『さみしい夜にはペンを持て』著者・古賀史健×教育YouTuber・葉一対談 ぼくたちの”悩み多き”中学時代のこと

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2023年08月11日 10:50  リアルサウンド

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「書くこと」は、見えづらい自分の心を見つめ直すことになる。


  自分の頭で考えて、バラバラの心と体をつなげられるようになる――。


  悩み多き中学生に向けて、「書くこと」の意義と喜びを伝えた古賀史健さんの新刊『さみしい夜にはペンを持て』。


  発売前から重版がかかるなど、予想以上に中学生を始め悩みの多い現代人のの心を捉えて、「書くこと」に興味が向けられているという。


  これに反応したのが、193万人の登録者に支持される教育YouTuberのトップ・ランナー・葉一さんだ。


  急遽実施された両者の対談。前編は「中学生はウソを見抜く」「だからこそ真摯にメッセージは届く」「書くことは心の整理整頓につながる」など、共感しあいつつ盛り上がったが、今回はその後編。


前編はこちらから


  互いの中学時代を振り返り、また不思議と二人のキャリアがシンクロした、社会人一年目に営業職についてコミュニケーション力を磨いた話、さらにはそれぞれのプロ意識まで。話が尽きないクロストークが続く。



大人を信用できないぼくらは、どう変わったのか

――中学生に何かを伝えることは、必然的に自分の中学時代を振り返ざるを得ないと思うんです。お二人は、どんな中学生でした? 葉一さんは先ほど「病み期だった」と言ってましたが。


葉一:ええ。THE病み期でした(笑)。『さみしい夜にはペンを持て』でいえば、最初のほうのタコジローに近かったと思います。周囲の人間とそりがあわず、人知れず悩んで、でも、彼ほどにはまっすぐじゃないというか。


  もともと太っていたこともあって、女子を中心にいじめられがちだったんですね。陰口をいつも言われ、人の視線が怖くなった。ただ自分よりいじめられている子も近くにいて、心のどこかで「しめしめ」と思ってもいる。そんな自分の陰湿さにもまた悩む、みたいな。何より大人が、とくに教師が大嫌いでしたね。全員、悪だと思っていました。



――先生嫌いになったきっかけは何だったのでしょう?


葉一:ただでさえいじめにあっていたとき、ある体育の先生が私の体型をいじって、笑いを取ったんです。2〜3回しかなかったと思うんですけどね。自分にとってはクリティカルな体験で、悔しさと悲しさと共に忘れられない。そのときから「大人って、こんなものか」と教師はもちろん、周囲の大人に対して斜に構えて接するようになったんです。


――先生は忘れているかもしれませんが、殴られた側はずっと覚えているものですよね。古賀さんの中学時代は?


古賀:中学の頃はサッカー部に所属していて、部活は本当に楽しかったですね。朝練があって、夕方の練習があった。ただ、その間の時間が楽しくなくて。


――ああ、授業が。学校の本編が楽しくなかったんですね。


古賀:そうそう(笑)。ただぼくが中高生くらいの頃って、体育会系の部活に所属しているだけで校内でのヒエラルキーが上にみられたんですね。だから中学3年で部活を辞めた途端、少しいじめられる時期があったんです。高校の頃は当初、部活に入らなかったのですが、「これはまずいな」と思い、またサッカー部に入りました。いじめられないために。ようするに勉強もできたわけではなく、スポーツも消極的な理由で続けていた。そんなモヤモヤした自分を相談できる大人との関係もなかった。だから、「中学時代に葉一さんみたいな大人がいたらな」と本気で思うわけです。


――なるほど。葉一さんは、高校に入るとガラリと教師や大人へのイメージが変わったそうですね。


葉一:きっかけは高校で松崎先生という数学の教師と出会ったことでした。先生は「お前らに好かれようとなんて微塵もおもっていないから」と公言するような、独特のタイプだった。けれど、とにかく授業がわかりやすく、おもしろい。まず数学が楽しくなり、疑問や質問を先生に聞きにいくと、ものすごく丁寧に時間を割いて教えてくれました。


 「この人は大人なのに真剣に人と向き合ってくれるんだ」と感動した。信頼できる教師、信用できる大人との最初の出会いでした。 松崎先生との出会いをきっかけに、「自分もこんな教師になりたい」と考え始めた。そして東京学芸大に進学し、一度は教師を志して、今は教育系YouTuberをしているんです。


――教育の道に導いてくれた師との出会いが、多感な中高生の頃にあったわけですね。古賀さんは、似たようなすてきな大人との出会いはありましたか? それこそ『さみしい夜には…』におけるタコジローとヤドカリおじさんのような。


古賀:中学より前で、小学校6年のときの松葉先生という担任の方が、ぼくにとってのヤドカリおじさんかもしれません。松葉先生には、ぼくが書いた小説を、クラスで朗読させられたことがあったんです。


忘れられないスタンディングオベーション。

――どういう経緯で?


