
医師の長時間労働を規制する「医師の働き方改革」が、来年4月から始まります。労働時間が短くなることによる地域医療への影響を抑えるため、「宿直」「日直」の負担が軽ければ特例として労働時間とみなさなくてよくなる「宿日直許可」を、国と病院が増やそうとしています。医師で医療経営に詳しい武藤正樹・元国際医療福祉大教授は、「実際には働いているのに労働時間とみなされない『隠れ宿日直』につながる」と指摘します。詳しく聞きました。
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「医師の働き方改革」は、医師の健康を守ることによって、医療の質も担保するのが目的です。つまり、患者のために進めるべきものです。
厚生労働省と病院はそのことを理解し、長時間労働を見えなくする「隠れ宿日直」を今すぐやめるべきです。医療事故の原因にもなり、ツケはすべて患者に回ります。
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厚労省の宿日直の許可基準は、「少数の軽症の外来患者」「十分睡眠がとり得る」など、具体的な数値がなく、幅のある表現です。
本当は忙しい現場にも許可がおりてしまう原因になりますし、労働基準監督署が「許可しないと地域医療が困るだろう」と忖度(そんたく)し、審査に手心を加える余地があります。
また、厚労省の調査によると、ここ数年で医師の時間外労働が減っていますが、現場の実感とは異なります。調査結果に「隠れ宿日直」が含まれている可能性を踏まえれば、調査の信憑(しんぴょう)性は高くありません。
昔、私自身も、本来は患者を見回るだけの宿直中に急患を何人も診療し、翌日そのまま勤務していました。それが当たり前の時代でした。
時代は変わったはずなのに、2022年度の厚労省の調査では、院長と副院長の57%が医師の勤務状況について「現状のままで良い」と答えました。古い考え方が抜けていないのです。
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病院が、労基署の許可後もいい加減に宿日直を運用する原因になっているのではないでしょうか。
労基署を管轄する厚労省は、許可基準を厳密に適用すべきです。許可後の病院に対しても、宿日直の運用実態について調査が必要です。
それが医師の健康、医療の質、そして患者の安全を守ることにつながります。
働き方改革と地域医療を両立させたい厚労省は、宿日直許可を増やすことは「やむを得ない妥協」と考えているのでしょう。
でも、小手先で取り繕っても医師の労働環境は改善しません。
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どうすればいいか。短期的には、医師の負担を少しでも軽くするため、医師の業務を医師以外の職種に移す「タスクシフト」を進め、業務効率化のため医療DXやAIも活用します。
長期的には、特に医師不足の地域では、病院の統廃合などによる「医療機能の集約」を進める必要があります。
同時に、救急や産科など人手の足りない診療科の医師を増やしたり、人手不足の地域に首都圏から医師を派遣したりして、「医師の偏在」も解消していくほかありません。(聞き手・枝松佑樹)
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