“岡村ちゃん”の魅力の正体は? 読むラジオ『岡村靖幸のカモンエブリバディ』でわかった“謙虚さ”と“逆張り”と“自由”

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2023年08月07日 07:01  リアルサウンド

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“岡村ちゃん”の魅力ってなんだろう?


日本語をグルーヴさせるセンス? もちろん。


恋愛の純粋性や変態性を描いた歌詞? 当然。


キレキレのダンスパフォーマンス? YES!


 といろいろ挙げることはできるのだが、何か足りない。“岡村ちゃん”とつぶやくだけで気分がちょっと明るくなって、キュンとしてしまう、あの感覚の正体って……と長年に亘って考えてきた筆者だが、その答えは、この本の中にあった。『岡村靖幸のカモンエブリバディ』。2019年から2021年に渡ってNHK-FMとNHKラジオ第一で不定期に放送されたラジオ番組『岡村靖幸のカモンエブリバディ』を再構成、岡村ちゃん自身の書き下ろしコメントを加えた“読むラジオ”だ。


 『岡村靖幸のカモンエブリバディ』のメインコンテンツは、ゲストを招き、岡村ちゃんがいろんなことを学んだり、セッション(モノ作り)するというもの。ゲストとして登場するのは大貫妙子(シンガーソングライター)、神野紗希(俳人)、ライムスター・宇多丸(ラッパー・ラジオMC)、斉藤和義(シンガーソングライター)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家・演出家)、犬山イヌコ(俳優・声優)、加賀美幸子(アナウンサー)、河合敦(歴史研究家・歴史作家)、満島ひかり(俳優・歌手)。さらに“ボーナストラック”として、小林克也(ラジオDJ)とのトークセッションも収録されている。


  印象的なのは、岡村ちゃんの学びの姿勢。とにかく真剣で謙虚、そして、とことん自由なのだ。たとえば「ライムスター・宇多丸さんにラップを学びます」。まず、岡村ちゃんが“ラップを学びたい”と思うこと自体がすごい。宇多丸からも「今までもほら、例えば韻を踏まれたりとか、しゃべり言葉調に近くて、要するにメロディっぽくないというか、リズム重視のパートだってあるじゃないですか。まあ、ラップっちゃラップですよ」と“なんでラップ教えてほしいんですか?  ”と突っ込まれているのだが、岡村ちゃんは「っちゃ、じゃないんですけど……(笑)」「ちょっと習ってみたいなあと思って、はい」と教えを乞う。(その後、リリックの書き方などを学ぶのだが、宇田丸に「字余り傾向がありますね…」と言われたりする)


 さらにケラリーノ・サンドロヴィッチにはラジオコントの作り方、60年のキャリアを持つアナウンサー・加賀美幸子には言葉と息遣いを学び、斉藤和義とはソングライティング・セッションを行っているのだが、その姿勢はいつも謙虚、そしてマジメ。ゲストとの対話・学びを通して、岡村ちゃんが新たな知識や経験を吸収し、変化(成長)していく姿こそが、この本(ラジオ)の最大の魅力なのだと思う。


岡村ちゃんは”変化”を恐れない

 いきなり話が飛ぶが、昨今、ベテランアーティストの残念な言動を見聞きすることが増えた。その多くは、知識の吸収を怠り、変化を受け入れないことに起因していると思う。大きな成功を手にして、支持しているファンやスタッフに囲まれていると、自分の価値観を変化させる必要性を感じなくなるのだろう。岡村ちゃんのスタンスは真逆。“どんなにキャリアがあっても、年齢を重ねても、学び続けなくちゃいけない”“苦手なこと、恥ずかしいこともがんばってみよう”という姿勢は、本当に尊いし、言葉を選ばずに言えば、めちゃくちゃ可愛い。


  この本のもう一つのポイントは、コロナ渦の影響。放送期間中にコロナの影響が大きくなり、リスナーからの質問・相談も、自粛期間中の過ごし方や人生観の変化といった内容が増えている。岡村ちゃんの回答も示唆とユーモアに富んでいるのだが、軸にあるのは“逆張り”と“グラデーション”という考え方だ。


 「コロナ渦で変わってしまった世界も、そう悪くないんじゃない?  って思うことはありますか?」という質問に、「コロナ渦で状況は悪いですよ、悪いんだけども「逆張り」だと、負けねぇという気持ちが大事です」「なめんな、と。そんな気持ちが必要ではないかなと思います。」と回答。また「岡村さんは、好きor嫌いという質問に対して、ハッキリ答えられますか」という質問に対して「いいんです、ハッキリ言えなくても。人間というものはね、グラデーションですから、こうじゃなきゃダメ、ああじゃなきゃダメ、こういう時は絶対こういうふうにするべき、こうじゃなくちゃいけない、っていう時もある。でも、どちらかしらって、神妙な面持ちになってしまうこともある。いいんです。」と答えている。


 きつくて苦しいからこそ、“ふざけんな。負けねぇよ”と逆張りの気持ちを持ちつつ、“物事に絶対はない。決めつける必要もない”とグラデーションを行き来することの大切さを説く。一見矛盾しているようでもあるが、この懐の深さも岡村ちゃんの魅力だろう。(歴史家・河合敦との対談では、日本の歴史における伝染病のことについても言及。この本は“コロナ渦の記録”としての側面もありそうだ)


  満島ひかりがゲストとして登場した回において、
(俳優の仕事は朝が早い、という話の流れで)



満島 朝、結構ゆったりしちゃいますよね。時間ちゃんとされてますか?
岡村 全然ちゃんとしてないです。
満島 よかったです。ちゃんとしてる岡村さん、嫌だったからよかった(笑)。



  といった何気ないトークも楽しい『岡村靖幸のカモンエブリバディ』。真面目でキュート、ときどきおふざけ。岡村ちゃんの魅力をたっぷりと味わってほしいと思う。


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