佐藤かよ「いちいち傷つくのはやめよう」韓国移住で大きく変化したトランスジェンダーとしての意識

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2023年07月08日 21:10  週刊女性PRIME

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佐藤かよ

「20代のころアイドルの『少女時代』に憧れて、以来韓国女性が私の理想の女性像になっていました。韓国コスメや美容、ファッションが大好きで、暇さえあればチェックしています(笑)」

 と言うのは、モデルでタレントの佐藤かよ(34)。艶やかな黒のロングヘアに、肌は白く透き通り陶器のような美しさ。スラリと引き締まった長身に長い手脚とスタイルも完璧で、まさに韓国美女といった雰囲気だ。20代のころとはずいぶん印象が変わったが、

「海外でさまざまな経験をして、私も少しは大人になったのかもしれません」

 とふわりと笑う。

「あなたは変な子だから」

 地元・名古屋で雑誌の専属モデルとしてデビューし、その美貌から人気は瞬く間に全国区へ。CMやファッションショー、バラエティー番組と幅広く活躍していたころ、30歳を境に韓国へ移住。テレビから突然、姿を消した。

「14歳のときから女性として生きてきて、あのとき番組でカミングアウトしたことでまた新たなスタートができたと思います。ただそれも今振り返ってみて言えること。あのころは私自身まだすごく子どもで、環境の変化に追いついていけずにいた。精神的に弱くて、いちいち傷ついていた。いろいろ悩んだり考えたりしながら仕事を続けていたけれど、それにちょっと疲れてしまって……」

 バラエティー番組で自身がトランスジェンダーであることを公表したのは21歳のときのこと。世の反応はおおむね温かいものだったが、なかには心ない言葉を投げてくる人もいた。それはまた彼女が幼少期から味わい続けてきたものでもあった。

「自分は普通の男の子とは違う種類の人間で、何もしなくてもおかしな目で見られてしまう。子どもながらにそれはわかって、自分は人に嫌われる人間なんだと思っていました」

 当時はまだLGBTQやトランスジェンダーに対する認識も理解も乏しかった時代。

「幼稚園のとき“あなたは変な子だからうちの子と遊ばないで”と言われたことも」

 と、悲しい経験は数多い。

「自分に自信が持てず、いつしか人の顔色ばかりうかがう大人になっていました。それは友人関係でも恋愛関係でもそう。でもタレントというのはテレビで自分のことをお話しする機会が多く、“どういう言い方をすれば人から嫌われないだろう?”“このひと言がきっかけで炎上してしまうのでは?”という怖さやプレッシャーを常に感じていました」

 加えて20代後半になると、タレントとしての危機を感じるようにもなった。芸能界を見渡せば、才能ある人材が次々現れる。彼らと比べ自分には何があるのか、この先何ができるのか。

幼稚園から守ってきてくれた菜々緒

「いくら悩んでも答えは出なくて。ならばいっそ環境を変えよう」

 と、日本脱出を決意。韓国を訪れる前に、パリに向かっている。

「海外でモデルとしてやっていきたい、という夢もありました。だけどゼロからのスタートで、簡単なことではなかったし、絶望も味わいました」

 一つひとつエージェントの扉をノックし、必死に売り込みを続けた。努力のかいありついに事務所が決まるが、

「パリでも韓国のことばかりチェックしている自分がいて。やっぱりフランスじゃなかった」

 と、韓国の水が合うのではないかと考え、移住を決める。

「韓国にはいつか住んでみたいと思っていたので、すごく楽しかったですね。毎日地元で人気のカフェやご飯屋さんに行ったり、ドラッグストアに寄ってはコスメをあれこれ試してみたり……。韓国語も日常会話は困らない程度に話せるようになりました。日本から韓国に遊びに来る友達も多くて、ここぞとばかりに美味しいお店を紹介していました(笑)」

 その1人が女優の菜々緒。幼稚園からの親友だという。

「菜々緒ちゃんは弱かった私のことを助け、ずっと見守り続けてきてくれました。だからなのか、私の変化にも気づいたようです。韓国でおすすめの美味しいユッケビビンバのお店に案内したら、ひとりでお店を開拓して、友人に紹介する姿に対して“あれ、かよが何だか大人になってる!”と言ってくれていました」

 韓国では出会いもあった。友人の紹介で韓国人男性と知り合い、真剣交際に発展したが、今は別れている。

「今となってはそれもいい思い出です。世の中にはステキな男性がまだまだたくさんいますから! 私はスパッと割り切って次に行くタイプなので!」

 とすっかり吹っ切れた様子。

 コロナ禍で、帰国を余儀なくされる。アパートを引き払い、2020年3月に帰国。

「コロナ禍で仕事も全部キャンセルになって、名古屋の実家に帰りました。外にも出られず、1日12時間くらい毎日ゲームばかりしていましたね」

「いちいち傷つくのはやめよう」

 実は彼女、ゲーム界ではその名を知られるゲーマーで、韓国在住時はゲーム実況者としても活躍。ゲーム配信で「月に数万円くらいですが、お小遣い程度は稼げるようになりました」というからかなりの腕前のよう。

 さらに帰国後はYouTubeチャンネル『kayokayo』をスタート。韓国コスメの紹介にスキンケア法、トランスジェンダーのリアルまで、さまざまな情報を発信している。そこでまたファン層が変わってきたという。

「もともとファンの大半が男性でしたけど、YouTubeは女性視聴者が8割を占めています。韓国のメイクや美容など、同じことに興味を持つ女性とつながっていけたらという裏テーマが自分の中にありました。だから女性ファンが増えたのは本当にうれしくて」

 ファンの期待に応えるべく、月に一度は韓国を訪れ、最新流行をキャッチする。

「韓国の流行の移り変わりって本当に早くて、今度は2週間行く予定。韓国に行くと必ず立ち寄るのがOLIVE YOUNG。韓国のマツキヨといわれるお店で、いつもコスメをどっさり買い込んでます(笑)」

 弱い自分を変えようと、30歳で日本を飛び出したときに気づいたことがある。

「海外はトランスジェンダーに対する理解が進んでいるといわれるけれど、実際に行くとどこの国でもトランスジェンダーということで私を嫌う人はたくさんいました。だけどやっぱり自分がトランスジェンダーであるという事実は変えられないんですよね。だったらもう、いちいち傷つくのはやめようと決めました」

 世界を見て目が開かれた。トランスジェンダーとしての自身の意識も大きく変わった。

「人から嫌われないようにすることばかり考えていたけど、まず自分自身を出してみようと思えるようになった。そこからどんどん変わって、今はトランスジェンダーである自分に自信が持てるようになりました。私自身の経験が、年齢や性差に関係なく、行き詰まっている人のちょっとした息抜きになればすごくうれしい。こういう生き方もあるんだ、というひとつのメッセージになればいいなと思っています」

取材・文/小野寺悦子

 

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