食い違うそれぞれの“距離感”。平川亮vs山本尚貴、27周目の90度コーナーをめぐる攻防/SF第7戦もてぎ

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2023年08月21日 20:00  AUTOSPORT web

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27周目の90度コーナーで接触した平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)と山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)
 混乱をよそにポールポジションから優勝へと突き進んだ野尻智紀(TEAM MUGEN)の背後では、7番グリッドと10番グリッドからスタートした2台による、表彰台争いが白熱していた。

 8月20日にモビリティリゾートもてぎで行われたスーパーフォーミュラ第7戦。レース中盤、ピットインを引っ張る形となった平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)と山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)は、ミニマム周回数でピット作業を行っていた大湯都史樹(TGM Grand Prix)を含め、2〜4番手付近を争うレースを展開した。

 ピットイン前、暫定2番手の平川から山本までは数秒の差。山本が24周目の終わりに先にタイヤ交換に飛び込むと、ややタイムロスとなる8.8秒の作業時間で、大湯のうしろへと復帰する。

 その2周後にピットに飛び込んだ平川も、やや作業に手間取り9.4秒の静止時間でピットを後にし、大湯の後方・山本の前方でコースインした。

 平川のピット作業にロスがあったことを、山本はチームからの無線で知らされていた。コールドタイヤの平川に対し、温まったフレッシュタイヤでぐんぐんと迫っていく山本は、もてぎ随一のオーバーテイクポイントである90度コーナーに狙いを定めた。平川を抜けば、表彰台が手に入る。

「もう勝負をかけるしかないと思って、あそこで飛び込むと決めていました。あの距離感なら充分に差せると思って行ったのですが、残念ながらちょっと当たってしまい、そこでレースを落としてしまいました」と山本はレース後に振り返った。

 90度コーナーのエイペックス付近で、山本の左フロントと平川の右リヤが接触、山本はマシンにダメージを負い1コーナーまで走ったところでレースを終え、スピンを喫した平川はその後も走行を続けた。この接触における山本のドライビングマナーに対し、警告を意味する黒白旗が提示されている。

 3度のタイトル獲得経験を持つ山本だが、今季はここまで獲得ポイントわずか14点と苦戦。しかし前戦富士では予選で上位に進出するなど、復調の兆しが見えていた。加えてこのもてぎでは決勝前に施したセットアップが非常に良く、「今年一番ペースが良かった」という。ウイナーと同等のペースを刻むなか、今季初表彰台を目前にしてのアクシデントだった。

「収穫が多かった一方で、それを活かしきれなかったドライバーとしての責任はかなり感じています」と山本は唇を噛む。

「後になって考えれば、あそこで差さずに待てば大湯選手も抜けていたでしょうし、タラ・レバを言い出したらもっと最良の結果はあったかもしれませんが、目の前の敵のインが開いていて飛び込まなけば相手にナメられるし、レーサーとして行くしかないと思って行きました」

「ブレーキを踏んだ瞬間にどんどん寄られてしまって僕としては行き場がなく、芝生に(マシンを)落とすしかない状況でした。タイヤもロックアップしていないですし、差せると思って行ったのですが……ちょっと残念です」

 レーシングドライバーとしての意地と意地がぶつかり合った……と表現したくなるところだが、平川の側の“意識”は、それとは少し異なるものだったようだ。

■「あの距離から来るとは思っていなかった」

 想定より低い路気温にアジャストはしきれなかったものの、平川も「優勝できるポテンシャルはあった」と、決勝でのマシンには手応えを感じていた。

 4月の鈴鹿以来表彰台から遠ざかっている平川としても、好結果が欲しい一戦だった。1周目の混乱を間一髪のところでかわしてポジションを上げ、レース終盤に向けてはこのところ平川の“定番”となっているフレッシュタイヤでの追い上げが期待される状況ともなっていた。

 前述のとおり、26周目の平川のピット作業では、ややロスが生じてしまう。アウトラップ、S字のあたりではタイヤも充分に温まってきていた。そこに山本が迫り、平川はオーバーテイクボタンを押して“応戦”することに。

 90度コーナーでの攻防に関して平川は、「まさかその距離から来られるわけがない、イン側に無理やり入って来られるとは思っていなかったので、自分としてはちょっとびっくりしました」と振り返る。

「ぶつかった後は落ち着いて対処できたので、ロスは最小限でした。ただ、あの距離から来るとは思っていなかったです」

 平川としては飛び込まれることを想定しておらず、ブレーキングではイン側にマシンを寄せていたものの、ターンインは「普通に」していった。つまり、「閉めたというわけではない」という。

「(レース後に確認したら)タイヤのサイドウォールはボロボロだったので、運が悪ければパンクしていたかも」という平川だが、タイヤは無事でその後も好走。33周目のS字入口では大湯のインを差して2番手を奪い取った。

「無線で『向こうは(オーバーテイク)ボタン使えないよ』というのを聞いて、ここで行くかもう少し待つか一瞬悩んだのですが、行くしかないなと思って。まだ距離があった2コーナーの立ち上がりからボタンを押して、そこから詰めて行ってS字で抜こう、と考えてやりました」

 37周目、平川はウイナーの野尻から7.4秒の差でチェッカーフラッグを受けた。接触とスピンがなければ、最終盤にトップをめぐる接近戦が繰り広げられていたかもしれない。山本にとっては「差せる」、平川にとっては「来るはずのない」微妙な“距離感”が、レースの行方を左右する結果となった。
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