実写『ONE PIECE』はなぜ絶賛されている?「新世代」をテーマに再構成された序盤のストーリー

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2023年09月13日 07:10  リアルサウンド

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photo:Zoltan Tasi(Unsplash)

  ※本稿は実写版『ONE PIECE』のネタバレを含みます。


  8月31日に公開が始まるやいなや、世界中で大きな反響が巻き起こっているNetflixの実写版『ONE PIECE』。漫画を原作とした実写化企画としては、大成功と言っていいだろう。同作がこれほど多くの人に受け入れられている理由は、原作の序盤にあたる展開が巧妙に再構成されている点にありそうだ。


  現在配信されている実写版『ONE PIECE』のシーズン1は、全8話構成。原作の「東の海(イーストブルー)編」をもとに、ルフィの旅立ちからアーロン一味との戦いまでが描かれた。しかしその旅路は必ずしも原作と一致しているわけではなく、さまざまな点でアレンジが加えられている。


  もっとも目を引く改変は、物語序盤における海軍の動向が原作よりもつぶさに描かれていることだ。とくに、ガープ中将と新入り海兵・コビーの出番が格段に増加している。


  たとえば実写版の第1話では、ルフィがコビーと出会い、シェルズタウンで別れるまでの展開が丸ごと描かれることに。そしてその後、コビーはヘルメッポと共にガープの船に乗り込み、メインストーリーと並行してルフィたちの動向を追っていく。すなわち「偉大なる航路」(グランドライン)を目指す麦わらの一味と、それを追う海軍サイドの動きが、対になるように構成されている形だ。


  こうした改変によって、何が変わったのか。1つ目は、『ONE PIECE』の世界観が中立的に描き出されている点が挙げられるだろう。原作では海賊の視点だけで世界観が明かされていったが、実写版では治安を維持する海軍の視点から海賊の有り様が示されている。


  かといって海軍が正義、海賊が悪という図式でもなく、コビーの目を通して海軍の汚点や“いい海賊”の存在が描かれていることにも注意が必要だ。その描写があるからこそ、一般的には悪とされる海賊に憧れるルフィに視聴者が共感しやすくなっているのではないだろうか。


  もう1つ、ガープが物語の主軸になったことによる影響も大きい。第1話ではガープが22年前、海賊王ゴール・D・ロジャーの処刑に立ち会ったことが描かれていた。そしてメインストーリーでは、ベテランの海兵として新兵のコビーを育て上げていく一方、孫であるルフィとの対決を繰り広げる。


  こうした展開から浮かび上がってくるのは、ガープという旧世代の英雄が、新世代の若者たちに時代の主役を譲るというテーマ性だ。海上レストラン「バラティエ」に訪れた際、同じく旧世代を生きた赫足のゼフとふたりで語り合うシーンは、そんなガープの役割を象徴しているように見える。


バックボーンの深掘りで魅力を増した敵キャラたち


  そのほか実写『ONE PIECE』の改変としては、ルフィの前に立ちはだかる敵たちのバックボーンが分かりやすくなっていることにも注目したい。強迫観念の如く平穏な生活を望むキャプテン・クロや、魚人差別への復讐に燃えるアーロンなど、“悪の海賊”が生まれた背景が深掘りされているのだ。


  なにより、道化のバギーに関する補完はかなりの力の入れよう。原作の序盤では、シャンクスとの関係がはっきり明かされておらず、ルフィとの因縁も深くなかった。しかし実写版のバギーは、シャンクスに裏切られたと思い込み、主役になることに執着するようになった存在だ。この改変により、バギーというキャラクターの深みが増した上、シャンクスに麦わら帽子を預けられたルフィとのあいだに因縁が生まれている。


  さらにシャンクスの存在感も、原作より実写のほうが重みを増している印象だ。全8話のなかで、回想シーンが随所に挿入されることで、ルフィがシャンクスから受けた影響がより強調されていた。


  なにより第1話では、シャンクスの「友達を傷つける奴は許さない」というセリフが出てくるが、これは同ドラマのキーフレーズにもなっている言葉だ。各エピソードに、ルフィが敵から「仲間」(フレンド)を守るために奮闘する場面が存在しており、キャラクター性が際立つ作りとなっている。


   原作者・尾田栄一郎の監修により、大胆な肉付けが行われた実写版『ONE PIECE』。新たに紡がれたルフィたちの冒険を、ぜひ体験してみてほしい。


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  しかし同エピソードの連載が始まったのは、今から20年以上も前のこと。現代の価値観とのズレを解消するためか、実写版ではさまざまな点で設定やストーリーのアレンジが行われていた。


