円安に四苦八苦。現地で見たヘレスならではのサーキットの光景をご紹介。MotoGP海外取材の裏側〜若手ジャーナリストのロンドンな日々

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2023年07月21日 08:10  AUTOSPORT web

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ロンドンの街並み
 オートスポーツweb読者のみなさん、こんにちは。モータージャーナリストの伊藤英里です。MotoGPや電動バイクレースMotoE、スーパーバイク世界選手権(SBK)などを取材したり、記事を書いたりしています。今年はシリーズ初戦からロンドンを拠点に活動しています。今回はレースからちょっと離れて、わたしのロンドン生活のアレやコレやについて、つづっていきたいと思います。よろしくお付き合いくださいませ。

* * * * * *

 ロンドンに滞在して、4カ月になろうかというところです。その間、一度も日本には帰っていません。3月下旬に日本を離れて以来、MotoGPの取材のためにロンドンをベースにして、ヨーロッパ諸国とロンドンを行ったり来たりしています。

「なんで、イギリス? 物価が高いでしょ!?」

 とは、わたしがイギリスはロンドンに滞在すると決めたことを話した人、全員の反応。そんなにそろえんでも……と思うほどみんなに口をそろえて言われました。「なんで、イギリス?」と。

■ロンドン滞在のお財布事情
 そりゃね、高いですよ、ロンドンの物価(笑)。特に滞在費ですね。もともと高かったけど、最近は賃料ばかりか電気代がどんどん高騰しているんだそうす。わたしはロンドンのZone2、3あたり、多くの人が“ロンドン”と聞いて思い浮かべるような都心に地下鉄で1時間もかからず出られる街でホームステイをしていますが、電気代高騰のために滞在費が上がりました。スーパーマーケットの食料品や日用品も2022年に比べて上がっているらしいです。といっても、状況としては日本と変わらないかもしれません。

 予想外だったのは、円安です。円安が進んでしまい、生活費をぐいぐいと圧迫してきます。それも、すごい勢いで。3月下旬には1ポンド160〜170円台だったのに、現在は1ポンド180円超……。日本円換算1000円じゃ、外食なんて論外です。なにしろ、スーパーマーケットで売っているサンドイッチだって、3ポンド(約540円)近くもするのです! ケンタッキーやマクドナルドでさえ、セットを頼めば最低でも8ポンド(約1440円)が飛んでいきます。

 そんなわけで悲しいかな、ロンドンにいるからといってパブで飲んだくれているわけでもなく、食事はもっぱら自炊でしのいでいます。ロンドンに来てびっくりしたのは、日本食レストランはもちろん、アジア系食料品店が多いこと。中国、韓国、日本の食料品がいっしょくたに売っているようなお店が多いけども、例えば米や味噌、醤油、ポン酢だけじゃなく、納豆や豆腐だって買えます。そういう食材や調味料を使って、これまでにから揚げ(もどき)とか、ジャガイモとニンジンと玉ねぎをめんつゆで煮たの(煮物ではない……)とか、玉子丼を作ったりしました。

 ちなみに、豆腐はまるで牛乳パックのような紙パックに入っていて、そのいでたちからして「知らない豆腐」感がぷんぷんしていました。いざ食べてみると決定的に「知らない豆腐だー!!」という代物でした。豆腐は保存が難しいだろうし、作るのも難しいのでしょう……きっと。

■「日本のトイレは素晴らしい!」
 4ヵ月近く日本を離れて暮らして、得た教訓があります。

「トイレを見つけたら、迷わず行くべし」

 これはイギリスだけではなく、ヨーロッパ各国について……いや、日本以外の国について言えることだと思います。よほど大きなところでなければ駅にトイレなんてないし、コンビニもない。そういう状況だから、トイレを見たらもよおしていなくても行くことにしています。備えておかなければ、大人としての何かを失いかねない……。

 トイレがないことがこんなに不安になるとは思いませんでした。日本は公衆トイレをはじめ、無料で誰もが使えるトイレが多いんだなあと、こちらに来て知った次第。おまけにウォッシュレットもあって便座は温かくて……。日本はトイレの中まで至れり尽くせりでは??

