スマートシティはどう実現されていく? 産学官連携によるシンポジウム開催

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2023年04月28日 10:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
産学官連携のプロジェクトにより地域DX水平展開の活動を推進している「地域IoTと情報力研究コンソーシアム」。3月27日、同コンソーシアム主催による第4回となる「地域IoTと情報力研究コンソーシアム」シンポジウムが慶應義塾大学 三田キャンパスで開催された。


シンポジウムでは、あらゆる情報をハイブリッドに活用した超センサーフュージョン技術により、人々の生活をより豊かにするスマートシティの構築を目指すさまざまな試みも紹介。



開会挨拶では、慶應義塾大学 環境情報学部 教授 中澤仁氏が、「コロナ禍でスマートシティに関連するプロジェクトは水面下に潜っていたが、今日こうして皆さんと対面でお話しできることを嬉しく思う」と開口一番に述べた後、この日のテーマ"2030年の未来都市創造のための超解像度都市センシング"について解説した。


その際に同氏は、「スマートシティに関するプロジェクトは街の中から情報を取ってくるセンシングが重要になってくるが、現状は個人的な利用に偏りすぎている感がある。街には人がいるものなので、人々にとってより良いサービスの提供を通じて、より良い体験そして生活へと結びつけるよう情報を活用しないといけないと思っている」と、持論を述べた。

○3次元都市モデル×DXというスマートシティづくりのアプローチ



基調講演「3次元都市モデルとDX化で可能にするスマートシティ」に登壇したのは、ライゾマティクス 代表取締役 齋藤精一氏だ。



冒頭で同氏は、今後は文化と経済の関係性がより密になっていくだろうとした上で、「文化はすなわち地域創生となって、産業観光などと両輪で発達していくことになるだろう」と見解を示す。



また、スマートシティに関しては、「ずっと言われているもののまだまだ実装されていない感がある。その理由として、スマートシティを構築すること自体がミッションになってしまっていて、どんな世界をつくりたいのかという本質的な議論が欠けているのではないか?」と問題定義すると、そもそも前としてDXができていなければデータも集まらず、まちづくりの新たな方向性が定められないことを強調した。


「人が居なければ街は成り立たない。しかし、都市開発・地域開発が金太郎飴化しているなか、街に対する愛着は消えつつあるのではないか? まずは、現実とバーチャルという議論の方向性について関係者の間でまとめたほうがいいのではないだろうか。そうして3次元都市モデルとDX化で可能にするスマートシティのあり方を描くのである」(齋藤氏)



ここで同氏は、メタバースとはなにか、自身のメタバース論を展開。



「メタバースとは、『モバイルインターネットの後継』と考えておくのがわかりやすい。注意したいのが3D=メタバースではないという点だ。3Dインタフェースは表現情報の1つと考えるべきだろう」とした。



そして「スマートシティをつくるということは、住民が街を把握し、住民が街のファンになる仕組みづくりが重要となる」と強調した齋藤氏は、次のように続けてセッションを締めくくった。



「街それぞれのカルチャーが非常に大事であり、その周りに経済圏がある。その中でまずはオプティマイズしてみるべきなのではないか。それが連結していくことで、日本の産業が強くなる可能性もあるだろう。ただしプロトコルが共通していないとつながらないので、そこはつながるよう工夫が必要となってくる。3次元都市モデルとDXで可能とするスマートシティのための材料は既にそろっているので、それをどうつないで価値を創出していくかがポイントとなってくるだろう」


講演後の質疑応答で、質問者がスマートシティづくりはトップダウンとボトムアップどちらで進めるべきか問いかけると、齋藤氏は、「既にトップダウンの主体である国から、現場となる民間・自治体へとバトンは渡っているだろう。スマートシティでは経済効果を上げるような仕組みをどれだけつくるかが大事だが、既にそのフェイズにいるのではないか」と答える。



続いて、「街はリアルと言われたが、人とのコミュニケーションもまたリアルではないか?」と問われ、同意しつつ「街はソーシャルデザインのようなイベントと連携していかないと面白くならない」と持論を語った。

○4人のリレートークで「ShonanFutureVerse」プロジェクトを紹介



休憩を挟んだ後、Beyond5G「ShonanFutureVerse」プロジェクトについて4人の有識者によるリレートークが行われた。



ShonanFutureVerseプロジェクトとは、2030年のBeyond5Gの超高速、超低遅延、超多接続のネットワーク環境を最大限に活用し、現在都市の超解像度センシング技術と、交通、人流、環境、防災などのさまざまなユースケースにおける超精密シミュレーション技術とを組み合わせることによって、リアルな未来都市像を超精密かつリアルタイムに仮想空間上で可視化するというもの。



※本プロジェクトは国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のBeyond 5G開発促進事業委託研究(採択番号05401)によるものです



まず、慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 大越匡氏が、この研究分野における社会的背景としてサステナビリティとレジリエンスを挙げると、神奈川県南部地域の寒川町、藤沢市、横須賀市の3自治体を実証フィールドとする本プロジェクトの取り組みについて言及。



プロジェクトの代表研究者がNTT東日本であることを紹介すると、研究の目的と内容について説明を行った。



続いて、慶應義塾大学理工学部 教授 栗原聡氏が、あるべき世界を実現するための社会シミュレーションとソーシャルデザインといった見地から意見を述べた。



「複雑系である実社会を理解・予測することは難しい」とした同氏は、人間の行動のモデル化といった課題について言及し、時間の粒度の違いと人間行動モデルの入れ込みがポイントとなってくるとした。



