後半戦でヤマハ、ホンダは巻き返しなるか。マルケスのKTM移籍はただの噂!?/MotoGPの御意見番に聞くオランダGP

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2023年06月30日 18:11  AUTOSPORT web

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2023MotoGP第8戦オランダGP スプリント
 6月23〜25日、2023年MotoGP第8戦オランダGPが行われました。開幕戦から、そして直近3連戦すべてでドゥカティが頭角を現しましたが、セッションによってはKTMやアプリリア、そして日本メーカーも上位を走る姿が見られました。サマーブレイク明けとなる8月の第9戦イギリスGPからは勢力図は変わるでしょうか。

 そんな2023年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム第10回目です。

※ ※ ※ ※ ※ ※ 

今回は夏休み前の最後の一戦でした。これまでのドゥカティ一強という構図に少し変化が見られたようですが、本当のところはどうなんでしょう?

 スプリントでのヤマハのファビオ・クアルタラロ選手やKTMのブラッド・ビンダー選手がドゥカティに伍して走っていたのを見ると、そんな感じもしないではないけれど、依然としてドゥカティとの差はかなりあるね。

 差が縮まって見えたのは、サーキットの特徴が影響していたんじゃないかな。

サーキットの特徴ですか? そういえばTT・サーキット・アッセンは起伏が無くて前回のザクセンリンクとは大違いですね!

 オランダには山が無くて国土はほぼ平坦だからね、海面より低いところもあるし(笑)

 それも大きな特徴ではあるけれど、実はアッセンはムジェロに匹敵する高速コースなんだね。ストレートが短いから速いマシンでも最高速は310km/h位だけど、1周の平均スピードは175km/hと他のサーキットが160km/h程度なのに比べて断トツに速いんだよ。

 最近のストップ&ゴーの多いサーキットと違って公道の名残のある複雑なレイアウトで、中・高速コーナーも多いからライダーにとって腕のみせどころ。つまりエンジン性能の差が出にくいサーキットなんだな。

 スプリントもレースもトップ争いの集団は、かなり膠着した状況で周回を重ねていたよね。抜くのも簡単じゃないので、プレッシャーを与えて誰かがミスを冒すのを虎視眈々と待つみたいな(笑)

レース前にヤマハのクアルタラロ選手が、「ここで速く走れなかったら残りのサーキットでも速く走れるはずがない」というような意味のコメントをしていたそうですね。

 ヤマハにとっても自分にとっても相性の良いサーキットというイメージがあるからね。だからこそ、ここで結果を出したいという思いと、ここでダメなら本当に今シーズンは絶望的ですよヤマハさん、というメッセージを込めたんだろうね。

 それにしては、レース前のトレーニングで左足の親指を骨折とか、プロのライダーとしてどうなの? と突っ込みたいところだけど、予選結果もまずまず。スプリントはスタートもまあまあ良くて4位フィニッシュして、ビンダー選手のペナルティで繰り上げ3位表彰台とかツキも味方したようだね。

 どうやらそこでツキは使い果たしたらしく、レースはスタートで出遅れて、中団に飲み込まれて早く抜け出そうともがくうちにあっという間に転倒。それも同胞のヨハン・ザルコ選手に抜かれそうになって冷静さを欠いたようだから、何とも情けない結末だったな。

なんだかツキがあったのか無かったのか、マシンの競争力の総括としてはどうだったのか微妙なところですね。ツキ、と言えば今回一番ツキに見放された感じのブラッド・ビンダー選手でしたが、トラックリミット違反はどのように判定しているのですか?

