患者の脳から摘出された寄生虫、生きた状態での発見に担当医も驚愕(豪)

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2023年09月01日 05:11  Techinsight Japan

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数年前から体調不良を訴え、通院していた64歳女性。うつ病などの症状が加わり精密検査を行ったところ、脳の手術が必要なことが判明した(画像は『New York Post 2023年8月28日付「Worm discovered living in woman’s brain in world’s first case: ‘It’s alive!’」(CDC)』のスクリーンショット)
オーストラリアの病院で2022年6月、患者の脳から生きた寄生虫が摘出された。患者は2021年頃から腹痛などの症状に悩まされており、MRI検査で脳に病変が確認され、手術を行ったところ寄生虫が見つかった。摘出された寄生虫は通常ニシキヘビに寄生しているものと判明し、ヒトに寄生した世界で初めての症例であるという。米ニュースメディア『New York Post』などが伝えている。

豪ニューサウスウェールズ州南東部在住の64歳女性は2021年1月下旬、腹痛や下痢症状があったことから地元の病院を訪れた。女性は肺炎や下痢、空咳、発熱、異常な寝汗など多くの症状に苦しみ、しばらく治療のために通っていたそうだ。しかし2022年になると、うつ病や物忘れの症状が確認されたため、首都キャンベラにある病院を紹介された。

女性はそこで受けた脳のMRI検査で右前頭葉に13×10ミリの病変が見つかり、2022年6月に切開生検を行った外科チームは女性の脳に寄生虫を発見した。さらに驚くべきことに、摘出した寄生虫はウネウネと動いており、女性の脳の中で生きていたことが判明した。

予想外の事態に外科チームも驚いたそうで、この寄生虫の種類を特定するため、同病院の感染症を専門とするサンジャヤ・セナナヤケ医師(Sanjaya Senanayake)に応援を依頼した。サンジャヤ医師は「脳神経外科医も、まさかうごめく虫が出てくるとは思わなかったでしょうね。脳神経外科医は定期的に脳内の感染症に携わることがありますが、今回の発見はそのキャリアの中でも1回見つかるかどうかの珍しいケースです」と当時の驚きを振り返っている。

寄生虫の摘出により病院内でチームが発足し、今後の治療を検討するため、体長3インチ(約7.62センチ)、全身が赤いなどの特徴を持つこの寄生虫の正体を調べ始めた。このチームの一員だったサンジャヤ医師は「私たちは教科書を持ち出し、神経的侵襲や病気を引き起こす可能性のある回虫の種類をすべて調べました」とできる限りのことをしたと話す。しかしなかなか答えに辿り着かず、外部の専門家に助けを求めた。

オーストラリア連邦科学産業研究機構(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation)の寄生虫に詳しい研究者のもとへ、生きたままの摘出した寄生虫を送ると、その正体は“オピダスカリス・ロベルティ(Ophidascaris robertsi)”だと分かった。

オピダスカリス・ロベルティは回虫の一種で、通常はニシキヘビで見つかるという。今回寄生されていた患者は、この寄生虫がヒトに寄生した世界初のケースとして記録された。この患者はカーペットニシキヘビが生息するエリアに住んでおり、ヘビと直接的な接触はなかったものの、湖の周辺に自生していたオーストラリア原産の植物「ワリガル・グリーン」などを採取して料理に使っていたという。

医師や研究者らは、ニシキヘビが糞便を介して回虫を植物にまき散らし、患者がその植物に触れたことでその卵がキッチン用品などに付着したか、あるいはその植物を食べたことで寄生虫に感染したと推測している。

サンジャヤ医師によると、患者の肝臓など他の臓器にも幼虫が寄生している可能性があったため、幼虫を駆除する治療も必要だったそうだ。しかしこれまでに同様の症例がなく、薬によっては幼虫が死滅する際に炎症を起こすことも考えられた。こうした炎症は脳に悪影響を及ぼす可能性あり、細心の注意を払って治療が行われた。

医師らの懸命な治療のおかげで患者は快方に向かっており、現在も経過観察を行っている。サンジャヤ医師は「患者さんは可哀そうでしたが、とても勇気のある素晴らしい方でした。ニシキヘビに寄生する回虫に感染した世界で最初の患者になんてなりたくないとは思いますが、彼女はよくやってくれました」と手探りながらの治療に耐えた患者に賛辞を送った。

また患者の女性は免疫不全に陥った既往歴があり、この既往歴が体内に幼虫を定着させた可能性がないか、研究者らが調査を行っている。

サンジャヤ医師は「この世界初の症例は、病気や感染症が動物からヒトへ移る危険性を浮き彫りにした」と考えており、以下のように述べた。

「この30年で、世界で30の新しい感染症が発生しています。世界的な新興感染症のうち、約75%は動物からヒトへ感染する人獣共通感染症で、これにはコロナウイルスも含まれます。」

「今回見つかったオピダスカリスはヒトとの間では感染しないため、新型コロナウイルス感染症やエボラ出血熱のようなパンデミックを引き起こすことはありません。今回の“オピダスカリス・ロベルティ”はオーストラリアの固有種の寄生虫でしたが、オピダスカリス系の他の種類の寄生虫が各地でヘビに寄生し生息しているため、今後数年のうちに他の国々で同様の症例が確認される可能性が高いでしょう。」

ちなみに今年2月には中国で、瞼の下で蠢く糸状の寄生虫の様子を捉えた動画が公開され、人々を驚かせていた。

画像は『New York Post 2023年8月28日付「Worm discovered living in woman’s brain in world’s first case: ‘It’s alive!’」(CDC)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 iruy)

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