軽EVでも遠出できる? 日産「サクラ」オーナーが挑戦!

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2023年07月04日 11:51  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
電気自動車(EV)は長い距離を走るのが苦手で、特に軽自動車のEVは通勤や買い物などの近距離移動に適したクルマであるとの評判を聞くことがある。果たして本当なのだろうか。軽EVで旅行するなんて無謀? 日産「サクラ」のオーナーからレポートが届いた。


○東京〜御殿場を軽EVで往復!



日産の軽EV「サクラ」の納車から8カ月が過ぎた。その間の走行距離は約3,000kmだ。月平均400kmに欠けるくらいで、このままいくと年間5,000km前後の計算となる。そもそも私はクルマでの移動がそれほど多いわけではない。以前に乗っていたハイブリッド車(HV)でも同様の利用状況だった。


EVでの移動の多くは都内から通う千葉市の乗馬クラブへの往復で、片道60数kmである。往復でも130kmを切る距離なので、フル充電しておけばサクラでも問題なく走り切れる距離だ。



冬場にスタッドレスタイヤを装着した際も、タイヤの違い(スタッドレスタイヤはグリップ力が高いので燃費に影響が出る)で電費は悪化したが、経路充電は不要だった。暖房については、電力消費を抑えるため「寒冷地仕様」のオプションを装着している。シートヒーターとハンドルヒーターを使えるので、暖房は足元に適度な温風を必要なときに出す程度。部屋全体を温めなければならないほどの寒さを感じることはなかった。



千葉県袖ケ浦市で取材があった際には途中の道の駅で経路充電をした。メーター上は経路充電なしでも往復できる距離だったが、帰りが夜になった場合に充電が必要になったら帰宅が遅くなると思ったので、あらかじめ余分な充電をしておいた次第だ。日産の充電カードの契約(ZESP3 プレミアム10)では月に10回分(10分/回)の充電料金が無料なので、使わない手はないという思惑もあった。


そんな軽EVオーナーの私が、ついに遠出をすることになった。6月に静岡県の御殿場へ取材に行くことになったのだ。自宅から御殿場までは100kmを切るくらいなので充電なしでも問題なく到着できるはずだが、少し心配だったのは、東名高速道路の大井松田インターチェンジ(IC)から足柄サービスエリア(SA)までの間、それなりに急勾配の登り坂が続くこと。どのくらい電力を消費するかの見通しが事前につかなかったので、登り坂を走っている間は充電残量メーターの減り具合が気になった。



実際に走ってみると、大井松田ICから御殿場IC手前の足柄SAまででバッテリー残量は10%強の消費だった。サクラは20kWhのバッテリーを積んでいるから2kWh強を消費したことになる。足柄SAに到着したときの充電残量は48%。あと数kmで御殿場ICだから、その先の目的地までの移動を含め、往路は途中での経路充電をせず到着できる計算になる。



もし、その先の箱根方面へ続けて向かうなら、一般道での登り坂が続くので、いつ追加の経路充電をするかをあらかじめ検討しておくといいだろう。今回の取材は御殿場IC近くの会場だったから、48%の残量があれば充電なしで帰宅できる可能性もあった。なぜなら都内への復路は、御殿場から大井松田までほぼ長い下り坂が続くので、電力消費は少ないと考えられたからだ。バッテリー残量48%での走行可能距離は83kmの表示だった。



サクラのバッテリー容量は20kWhだから、48%というと9.6kWhが残っていることになる。私の経験として、冬場を通じての平均電力消費は9.9km/kWhだったから、掛け算すると走れる距離は95kmだ。つまり、ゆとりを残して帰宅できる可能性が高かった。



とはいえ今回は初の御殿場往復なので、足柄SAで30分の急速充電をした。その結果、充電量は91%まで回復。メーター上の走行可能距離は155kmになった。


○軽EVで高速道路を走るなら?



EVの電力消費は走り方に左右される。今回の走り方もここでご報告しておきたい。



足柄SAまでは、市街地では「エコモード」を使用し、シフトはより回生が効く「B」に入れて、ワンペダル式の運転操作を可能にする「e-Pedal Step」を使った。冬場もこの条件で走ってきた。



高速道路に入るとシフトは「B」から「D」に変更した。回生を効かせ過ぎず、より滑らかな走行を得るためだ。余計な電力消費を抑えるため、「プロパイロット」のACC(前車追従型クルーズコントロール)も利用した。速度設定は81km/hだ。

なぜ80や85ではなく81km/hなのかというと、この速度に設定しておけば80km/h以下になることがなく、交通の流れに迷惑を及ぼす懸念が少ないからだ。下り坂などでは速度が高まる場合があるが、それでも82km/hくらいまでしか上がらないので余分な電力消費が抑えられる。



高速道路を100km/hで運転してきた人にとって、81km/hでの走りでは欲求不満になるのではないかとの懸念があるかもしれない。だが、軽自動車に乗って走行車線をゆっくり走ることに、それほど不満が募ることはないのではないかというのが私の考えだ。EVになれば軽自動車であることを忘れるほど快適に移動できるが、一方で、かつては軽自動車の最高速度は80km/hと定められていた時代もあり、周囲のクルマも、黄色のナンバープレートを装着した軽自動車が左端の走行車線を80km/hほどで走っていても、あおるようなことはめったにない。



