廃止回避でファン安堵? トヨタ「ヴェルファイア」の存在意義

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2023年08月01日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車が最上級ミニバン「アルファード/ヴェルファイア」をフルモデルチェンジして発売した。このニュースを聞いて、「ヴェルファイア」の存続に安堵したファンも多かったのではないだろうか。一度は廃止の方向で検討が進められたというヴェルファイアだが、このクルマの存在意義とは?


○「ヴェルファイア」が人気となった理由



歴代のアルファード/ヴェルファイア(以下、アル/ヴェル)は、それぞれが独自の外観デザインを持つ姉妹車だった。2台の歴史を紐解いてみよう。



初代アルファードが誕生したのは2002年のことだ。商用車をベースとする従来の大型ミニバンとは違い、前輪駆動車とすることで広い室内空間と低床化を実現。高い快適性を特徴とした初代アルファードは、乗用車基準の新たな高級ミニバンとして注目を集めた。当時はトヨペット店が「アルファードG」、トヨタビスタ店が「アルファードV」と少し名称を変えて専売車として展開していたが、装備や仕様、価格などは共通だった。



ちなみに、高級ミニバンの元祖といえるクルマは1997年に登場した日産自動車の初代「エルグランド」である。ただし、こちらはFRレイアウトであり、室内空間の広さと床の低さではアルファードが優勢であった。


転機となったのは、2008年に登場した2代目アルファードだ。



トヨタは2004年に販売チャンネルの見直しに取り組み、従来の5チャンネルから4チャンネルに再編。その際、トヨタビスタ店はネッツ店に名称を変更し、ブランドとしての販売戦略も見直した。クルマへのこだわりが強い人やクルマに先進性を求める人をターゲットとし、顧客の若返りを図ったのだ。



トヨタビスタ店の専売車だったアルファードVにも、ネッツ店にふさわしい「キャラ変」が求められた。そこに登場したのが、2代目アルファードと基本を共有する初代「ヴェルファイア」だった。


初代ヴェルファイアのキャラクターは、一言でいうと「ちょいワル」だ。基本構造や価格などはアルファードと同等ながら、内外装を専用化することで押し出しの強さやカッコよさを追求し、ミニバンのファミリーカー色を薄め、若い人たちからの支持を獲得した。



ヴェルファイアはメキメキと頭角を現し、兄ともいえるアルファードと肩を並べるどころか、追い越すくらいの存在となっていく。



ヴェルファイアの躍進にはもうひとつ理由がある。それは、ネッツ店の店舗数の多さだ。当時、ネッツ店は販売会社の数だけでもトヨペット店の2倍を超えており、店舗数には更なる開きがあったのだ。イメチェンの成功と強力な集客力が相まって、ヴァルファイアは大きな成長を遂げていった。

○「ヴェルファイア」はニッチな存在に…

2015年のフルモデルチェンジでは、アルファード(3代目)が更なる上級路線を目指したのに対し、基本構造を共有するヴェルファイア(2代目)は引き続き、独自のチョイワル路線を突き進んだ。



発売当初こそアルファードを超える新車販売台数を記録していた2代目ヴェルファイアだが、天下はそう長くは続かなかった。徐々に販売台数が下降し、2018年にはアルファードに打ち負かされることになるのだ。その要因は、独自の癖のあるデザインに対する賛否が分かれたこともあったが、高級ミニバンのポジションが変化したことも影響が大きかった。それまで、VIPを送迎する「ショーファーカー」はセダン一択だったが、広く快適な室内空間を武器とする高級ミニバンが支持されるようになってきたのだ。


ビジネスユーザーや経営者ユーザーの拡大は、フォーマルなアルファードの人気を加速させていく。追い打ちをかけるように、2020年4月にはトヨタが販売チャンネルを一本化し、全店舗で全車種を取り扱うようになった。これにより、従来のネッツ店でもアルファードが買えるようになったわけだ。



コロナ禍では安全な移動手段としてクルマが見直されたことで、多人数乗車が可能なミニバンの支持率も高まったが、次第にヴェルファイアはニッチな存在に。販売終了にこそならなかったもののモデルラインは大幅に縮小し、いよいよ消滅の危機を迎えることになる。

○新型「ヴェルファイア」のターゲットは?



しかし、初代の成功に加え、2代目でも一定数のセールスを記録していたことから、今でこそ少数派だが、歴代ヴェルファイアにファンが存在するのも事実。豊田章男会長からも「ヴェルファイアファンを大切にしてほしい」との声があったと聞く。そこで今回の新型ヴェルファイアは、チョイワル路線を守りつつ、ミニバンにもスポーティーさを求めるユーザーに向けた個性派モデルとして生き残りをかけた。


その象徴が、高性能な2.4Lガソリンターボエンジン搭載車の存在だ。最高出力279PS、最大トルク430Nmの高性能エンジンに加え、専用設定のサスペンションやパワーステアリング、ボディの強化による走りの良さなどを売りとする1台である。同じエンジンを積むグレードはアルファードでは選べない。


2.4Lガソリンターボエンジンを積むヴェルファイアの主なターゲットは、従来型アル/ヴェルの3.5L V型6気筒エンジン搭載車のユーザーだろう。アルファードとの差別化で走りの向上がテーマとなった背景には、クルマを愛する豊田章男会長の「ミニバンだって面白いぞ」という想いがあったのではないだろうか。



個人的にも、アル/ヴェルの乗り味の違いには注目している。ただ、その一方で、先代同様、デザイン面でももう少し違いを見せてほしかったとも思う。


すでに大人気となっている新型アル/ヴェルだが、先代アルファードの売れ行きを考えると、新型でも販売の主力はやはりアルファードとなるだろう。再び二枚看板へと戻ることができるか、これからのヴェルファイアの頑張りに期待したい。



大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら(大音安弘)

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