自身の個性を見極め独自の道を進むペ・ドゥナ、「これまで」と「これから」

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2023年08月21日 19:21  cinemacafe.net

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『あしたの少女』 ©2023 TWINPLUS PARTNERS INC. & CRANKUP FILM ALL RIGHTS RESERVED.
 是枝裕和監督と韓国を代表する俳優たちのコラボレーションが話題を呼んだ『ベイビー・ブローカー』(22)で、違法に養子斡旋をするブローカーたちを追う刑事に扮したペ・ドゥナ。地味な衣装に身を包み、静かに彼らを見守るキャラクターを初めて見た人は、彼女が韓国だけでなく海外作品にも多数出演しているトップ俳優であることにもしかしたら気づかなかったかもしれない。それほど彼女は、どんな作品の中でも、演じている役そのものとして存在している。

 1979年生まれのペ・ドゥナは雑誌モデルからキャリアをスタート。学園ドラマや日本映画をリメイクした映画『リング』(99)で俳優としての活動を始め、00年に「演技に対する心構えを変えた」と後に振り返ることになる作品『ほえる犬は噛まない』と出会う。この作品でデビューを果たしたポン・ジュノ監督は「自分だけの世界を演技面でも実際の生活面でも持っている独特な人」と感じて新人だったペ・ドゥナを主演に起用。他人に対してとことん親切で“町のヒーロー”になることを夢見ながら地道に日々の仕事をこなす団地の管理室職員を生き生きと演じた彼女は、同時代の若者をリアルに演じられる映画俳優として注目されるようになった。

ちなみにこの作品でメイクをせずに演技をしたペ・ドゥナは、感情にしたがって変化する顔の色が隠されてしまうことを嫌い、以後の作品でも基本的にノーメイクを通しているという。ポン・ジュノ監督とは『グエムル-漢江の怪物-』(06)でも組んでいる。

 その後、チョン・ジェウン監督の『子猫をお願い』(01)、パク・チャヌク監督の『復讐者に憐れみを』(02)に出演したペ・ドゥナは日本でも知られるようになり、05年には山下敦弘監督の『リンダ リンダ リンダ』に出演。さらに09年には是枝裕和監督の『空気人形』(09)で「意思を持つようになったラブドール」という難しい役柄を彼女にしかできない透明感で見せた。そして、その印象的な姿が、ラナ&アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクバの『クラウド アトラス』(12)につながっていった。この作品以降、ペ・ドゥナのフィールドはハリウッドにも拡大。NETFLIXのドラマ「Sence8」(15〜18)のような海外作品と韓国映画やドラマを行き来することで、俳優としてのバランスを保つことができているという。

 そんな彼女の最新作で、日本でも8月25日に公開される『あしたの少女』は実際の事件をもとにしたヒューマンドラマだ。高校からの斡旋で大手通信会社の下請けとなるコールセンターで実習を始めた高校生ソヒが顧客からの暴言と厳しいノルマに疲弊し貯水池に身を投げてしまった後、担当刑事であるユジンが事件の背景を調べていく。

ペ・ドゥナ自身もここ数年、韓国社会に生きる10代に対して高い関心を持ってきたということだが、はつらつとした若者の代表だった彼女が歳を重ね、若者を苦境へと追い込んだ大人たちの代表として、社会の構造的な問題に迫っていく姿に感慨を覚える。前作『私の少女』(14)に続いて出演を依頼したチョン・ジュリ監督からは「これまで演じたすべての人物の中で一番、暗くしてほしい」とだけ言われたそうだが、静かな中にも強い意思が感じられる魅力的なキャラクターとなっている。おもしろいことに、ペ・ドゥナは『私の少女』以降、ドラマ「秘密の森」シリーズ(17&20)、『ベイビー・ブローカー』、『あしたの少女』と、警察官役を続けて演じているが、いずれもわかりやすい “正義の味方”ではなく、アウトサイダー的な人物なのが彼女らしい。

 時代劇とゾンビもの掛け合わせが新鮮だったドラマ「キングダム」シリーズ(19&20)、俳優チョン・ウソンがプロデュースしたことも話題となった映画『静かなる海』(21)など、NETFLIXオリジナル作品への出演も多いペ・ドゥナの次回作は黒澤明監督の『七人の侍』(54)にインスパイアされたSFドラマ『Rebel Moon(原題)』。こちらでは体を鍛え上げ、アクションも披露しているとのことで、12月の配信開始が楽しみだ。

『あしたの少女』の韓国公開を控えて行われたインタビューで「自分がどんな作品にも普遍的によく似合う俳優だとは思わない」と語っていたペ・ドゥナ。自分自身の個性を見極めながら作品を選び、淡々と独自の道を進む彼女の歩みがアジア人俳優の新たな可能性を開いていく。




(佐藤結)
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