さらにいえば、空気抵抗は速度の2乗で増大する。速度が2倍になれば、空気抵抗は4倍に増えるのである。80km/hと100km/hでは、空気抵抗の負荷が2割増し以上になるのだ。それによる燃費の悪化はHVに乗っていた時代にも実感していて、当時も私は基本的に80〜90km/hで走行していた。


ことにEVでは、ほどよい速度で走ることが電力消費にも好結果をもたらす。もし100km/hやそれ以上で走ることにより、空気抵抗の増大で電費が悪化し、早めに経路充電(30分の急速充電)をしなければならなくなるのであれば、80km/hで走って経路充電の回数を減らす方が、結果的に目的地に早く到着できるだろう。



ちなみに今回は、東名高速道路に入った瀬田IC付近の情報表示板に「御殿場ICまでの所要時間:70分」と表示されていたが、81km/hにACCを設定した結果、足柄SAまではほぼ表示通りの所要時間で到着できている。速く走っても、前のクルマにつかえれば速度を落とさなければならない。逆に平均速度を上手に保てれば、それほど所要時間が増えずに済むということだ。



今回はまた季節もよく、空調を使わずに走れたことも電費をよくする要因のひとつとなったはずだ。



さて、帰りは御殿場ICから大井松田ICまで下り坂が続く。その間のバッテリー電力の消費は、およそ3〜4%だった。走行中なので記録を取ることはできなかったが、メーターの推移を見ていればわかる。登りに比べ、この区間での下りの電力消費は約1/3で済むことになった。つまり、EVの一充電走行距離は高低差の影響を受けやすいということだ。



往路の足柄SAで充電してから御殿場の目的地へ向かい、それから帰宅するまでの走行距離は95kmだった。帰宅した際のバッテリー残量は51%になっていた。



往路の足柄SAまでに比べ、そこから帰宅するまでの走行距離はより長くなったが、91%の充電状態から帰宅時の51%の残量を引けば40%になり、行きの足柄SAまでの52%という電力消費よりも少ない電力で帰れたことになる。東名高速道路の東京への下り線は、全体的にも下っていく傾向なので、その効果が出たのだろう。



メーター表示の平均電費も、行きの9.9km/kWhから10.1km/kWhに改善していた。下り坂の影響で電費が向上したことは明らかだ。

○まとめ:軽EVは長距離移動に使えるのか



走行距離は往復の合計で183kmだった。電力消費は行きの52%と帰りの40%を足せば92%となり、当初の想定通り、ぎりぎりではあるが、途中で経路充電をしなくても帰宅できたことになる。もちろん、電欠して路上に停止してしまう危険を避けるうえで、余裕をもって経路充電をすることは大切だ。その経路充電も、必ずしも30分しなければならないわけではない。日産の充電カードの契約をひとつの参考にすれば、10分ごとに課金されるので、充電状況を見ながら10分とか20分で切り上げてもよい。



いずれにしても、今回は結果として、一充電で183kmを走れる実力を確認できた。これは、サクラの諸元値である180km(WLTCモード)を上回る。もちろん、今回は季節もよく空調を使わなかったが、EVに限らず、クルマの諸元値は空調を使わない状態での検査値だ。



EVは近距離用のクルマで、長距離移動にはHVやプラグインハイブリッド車(PHEV)の方が適しているといわれることがある。またEVのなかでも、軽EVは日常の近距離用だとの評もある。しかし今回の経験からすれば、自宅から100km圏内であれば経路充電をしなくても日帰りの小旅行ができるし、もし1泊するなら、宿に200ボルトの普通充電器が備えられていれば、寝ている間に帰りの電気を充電しておけるので、もっと遠くまで経路充電なしで出かけられることになる。つまり、EV旅行ができるということだ。


今回はサクラの電費のよさが確かめられたわけだが、これには軽自動車であるがゆえの車両重量の軽さも効いている。WLTCの諸元値を比べると1,080kgのサクラは8.06km/kWh、登録車の日産「リーフ」は1,520kgで6.45km/kWhだ。



軽自動車か登録車かの違いだけでなく、同じ登録車でも車載バッテリーの容量が大きく、車両重量が重いEVほど電費は悪くなる。リーフでも、1.5倍のバッテリー容量となる「リーフ+」の車両重量は上級グレード「G」で1,680kgとなり、WLTCの電費は6.21km/kWhへと悪化する。



EV選びのコツは、自分のクルマの利用形態に合わせた適切なバッテリー容量を見極めることだ。もし長距離移動をするのであれば速度を上げ過ぎず、また経路充電を視野に移動時間を考えることが重要となる。この点で、もし軽EVを選択肢に入れるのであれば、これまでのエンジン車やマイルドハイブリッド車(MHEV)などの軽自動車と違った視点で価値を判断するとよいだろう。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)

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