手本はオープンカー? トヨタの新型「アル/ヴェル」は工夫が満載!

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2023年07月29日 12:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
高級ミニバン市場はトヨタ自動車「アルファード/ヴェルファイア」の(ほぼ)独占状態。ライバルがいないと現状に満足してしまい、新型の開発にもそこまで熱が入らないのではと心配したのだが、トヨタは全く手を抜いていなかったようだ。新型「アル/ヴェル」のこだわりポイントを開発陣に聞いてきた。


○振動と騒音を徹底的につぶす



アル/ヴェルの試乗会で最初に見せられたのは、骨格・中身をむき出しにした新型ヴェルファイアのカットモデルだった。


チーフエンジニアの吉岡憲一さんによると、新型アル/ヴェルの開発では「快適な移動の幸せ」をユーザーに届けることをコンセプトに掲げたそう。特に後席(2列目)については、「人が不快に感じる振動、騒音を徹底的に」排除することを目指した。ミニバンが不得意とするのは乗る人の「皮膚や筋肉が揺れるような、15ヘルツくらいのブルブルという振動」とのことで、これを取り除くためさまざまな対策を施した。



まず、3種類のタイヤは全て新規開発とした。タイヤとクルマをつなぐ部分には「周波数感応型ショックアブソーバー」を導入。3つのバルブを備え、路面から入ってくる周波数に応じた減衰力を発生させるパーツだ。クルマの振動は主に、地面からタイヤを通じて入ってくる。ここにしっかりと対応することで上質な乗り心地を追求した。


乗る人に振動が伝わる直接の原因となるのはシートだ。新型アル/ヴェルでは、高層ビルの免震構造をヒントにした防振構造を導入。揺れる床に対してシートをフローティングさせるような仕組みで揺れの伝達を抑えた。シート内部のクッションについては、座面は座圧分布をしっかりととったホールド性の高いもの、背面には低反発枕のような振動遮断性の高いものを使っている。


○ミニバン開発には独特の難しさがある



大きくて背が高く、箱型で、両サイドに大きな開口部を備えるミニバンという車種は宿命として、クルマの走りにとって重要な「剛性」に弱点を抱えている。乗り降りの際には便利なスライドドアも、クルマの剛性という面では「曲者」(吉岡さん)なのだそうだ。新しいタイヤとアブソーバーで足回りの性能を強化したところで、その上に載るボディがグニャグニャしていれば乗り心地をよくすることができない。

新型アル/ヴェルの開発では、さまざまな工夫でボディ剛性アップを目指した。例えば曲者のスライドドアについては、ドアの下端とクルマをつなげる部分に「ストレートロッカー」という構造を採用。このロッカーにドアのアーム部分を内包させることで、剛性の低下を防ぐ工夫なのだという。


剛性アップに向けてはオープンカーも参考にした。オープンカーはそもそも天井すらないので、クルマの上の部分を縦横に結ぶ鉄板も柱もないはずなのに、高性能なスポーツカーが作れている。その理由を調べたトヨタは、床下にV字型の「ブレース」という部品を装着しているクルマが多いことに着目。これをアル/ヴェルにも採用することで、特にリアの床下からの入力に対策を施し、剛性アップにつなげたそうだ。


トヨタ車体の開発陣からは「エアロスタビライジングフィン」というパーツについて話が聞けた。まず、実物の写真がこちら。


クルマ作りでは風の抵抗をなるべく低くしようと努力するものだが、ミニバンは大きな箱型のクルマなので空気抵抗を受けやすい車種だ。走っている際、前からの風を後ろにうまく流してやらないと、クルマの周囲で空気が乱れ、まっすぐ走る能力(直進安定性)に悪影響を受ける。小さな突起「エアロスタビライジングフィン」は、空気の流れを整えるための部品だ。



新型アル/ヴェルではタイヤハウスにフィンを入れたり、床下にゴルフボールと同じ「ディンプル」(くぼみ)をつけたりなどして空気の整流に取り組んでいる。ドアミラー周辺の空気の流れを整えて「風切り音」を抑える工夫も盛り込んである。


○高級サルーンと比較されるアル/ヴェルの宿命



高級ミニバン市場で独り勝ち状態のアル/ヴェルだが、舌の肥えたユーザーも含めたくさんの人が乗る中で、高級サルーンとの比較も含め「もっと良くして」との声がたくさん届いているそうだ。



アル/ヴェルは比べようにも同一ジャンル(高級ミニバン)にライバルがいないし、ショーファーカーとしての利用も多いだろうから、高級サルーン(例えばメルセデス・ベンツ「Sクラス」のようなクルマ)と比較されるのも仕方ないのかもしれないが、これはちょっと酷なような気もする。というのも、そもそもセダンとミニバンでは条件が違うので、振動や騒音、剛性、走りなどをシンプルに比べられると不利になる点が多いからだ。



それでも、「もっと良くして」の声を「励み」にして開発に取り組んだ結果、「現段階では出し切った、やり切ったクルマになった」と吉岡チーフエンジニアは話していた。(藤田真吾)
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