『ザ・ノンフィクション』で鳥のエサを食べていた貧困地下アイドル、彼女が手にした「人間らしい生活」

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2023年09月16日 21:00  週刊女性PRIME

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取材に応じた大浦きららさん

「調子に乗っているからこそ、今しかないでしょ。挑戦的なことをするの。それで、落ちたら落ちたでしょうがない。けど、今の時期に調子に乗れなかった言い訳みたいなことをつくりたくない」

 こう番組の最後に話していたのは、大浦きららさん。'17年2月に放送された人気ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)に登場した人物だ。

 肉体的には男性だが、性自認は女性である彼女は、放送当時450万円の借金を抱え、家賃2万9000円のアパートに暮らしていた。解体現場での肉体労働に従事し、年収は200万円ほど。しかし、そのほとんどが借金返済に消えていた。鳥のエサとして売られている“くず米”を食べる様子は衝撃だった。

肩まであった髪が丸刈りに

 困窮する生活の一方で、きららさんは地下アイドルとしての活動をしていた。彼女がひたむきに生き方を模索する姿には、胸を打たれた人も多いはず。あれから6年、彼女は今、どうしているのか。取材を申し込み、話を聞いた。

「きららと申します」

 8月末、待ち合わせ場所に現れたきららさんは、想像よりも小柄だった。肩ほどまであった髪はなく、丸刈りに。いったい彼女に何が……。

'19年の6月に髪を切ったんです。精神的に落ち込んで、“気持ち悪い”などと私を批判する人の声ばかりが耳に入る時期があって、その時に“いくらキレイになろうとしても無駄なんだ”と思い……。また、今はスーパーの棚卸し、運送会社での仕分け、イベント会場での準備設営など、さまざまな単発の日雇い仕事をしているのですが、就労条件に短髪黒髪と書いているところが多かったことも重なり丸刈りにしたんです。髪が長いとシャンプー代がかかるというのも理由のひとつでした」

「本当は会社員になりたかった」

 しかし、性自認は女性である彼女にとって、髪は大切なものなのでは……。

「仕事して自分の生活を守ろうとする中で、生活にまったく関係ない不利なことを求められますよね。例えば、女性は髪の毛がキレイであるべきだとか、ハイヒールを履くべきだとか。そういった、ジェンダーの概念を壊してしまおうと思ったんです。もっと自由でいいだろう、と」

 では、アイドル活動は継続しているのだろうか。

「最近は時折ライブを行うぐらいで、そこまで芸能活動はしていないんです。私としてはアイドルがやりたいことではなかったんですよ。そもそもアイドルのまねごとをして、個人的に楽しんでいただけで……。本当は定職に就いて会社員になりたかったというのが本音でした」

 その背景にはロストジェネレーション世代としての苦しみがある。きららさんは、大学卒業後に地元の企業に就職するも、1年半で退職。その後、非正規労働者として大手メーカーで10年ほど勤務するが、薄給で長時間の労働を強いられる過酷な環境に限界を感じ、再び退職する。

「その後、実家を出てひとり暮らしをするのですが、『ノンフィクション』への出演が決まったころは就職活動もうまくいかず、社会に打ちのめされ絶望していた時期でした。なので“私の姿が全国放送されたら非難が殺到して、死ぬ覚悟ができるだろう”って自棄になって取材を受けたんです。それが、放送されたら“頑張って”と応援する声がたくさん届いたので驚きました。私が知っていた世の中とは違い、やりたいことをやっていいんだよって、自分を肯定して後押ししてくれる世界があることを知れたんですから

数年前に“自己破産”

 困窮した生活にも変化が?

「『ノンフィクション』に出演したことで、劇的に生活が変化することはありませんでした。ただ、食料や炊飯器といった支援物資を送ってくれる方がいて、ありがたかったですね。番組の最後にはブログのアクセス数が10万超えをしたと話しましたが、実は1円も収入になっていません(笑)。でも、6年前から生活は大きく変化しています」

 友人たちにお金を貸したことで背負った多額の借金は、少しは減ったのだろうか。

実は自己破産をしたんです。'17年11月に申請し、借金が免責されたのは'18年の初めごろ。自力で返済しなくてはと踏ん張っていましたが、限界で。破産したばかりのときは“なぜ加入していた生命保険を解約してしまったのだろう。死ねば保険金で返済できたのに……”と、自責の念に駆られました。自分で飲み食いなどして借金が膨らんだ部分もあったので」

 きららさんの自宅は、築54年1K風呂ナシの木造アパート。家賃は1000円値上がりし、3万円になったという。室内に入ると、放送で見た景色が広がっていた。行水用のお湯をためるポリバケツは、今や食糧庫に。もう“くず米”は食べていない?

「今は白米だけですね。番組では、タバスコを水道水に混ぜて飲んだり、白飯にかけて食べたりしていましたが、大量に購入したタバスコが残っていたから使っていただけです。辛いものは好きなんですけどね。今はめんつゆやポン酢なんかをかけたりして食べています。時には乾麺のそばなんかも。乾燥キャベツをのせ……あっ、忘れてた!」

 そう話し、食糧庫の奥底から取り出したのは、“くず米”だ。虫が湧いている。

「知人と鳥のエサを食べてみようという企画のために買ったのですが、存在を忘れていました。もう、ゴミ箱行きですね。あぁ、虫がピーナツにまで侵食してる……。これも廃棄しなくっちゃ」

仕事終わりの“プチ贅沢”

 かつては道に落ちている食べ物を拾い食いしたい衝動と戦ったこともあったが、今は違う。余裕があるのだ。

「仕事終わりに居酒屋でお酒を飲んで、ラーメンを食べるプチ贅沢をすることもあります。破産前の贅沢は、仕事終わりにお腹がすいて我慢できずコンビニで惣菜を買って食べるぐらい。外食はほぼできませんでしたから。節制生活の反動でプチ贅沢が止まらない時もあります(笑)」

 現在の年収は250万円ほど。借金に追われる日々から解放され、人間らしい生活を手に入れた。番組内では絶縁状態だった父親との関係にも回復の兆しが見えていたが、

「その後はやっぱり自分の価値観を押しつけてくるばかりで……。結局、私の生き方に文句を言いたいだけなんです。心配なら、携帯がつながらなくなったときに手紙のひとつでも送ることはできるはず。なのに、それもない。私の自信を奪い、心を壊す存在でしかない。今後、父と連絡を取ることはありません」

 穏やかだったきららさんが、突然、感情を露わにする。

「大学を出たけど、なかなか正社員として雇用されないことを家族から責められ、自分もどうしてなんだと苦しんできました。けど、私はその考えから離れて、人生の可能性が広がりました。だからこそ、今つらい思いをしている人に、お金がなくても幸せになれるんだってことを知ってほしい。今後は、そういうことを発信できる存在になれたらと思っています」

 きららさんは自身のブログやYоuTubeなどで情報発信を行っている。《とりあえずね》で検索してみてほしいとのこと。

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