 そういえば、トイレの便座の高さや洗面台の高さで、その国の人の平均体格がわかったりします。わたしはミニマムとして生きて久しいので、バイク乗りとしてバイクの「足つき」はもちろん、日常生活における「高さ」に敏感なんです。

 オランダGP取材のためにアムステルダムのスキポール空港に降り立ち、トイレに入ったときのことです。便座は高いと感じなかったのですが、洗面台がやけに高い。「きっとオランダ人は背が高いんだろう」と見当をつけて、その後に向かったホテル周辺を観察すると、やはり地元の人と思しき人たちは背が高かったです。こういう小さなところで「その国らしさ」を感じるのが、ひそかな楽しみです。

■ヘレスで見た光景
 食費を圧迫されたり、トイレに行くタイミングのこつをつかんだりしながら、ちゃんとMotoGPの取材もしています。ヨーロッパで開催されるMotoGPというのは日本とは雰囲気が違っていて、特に来るのが開催国の人たちばかりではない、というあたりは地続きのヨーロッパらしいところです。

 スペインGPが開催されたヘレスでは、観客の熱気とたくさんのバイクに気圧されました。観客は日除けのパラソルや、サンドイッチのランチを持って家族や友人たちとヘレスにやって来て、「レース観戦」というより「MotoGPというイベント」を丸ごと楽しもうとしているみたいでした。その人数もすごいのですが、熱気がすさまじいのです。日曜日の朝、メディアセンターから観客がびっしりと埋める丘を眺めていると、地響きのような歓声が空を突き抜けました。怒号のような彼らの興奮に、息をのんだことを憶えています。それから、ヘレスの二輪用駐車場は広大で、とても把握しきれないほど広々とした駐輪場に、整然とバイクが駐輪していました。この光景もまた、圧倒的でした。

 さて、最初の話題に戻ります。

「なぜ、イギリスに滞在することにしたのか?」

 答えはシンプル。イギリスがいちばん、水が合うと思ったからです。半年間も海外で生活するなんて自分の人生史上初めてのことだったので、それほど長く海外に滞在するならいちばん自分に合っている場所がよいなぁと。そのとき思ったんです。「なんとなく、イギリスがいいなあ」と。

 今、なにごともなく、MotoGP取材のためにロンドンとヨーロッパを行ったり来たりしています。ロンドンは、物価はまあまあ高いし円安だし、曇りの日は多いし、この原稿を書いているのは7月中旬なのにまだ長袖シャツが必要だし(足元の冷えがきついです)。だけど、毎日、原稿を書いて、ごはんを食べ、寝て、テレビを見て、たまにサーモンとクリームチーズのおいしいベーグルサンドを食べちゃったりして、それなりに当たり前になった日々を平和に過ごしています。

■おまけ。イギリス放浪記
 SBKイギリスラウンドの取材でドニントンパークに行ったとき、それならばとイギリス第2の都市と言われるバーミンガムに滞在して、トライアンフのファクトリーに行ってきました。トライアンフのファクトリーは、バーミンガムから電車とバスを乗り継いで2時間くらいのところにあります。要予約の『ファクトリー・ビジター・エクスペリエンス』は解説つきでファクトリー内を見て回れる体験イベント。同じ建物内には無料で見られるエキシビションがあり、トライアンフの歴史を知ることができます。トライアンフファンじゃなくても、バイク好きなら楽しめる場所。

 ナショナル・モーターサイクル・ミュージアムはバーミンガム空港から近いけれど、公共交通機関ではたどり着くのがとても大変なので、レンタカーかタクシー推奨。館内には1900年頃からのイギリスのオートバイが、メーカーを問わずに大量に展示されています。1ホールでもものすごい台数なのですが、5ホールもあるのです。じっくり見るならば午前中から行くことをオススメします。

 2023年はMotoGPライダーたちが走ったグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードは木曜日だけ参加。ロンドンから電車とバスで4時間くらいの道のりです。解放されている二輪のパドックをのぞくと、ちょうどこのイベントのために来ていたポル・エスパルガロやケビン・シュワンツに遭遇。シュワンツはお客さんとの写真撮影に快く応じていました。イベント会場は広大で、わたしは1日だけの参加に後悔しました。1日じゃとても回り切れないほど、コンテンツが盛りだくさんでした。

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