 スプリントの最終ラップでトラックリミット違反で+3秒のペナルティで、表彰台が逃げて行ったと思ったら、レースでも同じことの繰り返し。これはまさしくMotoGPの珍記録だね。

 レースでも同じ+3秒のペナルティじゃないところが、例によって不可解なスチュワードの裁定だけど、ポジションをひとつだけ下げたのがせめてもの温情だったりして(笑)

 トラックリミット違反は、以前はサーキットの常設カメラ(CCTV)で画像認識ソフトとオペレータによる判定をしていたようで、F1は未だにこの方式らしい。MotoGPはより正確性と公平性を追求して2021年からグリーンゾーンに圧力センサーを敷設しているらしいね。

 スチュワードが判断していた時代は前後タイヤがグリーンゾーンを追加したら違反とカウントされていたけれど、圧力センサーは前後の判断は出来ないから、どちらかが通過したら一発アウトと容赦ないんだな、これが。

もうひとり、すっかりツキにも見放された感じのライダーがいますよね。来シーズンに他メーカーへの移籍の噂もちらほら出ているようですが。可能性はあるんでしょうか?

 マルク・マルケス選手が前回欠場した時点で、アッセンも難しい状況だと思ったけど、データ収集の為に出ると宣言して実際に予選まで走ったのには正直言って驚いたね。

 しかしあの2回の転倒シーン、特に2回目は完全に集中力を欠いた結果の追突だから、心身共にボロボロでまともに走れる状態ではなさそうだね。この1カ月でどの程度回復できるのか分からないけど、走るたびにマシンを修理していたメカニックももう限界だったに違いないよ。それにしても、よくスペアパーツが尽きないものだと感心するよ(笑)

 移籍については、これに限らずあれこれ根も葉もない噂が流れるタイミングなんだけどね。今回はホンダに近い筋からKTMへの移籍の可能性を示唆したコメントが流れていて、ホンダからも去るものは追わずとも取れるようなコメントが出ていたので、慌ててマルケス選手が否定していたけど、そこは信じていいと思うね。

 そもそもビジネスとして考えると、KTM側にもマルケス側にもメリットが無い。客観的に見てマルケス選手の不調はマシンのせいだけじゃなくて、彼自身の賞味期限が切れかかっっている事の証でもある。

 だからと言って、プライドがあるから契約金の大幅なディスカウントは出来ない。KTMとしては大金を出して賞味期限切れかもしれないライダーを雇えるか、しかもホンダ色が強すぎて引退後にKTMのブランドアンバサダーとして活用する旨味も無いという、投機の対象としてはリスクの方が大きい。

 KTMのメインスポンサーとマルケス選手のパーソナルスポンサーがRed Bullだからという単純な発想だと思うけど、そもそもF1チームのサプライヤーとして最重要パートナーでもあるホンダに対して、Red Bullが敵対的ともとれる行動に出ると考えるのは全くナンセンスだと思うね。

最後にレース結果に戻りますが、8台リタイアというサバイバルゲームでの順位は評価が難しいですが。日本メーカーのマシンの巻き返しの可能性はあるんでしょうか?

 今回はホンダの中上貴晶選手が健闘して8位、ヤマハのフランコ・モルビデリ選手が9位という事だけど、上位の脱落が無ければ、3つ4つポジションは下だろうね。これをどう見るかだけど、ひとつ言えるのは両社の開発陣はこのふたりに対して丁寧なヒアリングをした方が良いという事。

 どちらもエースライダーが超天才でしかも空回りしているので、有意なデータが入手できない。となると普通の天才であるこのふたりから得られるデータやコメントは、いまやとても貴重なんだよね。

 聞くところでは、セットアップに集中できるように、予選のQ1とQ2の振り分けにP1のタイムをカウントしないという提案はドゥカティにあっさり棄却されたらしいしから、セットアップに時間を要する日本メーカー(特にヤマハ)の苦境は続くね。

 現行規則では初期状態をいかにしてそのサーキットの最適値に近づけるかが勝負なので、本来ならマシンに大きな変化が無い事はメリットなのにそれが生かせない状況が問題。開発の遅れを嘆くばかりではなく、現状与えられた環境で、長所を生かして最大の結果を出すにはどうしたらいいか、全員で知恵を絞ることが、この夏休みの宿題だな。

 なまじ新しい物を持ち込んでも混乱を招くだけだよ。

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