正攻法か“無交換”か。GT500エンジニアに改めて聞く『450km』の考え方「40周を待つのが怖い」

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2023年05月02日 19:20  AUTOSPORT web

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2023スーパーGT第2戦富士 MOTUL AUTECH Z(松田次生/ロニー・クインタレッリ)
 かつてゴールデンウイーク恒例だった500kmレース、そして従来のスーパーGTの定番レース距離である300kmとは異なり、今季最初の450km戦に向けては、各陣営から「選択肢が膨大にあって戦略の自由度が高い」「良い意味でも距離が中途半端だから、作戦のパターンがたくさん採れる」など、戦略面での幅広さを指摘する声が挙がる。第2戦富士スピードウェイの搬入日に聞いた。

■戦略パターンは「単純に倍」

 昨季にも初の試みとして実現したこの450kmレースでは、パレードとフォーメーションラップを終え、決勝レースのスタート直後からフィニッシュまでに『最低2回の給油』が義務付けられている(セーフティカー運用中の給油は認められるも、義務回数にはカウントされない)。

 加えて第1戦岡山では天候不順にも祟られ、今季より導入された新機軸がレースにどんな影響をもたらすのか、その真の効能が見極められない条件となっていたが、本来は300kmレースならドライタイヤ5セット、450kmなら同6セットと、昨季よりそれぞれ1セットずつ持ち込みタイヤの本数が制限されることになっている。

 ドライバーの最低義務周回数(レース距離3分の1が基本)も絡み、普段の300km戦ではドライバー交代である程度のタイミングが決まっていたピット戦略も、今回の450km(100周)のうちどんな区切り方をするのか。均等割りの33周(×3)か、それとも給油のミニマムなのか。A/Bドライバーの順番や担当スティント数、週末の運用を含めたタイヤのライフ管理と交換の戦略、さらに燃料給油の量や変数要素(アクシデントやセーフティカー)など、考えるべきパラメーターは多岐に渡る。

 その点に関して、開幕戦を制した23号車MOTUL AUTECH Zの中島健監督兼チーフエンジニアは、通常の300km戦に対してピット作業の必要回数だけ、事前に想定した戦略パターンは「単純に倍ですよ」と明かす。

「みんな一緒だと思うんですが、ピットが2回前提でどのタイミングで入るかは、あらゆるパターンを考えて想定して、ここに来てると思うんですよね。基本的には(300kmに対して)単純に倍で。そこにあとはドライバーの順番が関わってくるかな」と中島監督。

 昨季の富士と鈴鹿でも、ドライバー交代のロスタイムも鑑みつつ「A/B/Aだったり、A/A/Bだったり、A/B/Bだったり」とあらゆるパターンが見受けられたが、仮に速さが異なれば速いドライバーを、もし速さがイコールなら燃費の良いドライバーを、その双方に差がない場合は「フリーや予選での調子も見て、元気なヤツを(笑)2回乗せれば良いですよね」と、連続スティントを基本に据える。

 一方、給油に関してはレース距離450kmを走破するのに必要な量はある程度決まってくるため、その量をどこで、どのように給油するのか。作業時間を考慮してその時点でのコース上のポジションを優先するなど、瞬間的な判断も問われる。

「たとえば(レース距離)全部で60秒ぐらい必要ですよ、と仮に考えた場合、その半分しか入れられないくらいのところでもし帰って来なくてはいけなくなった場合、最後にもう1回ピットに入らなきゃいけなかったりする。とくに500kmの時代はそこがカツカツでしたが、それが450kmだと50kmの分で少し動かせる。そういうイメージですかね」

 開幕の岡山では天候変化による突発的判断で、ライバルより早くウエットタイヤへの換装を決断し、それが成功を収めたNISMO陣営だが、そうした状況はFCY(フルコースイエロー)やセーフティカー導入の際にも迅速な読みが求められる。

「岡山の1回目のピットストップ、そこに近いものがあると思います。あのときも給油する、しないが分かれていたと思うんですけど、あれはきっとその瞬間、みなさんピットレーンを進みながらも判断している。そういう意味では、NISMOは監督とエンジニアがひとりでやってるので(笑)、誰かに確認しなくていいですからね」

 同じくタイヤ戦略に関しても、今季開幕前の富士公式テストは2日間とも雨に祟られたため「だから昨季をベースに『こんなもんだろう』って、きっとみんな考えている。その『こんなもんだろう』も、明日走ってみないとわからない」という中島監督に対し、ホンダ陣営の17号車Astemo NSX-GTを担当する田坂泰啓エンジニアは「2回のピットは義務付けられているけど、タイヤ交換は義務付けられていない」と異なる可能性にも眼を向ける。

「単純に100周を3分の1にして33周ずつ。たとえば40周まで行くと残りは60。いけなくはない」と、レース終盤に向けタイヤ無交換も想定する田坂エンジニア。

 実は昨年最初の450km戦ながら、大クラッシュが続き複数の赤旗に見舞われた第2戦では、その作戦を遂行していた数少ないチームのひとつがAstemo NSX-GT陣営だった。仮にドライバー交代の時間内に収まる給油時間を採用できれば、前輪で数秒、後輪で数秒、タイヤ交換作業が消えた分だけ、まとまった秒数を稼ぎ出すことができる。そうした要素も見越し、持ち込みタイヤでも均等割の3分の1しか持たないスペックは「最初から選んでいない」という。

「富士はそんなにタイヤには厳しくない。だから60周は持つんじゃないかな。ただし! その40周を待つのが怖い(笑)。いつセーフティカーが出るかわからないし、みんなそれを恐れてミニマムになる。だからもし33周から40周まで引っ張るとしたら、その間はもう『セーフティカー出るなよ〜』になるでしょうね」

 つまり決勝レースで3分割の均等割りよりピットを遅らせるクルマがあれば、タイヤ無交換の可能性も見えてくるということだが、その戦略でも第2スティントのレースペースに翳りが見えれば「最後、交換すれば良いだけ」で、さらに裏へ裏へと回ることでクリーンなスペースでラップペースを刻みやすくなるなど、レースの自由度が広がる可能性も生まれる。

 いずれにせよ「タイヤのコンディション次第。明日の公式練習を走ってみて、ペースがどうなるかを見てから」と、その点では両エンジニアともに口を揃える。450km先の正解を求めて、5月3日(水・祝)午前9時からのドライセッションが、その試金石となりそうだ。
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