『ルパン三世』原作はアニメと大違いの”無慈悲ぶり” イメチェンしたのは”宮崎駿”が関与していた?

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2023年06月20日 08:01  リアルサウンド

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※本稿では、『ルパン三世 第10巻 ルパン葬送曲』(モンキー・パンチ/双葉社)のネタバレを含みます。同作を未読の方はご注意ください。


 『ルパン三世』は『ドラえもん』や『サザエさん』と並ぶ極めて長寿の作品だ。作者のモンキー・パンチ氏は既に鬼籍に入っており、原作のストックはとっくに尽きているが新作のアニメや原作設定を踏襲した漫画が毎年のように発表されている。


(参考:【漫画】「ルパン三世 異世界の姫君(ネイバーワールドプリンセス)試し読み


 新しく発表される作品には世相も反映されており、アニメ『ルパン三世 PART5』はネット社会に生きるルパンたちが描かれ、スピンオフ漫画『ルパン三世 異世界の姫君』では近年のライトノベルで流行りの異世界転生要素が盛り込まれている。


 さて、ところで、なのだが、『ルパン三世』は元々どんな作品だったのだろうか? 今回は『ルパン三世』の原作、およびその原典である怪盗紳士アルセーヌ・ルパンについて由無し事を連ねていくとする。


■実は法的に怪しかった『ルパン三世』


 ルパン三世は伝説の怪盗アルセーヌ・ルパンの孫との設定だが、アルセーヌ・ルパンは出所のはっきりしたフィクションのキャラクターである。


 「アルセーヌ・ルパン」シリーズの生みの親であるフランスの作家モーリス・ルブランが亡くなったのは1941年だ。


 『ルパン三世』の連載は『漫画アクション』で1967年に開始されたが、連載当時、「アルセーヌ・ルパン」シリーズはまだ著作権の保護期間中だった。


 加えて原作第1話には明智小五郎という名前の探偵が登場する。


 探偵という設定で名前が明智小五郎とくれば誰もが江戸川乱歩氏の推理小説を思い浮かべるものと思うが、江戸川乱歩氏が亡くなったのが1965年なので、こちらももちろん著作権保護期間中である。


 半世紀以上前の話なので、今とコンプライアンスに対する意識にも大きな差があったのだろう。


 このルブランの著作権と『ルパン三世』の件についてはフランス大使館がモンキー・パンチ氏の訃報に際し2019年4月18日にtwitterで「ルパン三世はフランスの作家モーリス・ルブランの代表作「アルセーヌ・ルパン」シリーズの主人公、怪盗ルパンの孫という設定ですが、実はフランスでは著作権の関係で「エドガー」という名前で親しまれています」と呟いている。


■探偵アルセーヌ・ルパン アルセーヌ・ルパンとシャーロック・ホームズ


 「アルセーヌ・ルパン」シリーズは荒唐無稽な冒険小説としてのイメージが一般的だが、同シリーズにはミステリー要素もある。


 トリッキーな暗号をたっぷり含んだ『奇巌城』はシリーズを代表する人気作だが、連作短編集『八点鐘』、『バーネット探偵社』などではアルセーヌ・ルパン自身が謎を解く探偵として活躍する。


 アニメ『ルパン三世 PART5』第17話「探偵 ジム・バーネット三世の挨拶」でルパンが富豪の未亡人に依頼されて殺人事件を捜査するが、この時ルパン三世が名乗った偽名「ジム・バーネット」は原典ルパンが『バーネット探偵社』で名乗っていた偽名である。


 ところでルパンが名乗ったジム・バーネットは「イギリス人の探偵」との触れ込みだが、19世紀から20世紀初頭に活躍したイギリス人探偵と言えば、多くの人の脳裏を「あの人物」がよぎったはずだ。


 そう、世界一有名な探偵シャーロック・ホームズである。


 モーリス・ルブラン(1864-1941)とホームズの生みの親コナン・ドイル(1859-1930)は同時代の人物。


 どちらも当時を代表するエンタメ文学の人気作家であり、フランスとイギリスはドーバー海峡を挟んだ隣国同士で、領土争いや王位継承権を巡って何度も戦争してきた良くも悪くも深い仲である。


