【漫画】学生時代に憧れた先輩、幻滅しかない再会も溢れ出る感情ーー『ララバイなんて聞きたくない』がエモい

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2023年09月01日 12:01  リアルサウンド

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『ララバイなんて聞きたくない』より

 「好き」と「嫌い」という2つで片付けられるほど、人間の感情は単純ではない。この2つの間には様々な感情が潜んでおり、本人でも分析やコントロールができないことも少なくない。8月20日にX(旧Twitter)で公開されたオリジナル漫画『ララバイなんて聞きたくない』は、そんな感情が巧みに描かれた短編だ。


(参考:『ララバイなんて聞きたくない』を読む


 学生時代の「女バス」で憧れていた先輩に再会したララ。泥酔し、“怖い人”に借金をしてボロボロの先輩ーーある女性に入れ揚げ、あまつさえララにまで金を無心する姿を見て、「この女の何が好きだったのだろう」という思いが去来するが、それが「嫌い」に直結するほど人の感情は簡単ではなく……。


 本作を手掛けたのは、小学校低学年の時に熱を出して学校を休んだ時、暇だろうと親が買ってきてくれた漫画雑誌を読んで、一気に漫画の世界にハマったという壱弎ハルヒトさん(@haru_80110)。感情の機微と美しく残酷な関係性を描いた本作について、話を聞いた。(望月悠木)


■ダブルミーニングが好き


――『ララバイなんて聞きたくない』はどのようにして誕生したのですか?


壱弐:まず「『ララバイ』という言葉の響きが素敵だな、タイトルに使いたいな」と思ったことが始まりでした。自分は1つの言葉に2つ以上の意味を重ねたり、ラストシーンでやっとタイトルの意味が分かる話の流れに描いたりすることが好きなので、本作では「主人公のあだ名を『ララ』にしてタイトルと重ねよう」「どんな見た目にしようかな、相手の女性はどんな人がいいかな」と少しずつ設定を組み立てました。


――“憧れだった先輩が見る影もなく堕ちていた”という胸が引き裂かれるような失恋モノでした。本作の軸はどうやって決めましたか?


壱弐:去年あたりから悲恋モノの曲や作品に強く惹かれるようになって、「自分でもオリジナルの悲恋モノを描きたい!」と強く決めていました。また、私自身も“片思いのまま実らなかった”という経験や「あの人は変わってしまったのだな」と思う経験があったため、そういった要素を足した悲恋モノにしました。


――先輩が「じゃあCDは要らないから現金で返してくんない?」と口にするシーンは胸がキュッとなりました。残酷なシーンですね。


壱弐:とにかく先輩に薄情で最悪なことを言わせたかったのと、ララが大切にしていた思い出は先輩にとってそうでもなかったことを表したかったこともあり、あのようなセリフを考えました。


――ララにとって借りていたCDは先輩とつながっていることを実感できる大切な思い出ですからね。


壱弐:そうですね。あとララは先輩のCDを借りパクすることによって、先輩に自分のことを覚えていてほしかったんです。「お前あのCDまだ私に返してないだろ」といつか連絡してくれるんじゃないかと待っていたんです。そういうララの背景を想像して、「そんなララの気持ちを蔑ろにするには、CD自体の価値を先輩が下げなきゃ」と思いました。


■「でも好きなんだもん」のどうしようもなさ


――ララが先輩の好きなところをいくつも挙げるシーンも印象的でした。どのようにしてこれだけ好きなところを思いついたのでしょうか?


壱弐:普段から周囲の人や芸能人を見て、この人のどんな仕草が魅力的なのかを探したり考えたりするようにしています。今回も先輩と雰囲気が似ている人を思い浮かべ、「あの人のどんな所が魅力的だったかな」とララ視点になりながら考えました。高校時代、先輩の近くにいたララだったからこそわかる生活感のある先輩の姿と、ララのちょっとマニアックな好みをさり気なく入れたつもりです。


――ラストのララと先輩の掛け合いも、ララの想いと、先輩のどうしようもなさが交わっていて、インパクトある展開になっていました。


壱弐:ララが「こんなにあの女を諦めろと言っているのに、どうして諦めないの!?」と苛立って、感情的になるような展開にしたくて、あの掛け合いを描きました。今まではスンと落ち着いた“大人”の姿で振舞っていたララが、感情的になればなるほど“少女”だったあの頃の姿になってしまう、胸の奥にある先輩への気持ちが溢れてしまう、という表現もあのページに含ませたので、その辺りも踏まえて読んでほしいです。


――その掛け合い後に満面の笑みで「でも好きなんだもん」と口にするシーンの破壊力もララの心をしっかり折る完璧な秀逸な表現でしたね。


壱弐:「いくら相手に粗があっても“好き”という気持ちの前では人は無力なんだよな」という自身の考えを反映させたくて、「でも好きなんだもん」という台詞にしました。もし先輩があのシーンで「でも自分が1番彼女を分かっていて…」とか、「でもあの子には私が必要なんだよ」みたいな台詞を言っていたら、ララならさらに反論していたかもしれません。


――「でも好きなんだもん」と言われたら、もうそれ以上何も言えないですよね……。


壱弐:はい。なぜならララ自身も、こんな先輩のことなんてサッサと忘れてしまえば良かったのに、ずっと「好き」で大人になっても想い続けていた人間なので。


――とてもスタイリッシュなキャラクターデザインも印象的ですが、作画についてはどのようなことを意識していますか?


壱弐:「自分にとって魅力的に感じることが出来るか」ということを意識しています。「人に贈るプレゼントは自分が貰って嬉しいものを選べば喜んでもらえる」とよく言います。「それは漫画の世界でも同じなんじゃないかな」と思っています。自分が魅力的に感じて、「何度も見たくなるようなキャラクターを描けば、読者の人もきっとトキメいてくれるんじゃないかな」とふと考え、その時から自分の中のキャラクターデザインの方針が固まりました。つまりはメインで出てくる登場人物は全て自分の好みの女性たちなんです!


――今後の活躍が楽しみですが、どのように活動していく予定ですか?


壱弐:SNSやコミティアなどで、オリジナルの百合漫画を公開していきたいです。また、いずれは漫画家として活動したいので、そのために努力していきたいです。今後描いてみたいモノとしては、現実にファンタジーを少し混ぜたような話、サスペンス、学園モノなどを考えています。今回の作品を楽しんでくれた人達とこれから自分を知ってくれる人達にも、「面白い!」と言ってもらえるように頑張ります!


(取材・文=望月悠木)


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