古賀:松葉先生はとてもユニークな人で、小6のぼくらに「卒業論文を書きなさい」と課題を出したんですね。まわりは「徳川幕府の歴史」とか「人体のふしぎ」といったテーマで書いていた。けれどぼくはなぜか「小説を書いてみよう」と書いたんですよ。それを提出したら、松葉先生がもう大絶賛してくれまして。


――「すばらしいから、みんなの前で読みなさい」と?


古賀:そうです。「エッ!」と最初はひるみました。けれど、いま思い返しても鳥肌が立つのですが、朗読し始めると、クラスのみんながぼくを見る目が変わっていったんですよね。静かに聞き入りはじめ、息を呑む。気がつけば、皆がクライマックスで手に汗握っている空気まで、朗読する僕の胸に伝わってくる。最後、読み終えるや否や、クラス中がスタンディングオベーションしてくれたんです。


葉一:すごい。こっちまで鳥肌がたちますね。


古賀:明らかに今につながる、ぼくにとって大きな体験でした。だから、ライターになって自分の本を書いたとき、松葉先生に「こんな本を出しました」と一冊送ったんです。ところが「田辺聖子さんは一冊の本を書くのに天井まで届くくらいの資料やノートを積み重ねて執筆したそうです。古賀くんはどれくらい積み上げていますか?」みたいな返事をいただく(笑)。「うわ、まだほめてくれないんだ」と思いつつ、今も先生の眼を期にして、書いているところはあります。


――今回の本、ほめてもらえるといいですね。


古賀:ですね。そろそろ褒めて欲しいな(笑)


葉一:しかし、クラス全員の前で古賀少年に朗読させるという学級経営をしたのは、すごいですよね。場合によっては、古賀さんを傷つけるかもしれないリスクがある行為。しかし松葉先生はプラスの経験にさせる自信があったんでしょうね。実際、今の古賀さんを形作る一助になっている。感服します。それで、いま思い出しましたのですが、私にとってもうひとりヤドカリおじさんのような人がいました。


――松崎先生以外に?


葉一:そう。大学を出た後、新卒で入った会社の金子所長という方です。私は教師を目指していたのですが、教育実習をしたときにあまりに仕事が多すぎて、自分が理想とする教師にはなれないなと感じた。「一度、社会を知ったほうがいい」「コミュニケーション力をあげたほうがいい」と考えた。そうして教材販売の会社の営業職に飛び込んだのです。


古賀:筋トレのように、自分を鍛えようと?


葉一:まさにそうです。相当にキツい筋トレでした。飛び込みでどんどん教材を売り込むのですが、なかなか成果が出ない。ある日、焦った私は「休日返上で営業に出ます!」と頼みに行ったんです。それを叱ってくれたのが、金子所長だったんですよ。


 「だから、君は売れないんだ。ちゃんと売れている人間は頑張るべきときとやらなくていいときのメリハリがついている。100%の力で長距離走なんてするな!」と。ブラックな環境だったので、もう少し強い口調でしたが(笑)、ハッとしましたね。今もやり過ぎたり、力を入れすぎたりするときは、この言葉を思い出すようにしています。


古賀:そのときの飛び込み営業の経験は、いまYouTubeで授業をするときに活きていますか?


葉一:とても活きています。よく「カメラの前で授業をするの、大変じゃないですか?」とか「喋ることに抵抗ないですか?」と聞かれるんです。けれど、まったく大変じゃない。カメラのレンズの向こう側に、子どもたちの眼が見えるんです。彼らのリアクションや目線、表情なども想像しながら授業をしているのでやりにくさは感じないです。それができるのも、飛び込み営業で、人前で話す恐怖心が振り払えた経験やそこで得られたスキルや自信が大きいのだろうなと思います。


