ピーキーなSF23に苦闘する王者。決勝は「まったくイメージできていない」【SF開幕直前インタビュー/野尻智紀】

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2023年03月29日 12:01  AUTOSPORT web

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3連覇を懸けて2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦する野尻智紀(TEAM MUGEN)
 4月8〜9日に富士スピードウェイで開幕を迎える2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権。今季は新型車両『SF23』と新たなスペックのタイヤが導入されるほか、コロナ禍で下火となっていた海外からの参戦ドライバーも増え、昨年とは異なる戦いが展開される可能性がある。

 すでに3月上旬には、鈴鹿サーキットで2日間の公式合同テストが行われた。ただし、新型車両採用年にも関わらず開幕前の走行機会はこの2日間のみ。この短い準備期間でどれほど新型車両とタイヤをモノにできているかが、2レース制で行われる開幕ラウンドおよびシーズン序盤のポイントともなりそうだ。

 開幕直前、上位争いが期待される何名かのドライバーに現状の手応えと序盤戦の展望を聞いた。まずは2年連続でタイトルを奪い、今季は3連覇を目指す立場の野尻智紀(TEAM MUGEN)。テストでは初日にベストタイムもマークしているが、新たなパッケージへの不安は尽きないという。

■『リヤがなくなる瞬間』が早く来るSF23

──タイトルを獲得した2022年シーズンですが、あえて点数をつけるとしたら、100点満点で何点でしょうか?

野尻:……95点くらいにしたいです。100点をつけてしまうと、伸び代がない、みたいになってしまうので。やっぱり安定して強さを見せることが周囲へのプレッシャーにもなりますし、今年もそういう戦い方をしなければいけないな、と思っているところです。去年、僕がやったようなシーズンの過ごし方を誰かにされてしまうと大変だな、と(笑)。

──鈴鹿テストで乗ったSF23の印象はいかがでしたか。

野尻:乗った手応えとかフィーリングで言うと、昨年外から(開発車両を)見ていたイメージと、あまりズレはなかった感じです。ただ、思っていた以上にオーバーステア側に振れてしまっているかなという感覚もあって……いわゆる“ニュートラルステア”と呼ばれる領域にもっていくのが大変だな、という感想です。

──テストでトップタイムをマークしたときを「たまたまダウンフォースが出てくれたという感覚」と表現されてましたが、タイヤのコンディションや風向きなどの影響が強かった、ということでしょうか?

野尻:それもありますし、あとは(午後の最後に)路面温度が下がってくれたので、1周続けてタイヤがもつという感覚が少し出てきたというか。それまでは、(アタック周の)セクター3くらいでもう「リヤがないなぁ」という感覚があったので、そのあたりはうまくコンディションが合ってくれた、という印象でしたね。あとは路面温度・気温ともに上がってきたときにどうなるか。そこが見えない・分からない部分です。

──他のドライバーの方々からもリヤのグリップに課題があるという話は聞きますが、クルマが変わったことと、タイヤが変わったことは、どちらの影響が大きいのでしょうか。

野尻:どちらの要素も含めてなのですが、感覚としては、『クルマが変わったことによるピーキーさが、タイヤが変わったことによってさらに助長されてしまった』という感じで、拍車をかけてピーキーさ側に振れてしまった感触がありますね。

──その『ピーキーさ』というのは?

野尻:『“クルマの姿勢に対してリヤのダウンフォースが足りない時間”の割合が多い』というイメージです。いままでだったら、コーナーの入口からミッド(エイペックス周辺)にかけて、もう少し長い時間リヤがあり続けてくれたのですが、いまはもうコーナーに入ると『リヤがなくなる瞬間』がすごく早いタイミングで来てしまう。なので、コーナーに対してハンドルを切れない時間がすごく長くなってしまう感覚で、乗りづらかったですね。タイヤのたわみ量も増えている感覚があるので、そういった部分でもコントロールしにくいような印象でした。

■「分からないね」では終わらないTEAM MUGEN

──現状、決勝想定の距離のロングランをするとどうなる、というのは見えていますか?