 意識しないはずがない。加えて当時は知的財産権という考えが希薄だった。


 ここまでくれば容易に想像がつくと思うが、ルブランは自作『遅かりしシャーロック・ホームズ』で(無許可で)ホームズを登場させている。           


 知的財産権問題かホームズファンから抗議を受けたのか、その両方なのか不明だが、以降、シャーロック・ホームズはシャーロック・ホームズとしては登場しない。


 その代わりに「エルロック・ショルメ」という「誰なのかはお察し」のイギリス人探偵が登場する。


 野暮だと思うが、付け加えると「エルロック・ショルメ(Herlorck Sholmès)」は「シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)」のSの文字を入れ変えたアナグラムである。


 さらにホームズの親友で助手のワトソンはウィルソンとして登場する。


 抜け目ないドイルの原典ホームズに比べるとショルメはちょっと抜けていて、描写されている風貌も大分違う。


   ただし、『ルパン対ホームズ』では一応、ホームズに花を持たせる結末にしておりルブランにはドイルに対する敬意がある程度あったものと思われる。


 アニメ『ルパン三世 PART6』にシャーロック・ホームズが重要なキャラクターして登場するが、これは何の根拠もないアニメオリジナルの設定ではなく、ルブランの原典へのオマージュであることはもはや説明するまでもないだろう。


■初期の原作『ルパン三世』


 アニメではコミカルな雰囲気のあるルパン三世だが、原作のルパン三世は必要なら躊躇なく殺人を犯す冷酷さが描かれており、かなり雰囲気が異なる。露骨な性描写もあり、ファミリー路線の今の『ルパン三世』しか知らないと中々に驚きの内容である。


 第1話にお馴染みの面子である次元大介、峰不二子、石川五ェ門が登場しないことにも面食らうかもしれない。


 五ェ門の登場は特に遅く、次元、不二子が単行本1巻の時点で初登場を果たしているのに対し、単行本3巻収録の第28話『五右ェ門登場』でようやく初登場となる


 しかも初登場時はルパンの仲間ではなく敵だった。


 名物キャラである銭形警部は連載第一話から登場し、その後も頻繁に登場する。


 実はルパンと銭形は、同じ大学の先輩と後輩(銭形の方が3年先輩)であることが原作には描写されている。(原作第64話「義賊部々員」)


 このエピソードには不二子も登場し、彼女も同じ大学だったことがわかる。


 もはや腐れ縁である。


 ルパン、次元、不二子、五ェ門、銭形が「いつメン」として定着するのはテレビアニメからで、テレビアニメのいつメンなフォーマットは原作に逆輸入される。


 『新ルパン三世』ではこの5人がはっきりレギュラー化しており、第1話「ルパン一家勢揃い」は5人が揃って登場する象徴的なエピソードになっている。


■『ルパン三世』の最終回


 『ドラえもん』が連載誌を変えながら四半世紀以上続き、結局、作者死去で未完終わったのに対し、『ルパン三世』の連載期間は2年弱と思いのほか短い。


 双葉社の単行本は続編の『ルパン三世 新冒険』と『ルパン三世』を合併させる形で収録しており、最終第10巻の最終話は『ルパン三世 新冒険』の最終話である「ルパン葬送曲」が収録されている。


 このエピソードでは最後のページにはっきり「完」の一文字があり、単行本ではおまけの「ルパン資料篇」で「本十巻をもって一応完結とする」とルパンの姿を借りて作者が語っているため、同エピソードを原作の最終話とするのが妥当であろう。


 「ルパン葬送曲」は謎の指揮者タガニーゼにルパン一味が狙われるものの、タガニーゼの正体は変装した銭形警部(タガニーゼ=ゼニガタの逆さ読み)で、最終的に銭形がルパンに正体を見破られて逃げられるいつものお決まりのパターンで終わる。


 「ルパン葬送曲」は、『ルパン三世 PART2』としてアニメ化されているが、大幅なアレンジが加えられており、ほぼ別物である。


 『ルパン三世』のアニメは今も断続的に制作されており、『ルパン三世 PART6』が2022年に放送終了したばかりだ。


 アニメには各シリーズごとに最終回があるが、特にその中でも1977年から1980年に放送された『ルパン三世 Part2』の最終回「さらば愛しきルパンよ」は人気投票企画で常に上位に名前を連ねる人気エピソードでもある。


 このエピソードの演出・脚本を手掛けた「照樹務」はアニメ界の御大・宮崎駿監督の別名義でルパンの義賊的な要素が前面に出た、同監督の『ルパン三世 カリオストロの城』にも通じるものがある。ファミリー路線『ルパン三世』の代表例と言えるだろう。


文=ニコ・トスカーニ


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  • 大隈ルパンが007路線やMIP路線なら、宮崎ルパンはインディジョーンズ路線かな。
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