古賀:実はぼくも、似た経歴があるんですよ。大学の頃、なりたい職業が映画監督か、小説家だったんですね。でも、どちらも就活してなれる職業じゃないですよね。


葉一:確かに(笑)。


古賀:でもとりあえず就職しなくちゃいけない。それなら自分の人見知りを直そうと思い、あえて接客がある仕事をと探して、メガネ屋さんに就職したんです。だから葉一さんが飛び込み営業でしたように、ぼくもメガネを売ったり、レンズを磨いたりしながら、苦手なコミュニケーション力を磨いていたという。そしてぼくもその経験が役に立っているんですよね。ライターって書く仕事でもありますが、インタビューのように話し、聴く仕事でもあるので。今も話すのが苦手ながらも取材ができているのはメガネ屋さんに就職したおかげなんです。


――それにしても、2人ともウィークポイントを克服しようと、あえて苦手な場所に飛び込むメンタリティがすごいですね。ハートが強い。


葉一:必死だったんですよね。変わらなきゃと。それこそヤドカリおじさんのように的確にヒントをくれる人がいたらよかったんでしょうけど。



次、走る人のために、道を整えている。

――2人の共通点にもう一つ、自分の職業に誇りを持ち、またさらに地位をあげたい意思を持っていることだと感じます。


葉一:その意識は強いですね。私がYouTubeで授業をはじめた10年ほど前は、教育関係者から「YouTubeで勉強を教えるなんて、ふざけているのか?」と散々の言われようだったんです。今でこそ多くの登録者の方がいてくださるので、そういう方はだいぶ減りましたが、当時は本当に辛かった。だから、できるだけぼくは他のメディアに出るときや、講演会などでは、「思ってたよりちゃんとした人なんだ」といい意味での裏切りをしたいと思っています。


 それは自分自身のためでもあるけれど、これからも増え続けるであろう後輩たちに同じ思いをしてほしくないから。後輩たちが歩みやすいように道を整地していこうという意識は強いですね。「YouTuberって意外とちゃんとしているんだ」と思ってもらうのは、私の大切な仕事かなと。


古賀:まったく同じですね。今回の本に引き寄せていうと、ヤドカリおじさんのキャラクターは、ぼくが中学のときにこういう人がいてくれたらという理想像として描きました。いまライターとして、ライティング術や取材法について本に書いたり、語っているのも「自分が20代の頃にそばにいてほしかった先輩」をイメージしてのことです。YouTuberと同じで、ライターも小説家や作家より下に見られることが多い。ぼくらがそこを整地して耕しておかないと、次に走る人たちに申し訳ない思いもある。まあ、ぼくの先輩方から、あまりに荒れ地のまま手渡された感も強いんですけどね(笑)。


葉一:あと、今後のことで言うなら、「学校の先生たちと一緒に」というキーワードを大切にしたいと思っています。それは最近、日本の教師の社会的地位がとても下がっていると思うんですね。まずブラックな労働環境などが明るみに出た。それは良かった面もあるのですが、環境が是正されるより先に「大変な仕事だ」「だからろくな教育ができていない」「だめな先生が多い」と短絡的につなげられて、そこで終わってしまっている。


 まったくそんなことありません。素晴らしい先生方が、それぞれの学校で本当にがんばっているし、すばらしい成果をあげている。ぼくのような学校の王道から外れた場所にいながら教育に関わる人間のほうが、その魅力を伝えられるんじゃないかなと考え、動き始めています。


古賀:大切な活動ですね。傍から見ても、いまは先生方がすこし窮屈に仕事している気がします。


葉一:そうなんです。親御さんや教育委員会の顔を見て仕事せざるを得ない面がある。そうじゃなくて、もっと生徒たちに、いきいきと楽しそうに授業する姿を見せて欲しい。「いきいき」って伝染すると思うんですよ。優秀ですてきな先生方がたくさんいるのに、リソースを違う方向に使っているのはどうかなと。


古賀:ぼくは本を企画したり、編集するときのキーワードが「もったいない」なんです。こんなすばらしい人がいるのに、世の中に知られていないなんて「もったいない」。そこが企画の原点になっている。スポットライトをあてるのが、ぼくらライターや編集者の仕事だろうと考えています。葉一さんがいま抱いている感覚も「もったいない」なんでしょうね。きっといい物語になると思います。


――そう考えると、今回の『さみしい夜にはペンを持て』も書くことはとても楽しくて、すばらしい体験。書かないともったいないよと伝えたかったという感じでしょうか?


古賀:そうですね。また葉一さんが最初におっしゃってくれたように、普段、本を読まない方が手にとってくれて「本っておもしろいもんだね」と思ってくれたら、それが一番のゴールな気がします。本って本当におもしろくて、手に取らないのは、あまりにもったいないですからね。




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