観客の去ったサーキットでウイナー決定。『ピット2回義務規定』の対応に10チームが抗議を出したワケ

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2023年06月05日 17:40  AUTOSPORT web

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2023スーパーGT第3戦鈴鹿 レース直後に行われたGT500クラスの表彰式
 松田次生がドライブしていたMOTUL AUTECH Zの日立Astemoシケイン手前での大クラッシュにより、赤旗で途中終了となった2023年スーパーGT第3戦『SUZUKA GT 450km RACE』。当初の暫定結果では3号車Niterra MOTUL Z(千代勝正/高星明誠)が優勝となったが、それに対してGT500クラスの10チームから抗議が提出される事態が発生した。結果的に抗議は受理され、暫定結果の改訂版で19号車WedsSport ADVAN GR Supra(国本雄資/阪口晴南)が優勝となったが、それまでにパドックで起きていたことや、各チームから上がった意見について、まとめてみた(3号車を走らせるNDDP RACINGはその後控訴し、正式結果は保留中)。

 赤旗中断のアクシデントが起きたのはレースの全体の3分の2を超えたタイミングだった。450kmレースで義務とされている2回の給油を伴うピットストップを大半の車両が消化していたが、GT500クラスでは3号車Niterra MOTUL Zだけが2回目のピットを終えていない状態で、トップを走行していたところにアクシデントが発生して赤旗レース終了。彼らだけが義務を消化していなかったなかで、優勝を飾るという暫定結果が出された。

 これに対し、2位となったWedsSport ADVAN GR Supraの坂東正敬監督が声を上げ、他のチーム監督、関係者からも給油義務を消化していない3号車が1位になるという結果に対して疑問の声があがり、大会審査委員会へ抗議が出されることとなった。

 実は、同様のケースが昨年のスーパーGT第2戦富士で高星明誠がクラッシュしたときにも問題として挙がっていた。そのときは、規定周回が100周のうち、半分を過ぎた59周目にクラッシュが発生。その後、セーフティカー先導でレースを再開するも、フルポイントが与えられるレース周回数の75%には届かずにレース終了を迎えたため、2回の給油義務の消化有無は不問となった。

 昨年起きた高星のクラッシュ後、スーパーGTをプロモートするGTアソシエイション(GTA)が服部尚貴レースディレクター出席のもと記者会見を開き、そこで『仮に75%を超えてフルレースが成立していたら、2回の義務をこなしていないチームにはペナルティが課されます』というコメントはあったものの、今季のレギュレーションでは、こういったケースが起きた場合のペナルティについて明記がなかったことが問題となった。

 通常、レースで何か問題が発生した場合は大会審査委員会が判断をすることになるのだが、その決定プロセスについてさまざまな意見や疑問があがり、最終的にはGT500クラスで合計10チームが同じ内容で抗議を提出することになったのだ。

■ペナルティのルールが決まっておらず、曖昧な状態になっていた現状
「(当時の)ニュースサイトにも『仮に75%を超えてフルレースが成立していたら、2回の義務をこなしていないチームにはペナルティが課されます』という記事が出ていました。そうすると、今回の裁定に対して辻褄が合っていないことになります」と語るのはTEAM IMPULの高橋紳一郎工場長。昨年の富士大会で発生したアクシデント後に行われたGTAからの会見内容と合致していない点について指摘した。

「赤旗で中止になってしまうことは仕方ないですし、そういったリスクを背負ってレースをしています。ですので、2回目のピットを後に伸ばせば、そういった(ペナルティを受けるかもしれないという)リスクがあるわけですから」

「昨年の富士ではハーフポイントでしたし、レースも半分しか終わっていない状態でした。それに対し、今回はフルポイントを与えているので成立したということになります。ということは、2回の(ピットイン)義務は消化しなければいけないことになります。そうすると辻褄が合いません」

 この件については、星野一樹監督も同意見だったとのこと。監督ミーティングでも必死に意見を述べていたという。

 さらに、高橋工場長は昨年の一件から、しっかりとルール化されていなかったことも問題に挙げた。

「まずはルールを決めていなかったことが問題です。仮にルールになかったら、ルールを作るのが審査委員会です。そのために(サーキットに)来ている人たちですからね」と、高橋工場長。話を聞いたのは抗議を出した直後だったが、審査委員会の適切な判断に期待している様子が感じられた。

