【ル・マン決勝直前プレビュー】新SC規則とトラックリミット“厳格化”で何が変わる?「勝負は最後の6時間」

0

2023年06月10日 17:50  AUTOSPORT web

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AUTOSPORT web

テストデーでのSC運用中の様子。コース上に隊列が差し掛かった際には、ピット出口の信号は赤となる
 日本時間6月10日23時にスタートを迎える2023年WEC世界耐久選手権第4戦ル・マン24時間レース。今年、第1回の開催から数えて100周年を迎えたル・マンは、記念イベントなども多く開催され、レースウイークの早い段階から例年以上に多くの観客を集めるなど、大きな盛り上がりを見せている。

 既報のとおり、予選ハイパーポールではフェラーリ499P勢が速さを発揮。これまでのところ、フェラーリには隙がないようにも見える。直前のルール変更により性能抑制措置を受けたトヨタGR010ハイブリッドがどこまでフェラーリと戦えるか、が決勝における争点となりそうだ。また、降雨予報も出ていることから、天候も大きなカギを握ることが予想される。

 ここではそれらの要素とは別に、今年変更されたルールとその運用の観点から、2023年のル・マン決勝においてポイントとなりうる要素を2点、確認しておきたい。

■夜でも「見られている」トラックリミット

 ひとつは、トラックリミット違反の厳格化だ。日本では“4輪脱輪”とも呼ばれる走路外走行は、テストデーからここまで、かなり厳しくとられており、セッション中のタイミングモニター最下段には、『●号車の●●(ドライバー)の●周目のラップタイムは、●●(場所)でのトラックリミット違反により取り消し』という文字がひっきりなしに、というかほぼ常に表示されている状態だ。

 カメラ等によるこの判定は、違反直後にモニターに表示、セクタータイムの横にも「TL(トラックリミット)」という文字が表示され、違反があった区間と削除対象となるラップタイムがほぼリアルタイムで分かるようになっている。

 ドライバーブリーフィングでは、トラックリミット違反は1ドライバーあたり10回目で警告、12回目からがペナルティの対象になると通達されたという。なお、13回目以降も違反数がリセットされるわけではなく、違反が重なるたびにドライブスルー等、何らかのペナルティが与えられる方向のようだ。

 24時間で11回以内の違反に留めるためには、ドライバーにはこれまで以上に慎重な走りが求められることになる。

 木曜日の走行前、トヨタGAZOO Racingの平川亮は、「いままでは人の目で見ていたので、夜は見えてない部分もあったと思うのですが、今回は夜のプラクティスを見ていても、暗いところでもしっかりと(違反が)とられているので、『あれ、ちょっと違うなぁ』と」と今年の“変化”を語っていた。

「24時間で12回は結構少ないので、違反しないように注意しなくてはいけません。最初のスティントで1〜2回やってしまうと、不安になってしまうと思うので、その(トラックリミット違反にならない)走り方のリズムが、決勝では大事になってくると思います」

 平川はこの木曜日からリズムを切り替え、勢い余ってトラックリミット違反を犯すことがないような走りに集中したという。

 そもそもトラックリミットは“安全のため”にある規則であり、その範囲内で各ドライバーたちが戦う姿が見られることを期待したいが、“ギリギリを攻める”のもレースの醍醐味。このあたりの“バランス”が決勝中にどう推移するか、ひとつの注目ポイントだろう。

■SC運用変更で「IMSAみたいなレース」になる?

 もうひとつ、今年の100周年大会決勝のカギとなる可能性を秘めているのがセーフティカー(SC)ルールの変更だ。

 すでに発表されているスポーティング規則によれば、『パス・アラウンド』と『ドロップ・バック』と呼ばれる手順が導入、SCが介入している間にクラスごとに隊列を整理し、各車両の位置やライバル間のギャップになるべく不公平が生じないような運用が目指される。

 SCが導入されるとコース1周が13km超と長いル・マンでは、3台のSC隊列がコース上の別の地点から同時に介入する。これが隊列の“分断”を招くことでギャップが広がり、接戦が損なわれるという問題点が指摘されていた。

 このため今年の新ルールでは、3台のSC隊列を1台へと統合、さらに『SCの後方かつ各カテゴリーのリーダーより前方に位置する車両』はSCを追い抜くことが許され、サルト・サーキットを1周した後、隊列の最後方に付くことになる。ここまでが『パス・アラウンド』だ。

 パス・アラウンドが終了すると、レースディレクターは次に『ドロップ・バック』という手順を開始し、隊列をクラス別に整頓する。まずLMP2車両がコースの右側へと移動し、ハイパーカーとLMGTE車両がこれを追い越す。次にLMGTE車両が右側へと移動してハイパーカーとLMP2車両に抜かれ、ハイパーカー・LMP2・LMGTEという順でクラス別に隊列が整理された後、レースが再開される。

 なお、SC運用中であっても、3台が1台の隊列へと統合される前のタイミングであれば、ピットインは許される。規則書によれば、このSC隊列の統合とパス・アラウンド、そしてドロップ・バックは、レースの最後の1時間には実施されないことになっている。

 この手順はすでに6月4日のテストデーでも運用が試されているが、カギとなるのはクラス内で先頭車両とのギャップが解消されること。クラストップにラップダウンにされない限りは、SC出動によって実質的にギャップがリセットされることになる。

 このルールで戦い方が変わると指摘するのは、Dステーション・レーシングからLMGTEアマクラスに参戦している藤井誠暢だ。

「IMSAみたいな、最後まで接戦のレースになると思います」と語る藤井は、“最後の6時間”が勝負になると見ている。

 これにより、ブロンズ(アマチュア)ドライバーを起用するLMGTEアマ(ならびにLMP2プロ/アマ)クラスの戦い方には、変化が生じる可能性があるという。

 これまではプロ(プラチナ・ゴールド)とシルバードライバーで日曜朝まで飛ばし、そこまでのSCなども絡めてギャップを築いた後、ブロンズドライバーの最低乗車時間を日曜日に多く消化する、というのがひとつの上位進出パターンだった。

 しかし、今年はSCルール変更により最後まで接戦が続く可能性があることから、どの陣営もプロやシルバーを“最後の勝負”に温存するのでは、というのが藤井の見方だ。

「まさにデイトナ(24時間)になるんじゃないですかね。最後の6時間まで、分からないと思います。基本的にはどの陣営も、ラストスパートに余力を残しておくはずです」

 反対に、土曜日の陽があるううちに、ブロンズドライバーが乗る時間帯が増える可能性が高いという。そこでギャップができても、1周以内ならSC出動の際にリセットされるからだ。

「ただ、このレースはスローゾーンがありますからね」と藤井。サーキットを9つのゾーンに分け、アクシデントが発生した区間だけ80km/h制限を設けるル・マン独自のスローゾーン・ルールは長時間運用されることも多く、『よほどの事故でない限りSCにならない』傾向もある。

「みんな、『このSCルールなら……』と思っていろいろ想定しているかもしれませんが、実はSC出ないかもしれないですしね。あとは今年、トラックリミットが非常に厳しいので、レースはあまり攻めずに、余裕をもって走る傾向になるかもしれません」

 これらトラックリミット、そして新SCルールはどんな作用を及ぼすのか。各クラスの勢力図や戦略と絡め、決勝レースでの重要な要素となる可能性は高そうだ。

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定