  まず同作を見始めて気づくのは、金棒のアルビダにまつわるエピソードのアレンジだろう。実写版の第1話で登場したアルビダは、巨大な金棒を振り回す恐ろしい女海賊であり、コビーを海賊団の雑用として使役していた。そこでアルビダが決めゼリフとして発するのが、「この海で一番強い海賊は誰だい?」という言葉だ。


  原作読者なら分かると思うが、ここでアルビダが放つのは、「この海で一番美しいものは何だい!?」という決めゼリフのはずだった。原作のアルビダはとにかく美へのこだわりが強く、船員たちに自分の美しさを褒めさせていたことが印象的だ。だが実写版では、美しさよりも強さにこだわるような性格となっている。


  また、原作ではルフィとコビーがアルビダへの反抗を示すため、彼女の容姿をけなすセリフがあったが、こちらも実写版では少し変化。ルフィは英語では「意地悪で残酷」「そして海牛のように頭が悪い」、日本語吹き替えでは「ドSの極悪人」「トドみたいにおつむが弱い」とアルビダをけなしていた。こうした改変からは、ルッキズム(外見至上主義)への配慮を感じられるだろう。


  そのほか、海上レストラン「バラティエ」で仲間になるサンジも、そのキャラクター造形が現代的なものに変化している。


  原作のサンジは女性にはとことん紳士的である一方、男性に対してはそっけなく、時として必要以上に愛想が悪い部分がある。それに比べて、実写版のサンジは女性好きなところは原作と変わらないが、男性に対しても紳士的な態度を崩さない。たとえばルフィがゾロのために「おにぎり」を作ってほしいとリクエストした際、にこやかに快諾するシーンなどが印象的だ。


  また、「バラティエ」に客として訪れたナミと出会った際に、年齢や未婚・既婚を問わない敬称「マダム」で呼びかけていたのも、現代的ですぐれた改変と言えるのではないだろうか。


  ほかにも、原作の序盤では男だらけだった海軍のなかに、女性の海兵の姿があったり、ナミが序盤から戦闘員として活躍していたりと、今の視聴者が違和感なく楽しめるようにする配慮が随所に見られる。


原作改変によって新たに生まれた名シーン


  実写『ONE PIECE』では、現代の視聴者に届けることを意識した結果、原作にはない名シーンもいくつか生まれている。そのなかでも必見と言えるのが、シロップ村におけるナミとカヤの心の交流だ。


  シロップ村に到着したルフィたちはウソップに出会い、カヤが住んでいる巨大な豪邸に泊めてもらうことに。そこでナミは夜中にこっそりと金目のものを盗んでいたが、運悪くカヤの部屋に飛び込んでしまう。しかしカヤは彼女が何をしていたのか知りながら、責めようとはせず、本音で話し合う“お泊まり会”が始まる……。


  ナミは貧困に苦しめられてきた過去があり、豊かな者から窃盗することに良心の呵責を抱いておらず、富豪のカヤに対しても偏見を抱いていた。だが、ふたりだけの夜を過ごした後、ナミの意識が変わったような描写が入るのだ。女性キャラクター同士が格差を超えて打ち解けるこのシーンは、現代ドラマならではの見応えがある。


  また「バラティエ」ではアーロンが来訪するという物語の変更があり、その結果として印象的なシーンが生まれた。アーロンは魚人を差別してきた人間を心の底から憎んでおり、我が物顔でレストランを占拠する。


  そこでアーロンは差し出された料理に手を出すのだが、テーブルマナーを無視してむさぼるような食べ方を見せる。そして周囲の人間に冷ややかな目を向けられていることに気づくと、逆上して人間を恫喝しながら、魚人が置かれている差別的な現状について語るのだった。


  原作では「魚人島編」で掘り下げられた魚人差別の実態だが、実写版では「バラティエ」の時点で先取りされ、アーロンのバックボーンを示すと共に、現代ドラマとしての深みを与えることにも成功している。


  そんな実写版『ONE PIECE』は公開早々、世界各国でNetflixの視聴ランキング1位を獲得している。おそらく原作を知らない人でも、違和感なく楽しめる作りになっているからこそ、ここまで広く受け入れられているのだろう。長大な『ONE PIECE』の世界に踏み入る入門編として、この上ない傑作が誕生したのかもしれない。


(文=キットゥン希美)


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