とにかく明るい安村のカタコト英語はなぜウケたのか、海外進出芸人たちの本当のコミュ力

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2023年07月22日 17:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

写真左からゆりやんレトリィバァ、とにかく明るい安村、渡辺直美

 英オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント』で日本人初の決勝進出を果たした、とにかく明るい安村(41)。「ドントウォーリー、アイム、ウェアリング!(安心してください、はいてますよ)」という鉄板ネタは、なぜウケたのか。さらに、渡辺直美やゆりやんレトリィバァなど、海外で活躍する芸人たちのコミュ力について、英語指導歴30年の廣津留真理さんが解説。

安村は英語のコミュニケーション能力が高い

 イギリスの人気オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント(BGT)』に出場し、ワイルドカード枠で決勝進出を果たしたとにかく明るい安村(41)。優勝は逃したものの、決勝進出は日本人初の快挙で、その模様は日本でも大きく報道された。

 安村のネタといえば、「安心してください、はいてますよ!」でおなじみの裸(パンツ)芸。BGTでも同様のネタを「ドントウォーリー、アイム、ウェアリング!」と直訳で披露している。その発音はカタコトでいわゆるカタカナ英語だが、語学力抜きでなぜここまでウケたのか。

「安村さんは英語のコミュニケーション能力が高かった」

 というのは、英語指導歴30年、ディリーゴ英語教室代表の廣津留真理さん。英語力には大きく分けて2つの種類があるという。

ひとつは人と仲良くするコミュニケーション英語で、ひとつはTOEFLやTOEICで高得点を取るような“点を取る英語”。どちらもできたら完璧ですけど、安村さんは前者のタイプ」(廣津留さん、以下同)

 安村のコミュ力は英国人の心をつかんだ。「アイム、ウェアリング!」のカタカナ英語に、観客は「パンツ!」とライブ会場のコール&レスポンス的に応え、大盛り上がりになった。

 安村のほかにも海外進出を目指す芸人は多い。ゆりやんレトリィバァは2019年6月にアメリカのオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント(AGT)』に出場。

 胸元のざっくり開いた星条旗柄の水着と奇妙なダンス・パフォーマンスで会場の度肝を抜き、審査員との掛け合いでは流暢な英語で観客の笑いを誘った。しかし英語のコミュ力が高いかというと、廣津留さんは首をかしげる。

ゆりやんさんはとても上手に喋っていますよね。ご自身も英語を学ぼうという気力があるように感じます。ただ昨今の風潮を考えると、TPOを読まずに自己主張しすぎる人というのは外国でも引かれてしまう。傷つけるつもりじゃないのに傷ついてしまう人がいるかもしれない。何でも傷つかれちゃうから、今の時代は難しい」

 ゆりやんがAGTに出場してから4年がたち、あれから世の中も大きく変わった。タブーが増えた今、コミュ力も使い方を間違えると逆効果になってしまうこともある。彼女は'24年10月にロサンゼルスを拠点に海外進出すると明らかにしているが、そこでどんな路線を打ち出すか。

海外で言わないほうが良い言葉とは

 渡辺直美も海外進出組。かねて世界を視野に活動を続けてきたが、'21年春、日本の全レギュラー番組に終止符を打ち、ニューヨークへ本格的に拠点を移した。

 渡辺が昨年新たにスタートしたのが『Naomi Takes America』。オール英語配信のポッドキャスト番組で、「英語が喋れないのに英語の番組を始めました(笑)」と自身のインスタで報告している。廣津留さんは、英語を話せなくても英語の番組を始めてしまう渡辺の「人と仲良くなるコミュニケーション英語」力は素晴らしい、と言う。

 できないのは決して「恥ずかしい」ではなく、チャレンジは「自己成長」だという発想は、日本人のロールモデルになるのではないか。ただし、一般の人は、

「海外ではI can't speak Englishは言わないほうがいい」

 日本人が口にしがちなセリフではあるものの、誤解が生じる可能性があると話す。

日本人は謙遜しているつもりでも、海外では英語で話す気がない、なじむ気がないという意味に受け止められてしまうこともある

 日本人と欧米人では言語の思考回路がそもそも違う。空気を読む、自分を卑下する、といった日本人の精神性は通用しない。人前に立つ場合はなおさらのこと、第一声で伝えたいテーマを明確に示し、聴衆の関心を惹きつける必要がある。

