SNSで「チケット売ります」→あっさり逮捕 自暴自棄になった男の杜撰な犯行

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2023年04月21日 10:01  弁護士ドットコム

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「〇〇のチケット売ります」。どうしても手に入れたかったけど、手に入らなかったチケットが、SNS上でこんな文言で売り出されていたらどう思うだろうか。一度は諦めていたものを手に入れようと期待を膨らませる一方で、「これって本物だろうか?」と疑念を抱く人も多いのではないだろうか。


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そんな疑惑の目をかいくぐって、4人の被害者にチケット代として計約11万円を振り込ませた上、チケットを譲渡しない詐欺行為を行ったと起訴された男性の裁判が、2023年3月に大阪地方裁判所にて行われた。驚くことに、被告人は被害者に信用させるために自身の本名や携帯電話番号を伝えており、これが逮捕につながった。



傍聴を通して印象に残ったのは、被告人の無気力さと自暴自棄ともいえる杜撰な犯行だった。(裁判ライター:普通)



●ファン心理の熱意を悪用した犯行

被告人は30代後半の男性。小太りの体型や疲れた表情、仕草から実年齢以上に見える。裁判での受け答えからは、終始どこかふてくされているような印象も受けた。



高校を卒業してから職業を転々としており、30歳からは無職だったという。前科が2犯あり、事件当時は同種の詐欺行為で受けた有罪判決(懲役1年6月、執行猶予4年)の執行猶予中であった。その判決から1年も経たず、今回の事件を起こしている。



被告人は、事前に人気のあるコンテンツを調べた上で、人気バンド「back number」のライブチケット、舞台『千と千尋の神隠し』の公演チケットを売るとTwitterに投稿。当然、被告人はチケットを入手していないが、被害者となった4名は譲って欲しいと必死だった。



被害者の1人は「迅速に入金などを行うので、なんとか譲って欲しい」と懇願した。別の被害者は、チケットを譲ってもらえると思い、チケット代金を被告人に入金した後、山形県から上京のための飛行機とホテルまで予約をした。なお、チケットの譲渡を疑ってきた被害者の1人に「発信者情報開示請求を行う」などと脅すような文言を使うこともあった。



被害者たちが被告人を信用したのは、被告人が本名の他、求めに応じて住所や携帯電話も明かしていたことも影響する。しかも、これは偽りの情報ではなかったため、これらの情報をもとに捜査は行われ、被告人は逮捕されたのだ。



では、なぜこのような逮捕されるリスクを冒してまで個人情報を明かしたのか。



裁判で、被告人は「執行猶予を取消されても構わないという思いもあった」と供述しており、生活苦からなのか自暴自棄になっていたようにも感じられた。



まるで逮捕される時を待つかのような行動に巻き込まれた被害者らは、ファン心理を利用され、騙されたと思うと不憫でならない。被害者はそれぞれ2万円〜3万円の被害が発生しているが、被害弁償の目途は全く立っていない。



●不安だけが残る裁判の結審

被告人は前の事件で執行猶予判決が出てから、生活保護を受給して生活をしていた。建築関係の仕事が決まりかけてはいたが、コロナに罹患し話は立ち消えとなった。そこから3カ月で4件の犯行を重ねた。



社会復帰後は改めて建築関係の仕事がしたいと供述する被告人。しかし、特に仕事先にあてがあるわけでも、なぜ建築関係なのか理由があるわけではない。今後の生活費は引き続きの生活保護を活用しつつ親に頼ると供述するも、前刑で発生した弁償金の相談でさえも、親に「難しい」と一蹴されており、本当に親が支えになるかは不明だ。前刑の原因となった家賃の滞納もいまだに払いきれずに残っている状態である。



判決は懲役2年(求刑3年)、未決勾留日数のうち90日を算入するというものだった。



裁判を通じて、被害者への弁償はもちろんのこと、被告人の再犯防止や、新たな生活に向けた支援など、何一つ検討されないまま、裁判が終了してしまったことに気付く。前刑の執行猶予が取り消されて計3年6カ月の服役となるが、この機会が被告人の更生に繋がり、新たな被害者を産まないことを心から願うばかりである。



【筆者プロフィール】裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。


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