのかわかりませんが、さかまき。さんは介護の現場でたくさんの人と接していますので、エピソードは尽きることがないでしょう。毎週の更新を、楽しみにしていただければ幸いです。


文=山内貴範


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