ロゴス(論理)、パトス(情熱)、エトス(信頼)。これが英語圏におけるスピーチの三原則。欧米では小学生でも知るスピーチの基本で、私の英語教室でも子どもたちのサマースクールに取り入れています

 序論でまずテーマを簡潔に言い切り、本論で情熱を持って具体例を羅列し、結論でもう一度テーマを繰り返すことで首尾一貫して信頼を得る。そのロジックをクリアしたのが安村で、BGTでの勝因は何よりそこにあるという。

ロゴス(論理)=私はこれから裸のポーズをしてみなさんを笑わせます、パトス(情熱)=私は今裸のポーズでみなさんを笑わせています、エトス(信頼)=パンツをはいているよと安心させてみなさんを笑わせました。安村さんは三原則にぴたりと合致します

 ただ漫然と芸を見せるのではなく、三原則に則ることで、安村はロジカルに観衆を惹きつけた。そこに英語のコミュ力が加わり、世界にパフォーマンスが受け入れられた。

 安村のインスタにはイタリアをはじめ海外からオファーが続々舞い込んでいるといい、この先さらに世界が広がる可能性もある。海外の檜舞台で箔がつき、再ブレイクを叶えた形だ。安村に続けと、今後海外進出をもくろむ芸人が出てきそうだが─。

「おそらく彼らが“海外進出”を考える最後の世代。今の時代は海を越えるという発想自体がない。そこは昭和の日本人が越えていかなければいけない壁かもしれません

 飛行機に延々と乗って海を越えずとも、ネットを開けばそこはもう海外だ。SNSの舞台は世界で、日本にいながらにして世界的ブレイクを果たすこともある。

 その好例がピコ太郎の「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」。ピコ太郎こと古坂大魔王がYouTubeで動画を公開したのは'16年のこと。ジャスティン・ビーバーがお気に入りと紹介し、そこから一気に火が付いた。

 再生回数は実に2億回を突破。海外で注目された日本人芸人の先駆けでもある。しかし「海外の人はこれがどこの国の人だという意識で見ていない。彼らにとって地球は丸く見えている」と廣津留さんが言うとおり、“海外進出”と騒いだのは日本だけ。

 ネットは世界をひとつにし、今や国境はなくなった。海外進出を目指す芸人に限らず、この先英語力は誰にとっても不可欠なものになってくるはず。とはいえカタカナ英語を覚えた大人が今さら英語力を磨くのはハードルが高いものがある。何か手っ取り早い方法はないものか……?

日本人は英語が喋れないと言うけれど、英語を喋る機会がないだけ。なのに勘違いして喋れないと思ってる。ならば喋る機会をつくればいい

海外でウケる芸人のすごい部分

 ネイティブと関わりを持ち、実地で英語を使ってみる。その上で、安村ら芸人たちに学ぶべきことがあるという。

英語を学びたいという人はたくさんいるけれど、どこを目標とするかは人それぞれ。点は取れずとも、安村さんのようにコミュ力で勝負するのでもいい。結局のところ彼らの何がすごいかというと、パトス(情熱)の部分。

 ゆりやんさん、渡辺さんにしても、“世界を笑わせてやろう”という情熱が際立ってる。そこにたまたま英語が必要だっただけ。情熱って伝わるもの。コミュニケーション英語を使い、情熱を持って輝いていく姿はやはり素敵ですよね」

 カタカナ英語でも情熱があれば大丈夫。芸人たちをお手本に、まずはコミュ力を磨いてみてはいかがだろうか。

取材・文/小野寺悦子

ひろつる・まり 英語教育者。ディリーゴ英語教室代表。娘はハーバード大学に現役合格&首席卒業のヴァイオリニスト、廣津留すみれさん。娘への家庭学習指導経験を踏まえて「ひろつる式」英語指導法を考案。テレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』や『徹子の部屋』に出演し話題に。

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