3人目となる京都大学防災研究所 附属巨大災害研究センター 准教授 廣井慧氏は、超解像度サイバーデータとサイバーフィジカルループの開発について解説を行った。

ボトムアップ型でバックキャスティングを行うためのデータづくりをどうするのかといったテーマのもと、ボトムアップ的な取り組みとして超解像度サイバーフィジカルループの概要を紹介。



災害発生時の「避けたい未来像」と「目指したい未来像」にフォーカスすると、具体的な試みとして、ベース技術である減災オープンプラットフォーム「ARIA」による湘南エリアでにおける河川の氾濫のシミュレーションについて解説した。



最後に、カディンチェ 代表取締役の青木崇行氏が、「超解像度メタバース XRアプリケーション」を紹介。



ゼンリンデータコムが作成したデジタルツインの3D都市データを利用したVRアプリや、交通データを用いたVRアプリであるアイ・トランスポート・ラボなどのデモを行って都市を3Dで表現する必要性を示した。



また、都市データの可視化に際して肝心の人間による意見がなかなか可視化されていないという疑問を呈した同氏は、「こういう意見があるからこういう街になるといった予想図が見られるようになればいいという思いのもと開発を進めている」と力説した。

○超解像度都市センシングの可能性についてパネルディスカッション



インタラクティブセッションでは、計16人のプレゼンターが各1分ショートプレゼンによるフラッシュトークを行った後に、インタラクティブポスターセッションとしてそれぞれの参加者が興味あるテーマについて場外のパネル展示を見てもらった。



フラッシュトークは、IoTコンソーシアムメンバーとYRP協会メンバー、Beyond5G"ShonanFutureVerse"プロジェクト関係者と大きく2つのカテゴリーに分かれ、それぞれ8人がショートプレゼンを行った。


MTT東日本では、データ連携プラットフォームをパネル展示しており、そこではさまざまなデータを連携・集約して分析し、次のアクションへと結びつけることの重要性が強調されていた。


最後のセッションであるパネルディスカッションでは、"2030年の未来都市創造のための超解像度都市センシング"においてBeyond5Gの高速低遅延環境を如何に使い倒すかというテーマを掲げ、モデレーターの大越氏のほか以下の5人がトークを展開した。


1 アイ・トランスポート・ラボ 代表取締役社長 堀口良太氏

2 カディンチェ 代表取締役 青木崇行氏

3 ぷらっとホーム IoT応用技術サービス部 部長 後藤敏也氏

4 グリーンブルー 取締役 三阪和弘氏

5 ゼンリンデータコム IoT第二事業部 マネージャー 池本智氏


まず堀口氏は、「自分は人と交通を専門にモデリングやシミュレーションを行っており通信は門外漢だが」と前置きしたうえで、「交通もいろんなデータが使えるようになったので、データが遅延なく使えるようになるというのはとても魅力がある。高速低遅延でデータが集まれば新しい制御のかたちなども容易に考えられるし、さらに将来を予告してそれに基づいて制御などといった可能性が拓けるので非常に期待しているし、そうしたデータが自由につかえる未来を想定して我々も準備をしていきたい」と語った。


続いて青木氏が、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の場合30FPSや60FPSといったフレームレートが出ないと酔いにつながってくるので実用的ではないと解説すると、次のように語った。



「特にXRにおけるデータ更新速度は60FPSから120FPSという高頻度がハードウェア側の要求としてまずある。あとMRでは利用が屋外となるためVPS(Visual Positioning Service)という写真データから位置や向きを特定するサービスを利用するが、そこでもサーバーを介してとなれば高レートが必要になるだろう」


後藤氏も、「eスポーツのゲーマーにとっては0.1秒のラグでも遅いとみなされるので、まずはそうしたところから高速大容量低遅延のニーズがでてくるのではないかと持論を示した。


バス内に40個ほどのCo2センサーを付けてこれまで5回ほどCo2センシングの実証実験を行ったという三阪氏は、経営管理者向け、バス停で待っている乗客向け、バスに乗車中の乗客向けという、実験の主要な3種類の対象者に関するそれぞれの成果について紹介。



「ただし課題は社会実装にある。こうした技術の先にある社会実装を視野に入れたときに今後どうしていくべきかを考えているところだ」と語った。



そして最後に池本氏が、地域の3D都市データを扱ってみての感想として、かたちデータと画像データがあるなか、かたちのデータに関してはすごく軽い一方、画像データは見た目が綺麗なほど大きくなり、それが100の建物などになると数GBものデータ量となるとして、「そこで高速であればデータのやり取りもスムーズに行えるようになるし、高速で移動すると背景がちかちかしてしまう問題も解消されるだろう。高速低遅延の通信が実現すれば、解決すべき新たな課題に着手できる。ハードやソフトの成長にとって重要な要素になるなと期待している」と述べた。


5人のトークを受けて大越氏は、"アプリケーション依存"、"アーキテクチャ全体で考える必要性"、"そうした技術面の課題の先にある社会実装"といった3つの課題が明らかになったとしたうえで、最後に「Beyond5Gという高速低遅延が実現した際に、過去の通信速度が遅かった時代を振り返って自分ならば何がしたいとなるか?」と各人に振り会場はほのぼのとした空気に包まれた。



この日の閉会挨拶に立った中澤氏は、「今後は一体何がどのように起きるのか、皆さんで考えを出してもらい、それぞれの立場で世の中に還元してもらえれば、それがスマートシティへと至る1つのパスになるだろう」と締めくくった。(小池晃臣)
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