野尻:すごく難しいなと思いました。まったくイメージできていない、と言った方が正しいかもしれません(苦笑)。鈴鹿でのテストに関して言えば、NAKAJIMA RACINGの2台とか、KCMGの2台とか、感触的に、昨年までタイヤに負荷をかけられていなかったのではないかと思うようなチームが上に来ています。反対に、いままでタイヤを上手に使えていたチームは、うまくバランスを取れていないような傾向にあるんじゃないか、というような気はします。もしかしたら、クルマの硬さなどといったあたりも、もう一度見直さなければいけないのかもしれません。

──そんななか、開幕ラウンドは金曜日の90分の走行のあとは、いきなり予選ですね。

野尻:時間は全然足りないですね。とはいえシーズン前半戦もやはり大事なので、そういう状況でありながらも上位をキープすることが大切で……。確かに、先々を見据えるなら大きなセットアップ変更もしたい。反面、そのときの結果もやはり大事なので、もし調子が悪いとなったときに、どれだけドラスティックにセットアップを変えていくかは、結構難しい問題になってくると思います。

──外からは、一瀬(俊浩)エンジニアとのコンビを含め、チームとしてのエンジニアリング体制は万全のように見えますし、実際「いまのTEAM MUGENと野尻選手なら、SF23もすぐに攻略してしまいそう」という声も聞こえてきます。

野尻:いやぁ、まぁ……大変なんですよ(笑)。ただ、(チームの)中にいる身として思うのは、エンジニアリング面ではかなり優秀な人材がそろっていると思いますし、僕が「ここは、こう感じている」というものを、何かしら新しい手法を使ってでも、見つけてくるんですよね。

──データの収集・解析能力に長けている、と。

野尻:はい。これまでの普通のチームであれば、一般的に考えられるデータの見方を用いて「うーん。分からないね」で終わってしまいがちなところを、いろいろなデータを組み合わせながら見てくれるので、個人的にもチームには期待しています。去年も新しいエンジニアさんが入ってきているなかで、僕がこう言っているときはどのデータを見たほうがいい、クルマはどういう状態だ、といったノウハウが蓄積されてきていますし、若いエンジニアたちもどんどん能力をつけてきています。

 僕は一瀬エンジニアといろいろと話しながらセッションを進めていって、その結果得られたデータを解析してくれるスタッフたちに渡して、その解析結果を待って次のことを考えて、という感じで毎回進めています。ちょっと(解析の作業に)時間はかかるのですが、精度はすごく高いと思うので、今年もしっかり会話をしながらやっていけば……ときには間違った方向に行くかもしれないですが、それも成功への近道だと思うので、あまり焦らず、みんなを信用してやるしかないと思います。

■リアム・ローソンは「末恐ろしい」

──チームメイトには注目のリアム・ローソン選手を迎え入れますが、ここまでの彼の印象は?

野尻:若いのにスゴいなぁって。僕はあの歳(21歳)でそんなこと到底できなかったのに、という感じです。クルマの理解もそうですし、エンジニアへのフィードバックだったりとか、「フォーミュラカーはこう走らせるべきだ・こう走ってほしい」という“軸になるもの”が、すでにでき上がっているので。若いときから(速いフォーミュラを)経験しているからなのかもしれませんけど、すごく的確なコメントをするなぁと隣で聞いていて思いますし……いやぁ、末恐ろしいですね(笑)。

──来る開幕ラウンドの2戦に向けては、どのように戦いたいと考えていますか。

野尻:昨年の開幕ラウンド(※2022年も2レース制)では、2位と優勝ということで、流れを作れたというか、勢いをつけることができたので、今年も同じような感じで表彰台は最低限キープして、スタートを切りたいなと思っています。もちろん最高の結果は2連勝することだと思うので、そこを目指しつつ、思い切って戦いたいと思います。

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