「日向坂46」竹内希来里さん、収録中に「犬に噛まれて」ケガ…「労災保険」はおりる?

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2023年07月26日 10:01  弁護士ドットコム

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アイドルグループ「日向坂46」のメンバー、竹内希来里さんが、NTTドコモが提供している映像配信サービス「Lemino」の番組収録中、犬に顔を噛みつかれてケガした。


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「Lemino」の公式サイトによると、竹内さんは犬を散歩させるシーンの撮影中、ルートを外れた犬を戻すため、あやそうと顔を近づけた際に犬に顔を噛みつかれて、目の下、口元、中指を負傷した。



Leminoは公式サイトで、お詫びしたうえで「竹内希来里さんの一日も早い回復をお祈りするとともに、本件を厳粛に受け止め、番組収録にあたってはいっそう安全対策に万全を期する所存です」と記している。



今回のような事故の場合は、アイドルであっても「労災」にあたるのだろうか。芸能界の法律問題にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。



●法律上の「労働者」にあたるか

いわゆる「労災」ということになれば、労災保険制度の対象になり、労働者側は特に事前の加入手続きなくとも、労基署に申請することによって、治療のための療養給付や仕事ができない間の休業補償が受けられます。



労災保険の対象となるためには、「業務上の負傷」と言える必要があります。今回のケースは、撮影の際の、しかもカメラが回っている収録中の事故なので「業務上の負傷」にあたる可能性はかなり高いといえます。



しかし、労災保険の対象となるためには、アイドルである竹内さんが、法律上の「労働者」にあたることが前提になります。



昨今の裁判例では、アイドルの「労働者性」を認めた判決が連続していますが、いずれの裁判例も「アイドル=労働者」という一般論まで認めているものではなく、あくまで個別・具体的に「労働者」といえるかどうかを見ていく必要があります。



●実態に即して「労働者か否か」が判断される

日向坂46のメンバーである竹内さんと所属事務所であるSeed & Flower合同会社とは、芸能契約を結んでいると考えられます。この芸能契約が労働契約ということであれば、労災保険の対象となるといえるでしょう。



労働契約といえるかどうかは、契約書だけでなく、仕事のスケジュールをどのように決めていたか、その際にアイドル側が仕事を断れたかなど、実態に即して判断されます。



グループで活動していれば、アイドルが仕事を選べるというケースはかなり少ないかと思います。そうすると、結果的には、法律上の「労働者」といえる可能性は十分あります。



ただし、それでも、その判断はまずは労基署がおこない、最終的には裁判所が決めます。今回のケースでも、労基署からは「労働者とはいえない」として支給されない可能性があります。やはり、通常の労働者と同じようにスムーズに労災保険の手当を受けられるにはハードルがあります。



ちなみに、今回は撮影中の事故ですが、アイドルであれば、他にもコンサート中にケガしたり、バラエティー番組で危険性がわかっていながらもあえて落とし穴に落ちたものの、結果的に想定外のケガを負ったりはありうることでしょう。



このようなケースであっても、あくまで収録という業務でなければ、落とし穴に落ちることはありませんし、保険金の不正請求が疑われるなど、極端な場合でなければ基本的に「業務起因性」は認められると考えられます。やはり、労災保険の対象になるかは「労働者か否か」というところになるでしょう。



●最終的に事務所と番組サイドが協議することになる

次に、労災保険が適用されない場合は、誰が治療費を負担するのかという問題になります。また、労災保険が適用されたとしても、慰謝料は労災保険の対象に含まれていません。労災保険だけでは、十分な金銭的な埋め合わせがされない場合もあります。



そこで考えられる請求相手として、番組サイドがあります。番組サイドに対して必要な安全配慮義務を怠ったとして、竹内さんに生じた損害を請求する法的理論になります。今回は、NTTドコモが提供している動画配信サービスで配信される番組「日向坂になりましょう」撮影中の事故です。



そうすると、請求先としてはNTTドコモ、番組制作会社などが考えられますが、いずれもアイドルである竹内さんと番組側が直接契約するということはなく、所属事務所が出演契約を結びますので、芸能事務所を通じた請求になるでしょう。



今回のようなケースでは、実際は、まず所属事務所がタレントに必要な治療費や、休業補償などの金銭を負担し、その後、事務所と番組サイドで協議して最終的な金銭負担を決めていくという流れになるかと思われます。



●アイドルでも「労災保険」に特別加入できるようになった

Seed & Flowerは大手芸能事務所なので資力もあり、迅速かつ十分な金銭補償が期待できるかとは思いますが、ライブアイドルなど、中小の芸能事務所では、労災保険の適用がなければ、迅速な補償が受けられず、より深刻な事態になる可能性もあるかと思います。



2021年4月からは、アイドルなど一律には「労働者」と言えない場合であっても、労災保険に特別加入できるようになりました。アイドル個人でも加入手続きをおこない、保険料を支払うことで、仕事中や通勤中の怪我や病気があった場合には補償が受けられるようになります。



加入手続きは事務所側の関与がなくても個人だけでもおこなうことができますので、アイドルの方々もぜひ確認してみてください。



●竹内さん「怪我の治療に専念させて頂いております」

竹内さんは7月22日、日向坂46の公式ブログで「只今怪我の治療に専念させて頂いております。皆様からのご心配のお言葉、応援のお言葉、届いております。ありがとうございます。怪我の状態も少しずつ回復してきております。また元気な姿で皆様にお会い出来るように頑張ります!」とつづっている。




【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活〜推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/


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