バイクのヤマハがまちづくりに本気! 「Town eMotion」ってどんな取り組み?

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2023年09月05日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ヤマハ発動機といえばバイクや電動アシスト自転車などのメーカーとして知られているが、そんな同社が「まちづくり」に関わっていることをご存じだろうか。「Town eMotion」(タウンイモーション)と銘打った活動で、これまでに日本各地でさまざまなプログラムを実施しているのだ。


○ゴルフカート由来の電動車両が「グリスロ」で活躍



1955年創業のヤマハ発動機は、草創期からの製品であるモーターサイクル、1960年代に参入したスクーターやボート、1990年代に世界に先駆けて市販化した電動アシスト自転車などが有名で、モノづくりのメーカーとしての印象が強い。



しかしながら同社の企業サイトを見ると、「感動創造企業」を企業目的に掲げており、ものづくりやサービスを通じて多様な価値の創造を追求してきたとある。



たしかにヤマハはサービスの分野でも、私たちに価値を提供してきた。「グリーンスローモビリティ」(グリスロ)はその代表格になるだろう。



グリスロとは最高速度20km/h未満で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービスのことで、2018年に国土交通省により提案された。観光客の周遊や高齢者の移動手段として活用が期待でき、低炭素社会にもふさわしい。



ヤマハの製品のひとつに、ゴルフ場などで使われるカートがある。同社では、これを市街地の移動手段に使いたいと考えた石川県輪島市に協力するかたちで、2014年から公道での走行を始めていた。



輪島市の取り組みが注目され、全国各地で同様の動きが起こる中、国土交通省が動き、グリスロが生まれた。つまりヤマハは、この分野の礎を築いた事業者のひとつなのである。



こうした経験をする中で、ヤマハ社内でも、地域が抱えるさまざまな社会課題を解決していこうという機運が高まり、モビリティをいかしたまちづくりプロジェクト「Town eMotion」(タウンイモーション)を立ち上げた。



担当するのは、2022年1月に行われたクリエイティブ本部再編に合わせて、新事業領域での価値創造機能強化のために新設されたフロンティアデザイン部。プロジェクトリーダーは電機メーカーから転職してきた榊原瑞穂氏が務めている。

○「走るベンチ」の可能性



Town eMotionではすでにいくつかの活動を行っており、筆者も何度かその場に立ち会う機会に恵まれた。



最初に訪れたのは、2019年10月に東京都世田谷区の世田谷公園で行われた「三宿みちまちフェア」(翌年9月にも開催)だ。地元の商店会の主催で、自治体、警察、大学などが運営に協力し、ヤマハ発動機が協賛した。



当日はヤマハが開発したオフロードも走れる電動パーソナルモビリティ「NeEMO」(ニーモ)、立ち乗り型電動3輪モビリティ「TRITOWN」(トリタウン)、電動アシスト3輪カーゴバイクなどで特設コースを走ることができた。


公園内には「三宿あおぞら図書館」も開館されていた。こちらにはヤマハのグリスロ車両をベースに、ベンチやルーフを備えたプロトタイプが置かれ、親子で車内に座り読書をすることができた。

ちなみにこのプロトタイプは、2022年3月と2023年5月に三宿通りで行われた社会実験「三宿モバイルパークレット」でも活用されている。



「パークレット」とは車道の駐車枠を異なる用途で活用する取り組みで、米国などで広まっている。日本でも国土交通省が2020年、人中心の道路空間を構築するための「ほこみち」制度を創設している。



筆者もいくつかの実例を見たことがあるが、多くはベンチを木などで製作しており、設置や撤収が大変そうな印象だった。「走るベンチ」ともいえるグリスロのプロトタイプは、利用者側だけでなく運営者側にもメリットが多いのではないだろうか。



さらに今年は、4月に茨城県つくば市、翌月には神奈川県鎌倉市でもイベントを開いている。



イオンモールつくばで行われたのは、つくば3Eフォーラムとの共催による「ひとまちラボつくば」。鎌倉は「鎌倉ワーケーションWEEK」のプログラムとして、「鎌倉ワーケーションで自己を整えて考える〜ウェルビーイングな人中心のまちづくりとモビリティ〜」を実施した。

○つくばや鎌倉でもプログラムを展開



つくば3Eフォーラムは環境(Environment)、エネルギー(Energy)、経済(Economy)の調和をとりつつ、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて研究・社会貢献活動を加速していくことをミッションとして、2007年に結成された。



会場は屋外と屋内の2カ所。屋外では今回が初公開となるヤマハのプロトタイプのデモ走行、電動アシスト3輪カーゴバイクや3輪自転車タクシーの試乗会を用意。屋内会場には救急医療用3輪電動アシスト自転車が参考出展された。


さらに屋外ではトークセッション「ホロニズム構想と、ひと中心の街とモビリティ」も実施。筑波大学システム情報系構造エネルギー工学域教授で工学博士の石田政義先生、前述の榊原氏とともに、登壇する機会をいただいた。



一方、2021年から年2回開催している鎌倉ワーケーションWEEKは、ウェルビーイングな社会の実現に向けて企業や個人が枠を超えてつながり、サスティナブルな行動やあり方を学び、次世代の働き方を共に実践する場として企画された。



今回は市内11カ所の寺院や宿泊施設などをワークスペースとして用意し、日蓮宗瞑想体験、パラサーフィンのサポート体験など、26ものプログラムを用意。



ヤマハ主催のプログラムでは、鎌倉ワーケーションWEEKの運営にも携わる、コワーキングスペース「ThinkSpace鎌倉」主宰の岩濱サラ氏、ヤマハの榊原氏および筆者によるトークセッションや、参加者を交えてのディスカッションが行われた。



実はTown eMotionの鎌倉での活動は今回が初めてではなく、2022年8〜10月に「ひとまちラボ鎌倉」を開設し、エコバッグ製作のワークショップ、ドラムサークル、トークイベントなどを開催してきた経験を持つ。



ひとまちラボつくばとは名称、鎌倉ワーケーションWEEKとは場所が共通していることからも、 Town eMotionの活動に一貫性があることが分かる。それでいて、現場を見てきたひとりとしていえるのは、個々のプログラムが個性的で、いろいろな楽しみ方を提供してくれていることだ。



まちづくりでも感動を創造していきたいというTown eMotionの活動に、これからも注目していきたいと思っている。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)
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