 同じく、暫定結果に対して抗議にいち早く動いていたのがDeloitte TOM’S GR Supraの山田淳監督だ。

「3号車に対しては何の文句もありませんし、彼らは同じレースをする仲間です。だから、彼ら(3号車)に対しては一切文句を言いたくないと思っています。ただ、そのジャッジの仕方に文句があるので、その部分に不服を申し立てました」と、最初に山田監督は抗議をするポイントについて強調した。

「(レースが)成立していたか否かではなく、(2回の給油義務があるという)守らなきゃいけないことを守っていない。でもルールがないので、このままの順位でいくとなったのですけど、昨年の富士(第2戦)の件で『赤旗で強制的にレースが終わることになってしまったときのペナルティをどうするのか?』という話が、部会で持ち上がったのにも関わらず、曖昧な決め方でここまで来てしまっていたのが……ちょっと許せないですね」

 抗議提出後も各所との意見交換など、落ち着かない様子だった山田監督。「どうなるのかハッキリするまで、ここに残ります」と、夜遅くまでサーキットで対応を続けていた。

 最初に出された暫定結果に対して、異議を唱えていたのはエントラントだけではなかった。GT500クラスの10チームにタイヤを供給するブリヂストンは抗議を出せる立場ではないが、各エントラントのもとへ回り、情報収集や抗議提出に対する意思確認。ときには自分たちの意見を必死に伝えている場面が見られた。

「この結果が通ってしまうと、純粋な勝負の場として成り立たなくなる」と、こちらも日が暮れるまで担当者たちがパドックを走り回っていた。

■「子供たちに“義務”という言葉の意味を我々がどう伝えれば良いのか?」脇阪寿一監督
「僕が言いたいのは“義務”とは? “義務違反とは”ということです。スーパーGTにはとてつもなく多くのファンがいて、応援してくれる子どもたちがいるなかで、義務を果たしていないクルマが優勝してしまうということに対して、どう説明をするのか? という部分です」と語るのは、DENSO KOBELCO SARD GR Supraの脇阪寿一監督。レース後も、TOYOTA GAZOO Racing系チームの監督やスタッフと険しい表情で話し、忙しく動き回っていたのが印象的だった。

 今回ここまで混乱している原因のひとつが、赤旗でレース終了になった場合、給油義務を消化していない車両に対するペナルティの有無がレギュレーションに明記されていなかったこと。「ルールでもジャッジできないことを審査委員の方々が裁量を考えてジャッジをするのが、経験ある審査委員の方々だと思います」と語る脇阪監督。そこには、このような想いがあった。

「審査委員の方々も努力していただきながら、いろいろな話し合いをされていることも理解しています。エントラントのみんなが抗議を提出したり、レースを良くするために話し合っているのは分かるのですけど、それをファンの方々がなかなか知ることのできる機会がないです」

「これで(審査委員会が)『ルールですから』ということで3号車が勝つことになったときに、うやむやな状態で皆さんに(結果が)伝わることになっています。何より、子どもたちに“義務”という言葉の意味を、我々がどうやって伝えれば良いのか。やはり、スーパーGTはファンあってのレースだと思います。ファンの方々が納得するリザルトジャッジというのは、どういったことなのかを考えていただきたいです」

 結果に対する抗議は行いつつも、審査委員会への敬意と配慮を忘れない脇阪監督。「抗議を提出したのと同時に、僕は審査委員会に行かせていただいて、みなさんにそういった話をしました。『貴重な意見をありがとう』と言っていただきました」とコメント。こちらも話を聞いたときは抗議提出直後だったのだが、審査委員会の再審議を期待している様子が伺えた。

 こうして再審議が行われ、給油義務を消化していなかった3号車に対して60秒加算のペナルティが出されるという暫定結果の改訂版が20時40分に出された。抗議した10チームをはじめ、そこに賛同した関係者らの声が届くかたちとなった。

 なお、これに対して3号車NDDP RACINGが抗議を提出。しかし審査委員会によって却下されたため、その後NDDP RACINGが控訴の意思を表明。控訴の内容については「ノーコメント」とのことで、19号車が優勝という暫定結果のまま、JAFモータースポーツ審査委員会の裁定を待つことになった。

 いずれにしても、大クラッシュによる赤旗中断による終了に加え、レース後の観客がいないサーキットでウイナーが替わるという後味の悪いかたちで終わってしまった2023スーパーGT第3戦鈴鹿。『ファンファースト』を掲げるスーパーGTが、今後のルール整備も含めて関係者間で徹底的に議論していただき、今回のような後味の悪い終わり方が起きないように、状況が改善していくことを願うばかりだ。

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