ビリンガム『ハドレースモール』。老舗英国メーカーの渋いカメラバッグは、“使いどき”の年齢がある

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2023年09月22日 11:01  マイナビニュース

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けっこう前のことなので記憶が曖昧ではあるのだが、ビリンガム『ハドレースモール』を購入したのは、確か2005年頃だったと思う。


○■買ったはいいものの「おっさん臭い」と思い、しまい込んでしまったカメラバッグ



当時の僕はレンズ交換式のレンジファインダーカメラに凝っていて、フォクトレンダー『BESSA』シリーズのフィルムカメラ2台と、発売されたばかりの世界初デジタルレンジファインダー機、リコー『R-D1』を持っていた。



レンジファインダーカメラ最大の特徴は“汎用性”で、世界中のカメラメーカーが作った同規格のレンズに交換しながら使うことができる。

年代物から新製品まで、市場に出回る膨大なレンズ群の中から、自分の好みや撮影スタイルに合うものを探し出して使うのが、レンジファインダーカメラの醍醐味なのだ。



多くのレンジファインダー使いは、未知なる撮れ味を求めてレンズが次々と欲しくなり、やがて金に糸目をつけずに、一本数万円から数十万円もするレンズをどんどん買い求めていきがちになる。

人はこれを“レンズ沼”と呼ぶが、僕も当然のようにその沼にハマりかけてしまった。



ビリンガムの『ハドレースモール』はその頃、手持ちのレンジファインダーカメラや、増殖した交換レンズを持ち運ぶのにちょうどいいと思って購入したカメラバッグだったのだ。



しかし、ネットで注文して手元に届いたこのバッグを、僕はあまり気に入らなかった。

肩から下げてみたところ、思っていた以上に渋い雰囲気で、戸惑ってしまったのである。

要するに、「なんだかおっさん臭いな」と感じたのだ。



当時の僕は30代半ばだったので、自身も既におっさんといえばおっさんだったのだが、10代〜20代向けストリートファッション誌の編集長をやっていたこともあり、年齢なりに老け込んでいくことに抵抗感を持っていた。

トラッドな雰囲気に惹かれて購入したものの、「このバッグは俺にはまだ早い」と決め込み、クローゼットの奥底にしまい込んだ。

その後の長い間、僕のビリンガムが日の目を見ることはなかったのである。


○■カメラファンが憧れるビリンガムは、イギリス生まれの老舗カメラバッグメーカー



ビリンガム(Billingham)は、1973年にイギリス・バーミンガムで創業された。

創業者マーチン・ビリンガムが趣味である写真撮影の機材を持ち運ぶため、妻のロス・ビリンガムが手作りしたバッグを使っていたところ評判となり、スタートしたバッグブランドだ。



ビリンガムのカメラバッグは耐久性とデザイン性に優れていたため、プロからアマチュアまで多くの写真愛好家に広く使われるようになった。

ライカ社にも見出され、様々なコラボモデルを発表したことから高級品のイメージがつき、“カメラバッグのロールスロイス”とも称されるようになる。

そして現在のビリンガムは、カメラバッグを中心としながら、日常的に使える様々なバッグの製造に手を広げ、総合バッグブランドに成長している。

僕が塩漬けにしたビリンガム『ハドレースモール』のことを思い出したのは、数年前のことだった。

きっかけは、家から近い駅のショッピングモール内にあるおしゃれ文房具屋を物色していたとき、シンプルながらもしっかりした作りの小粋なショルダーバッグを見つけたことだった。

スマホやタブレット、本、財布など最小限のものを入れ、ワンマイルの外出をするのにちょうど手頃でいいなと思い、そのバッグを吟味していたら、佇まいや素材感、デザイン性に見覚えがあることに気づいた。

メーカーは、ビリンガムだったのだ。


その小さなショルダーバッグ(商品名『サコッシュフラット』。現行品は少し形状が改良されている)を購入した僕は、「そういえば…」と思い出し、我が家のクローゼットの森に分け入って、10年以上前に「いつかそのうちな」と言い聞かせて眠りにつかせたビリンガム『ハドレースモール』を引っ張り出してみた。



久しぶりに肩にかけて鏡を覗いてみたら、あら不思議。

前はあんなに気になった違和感がまったくなくなり、すごくいい感じに見えたのだ。

“あら不思議”なんてとぼけても仕方がない。簡単なことだ。

要するに自分が10数年分しっかりと老け、正真正銘、逃れようのないおっさんになっていたので、ビリンガムのカメラバッグも年相応に似合うようになっていたのだ。


○■カメラバッグだけど、カメラだけしか入れちゃいけないわけではない



もう一度、時間をさかのぼると、レンジファインダー機に凝り、“レンズ沼”にハマりかけた30代半ば頃の僕は、一介のしがないヤングサラリーマンだった。

高価なレンズをこのまま際限なく買い続けたら、やがて破産しかねないことに気づき、後ろ髪を引かれつつも所有していたレンジファインダー機を、すべて手放すことにした。



でもその後もカメラ好き自体は直らず、現在に至るまで単焦点コンパクトデジカメや、フィルムのクラシックカメラを買い集め、撮影を楽しんでいる。

でも一台のカメラに対して常に数本のレンズを持ち歩かなければならないレンジファインダー機や、大きな一眼レフ機は使わないので、もはや専用のカメラバッグは不要。



だけどサルベージしたビリンガム『ハドレースモール』は、この歳になって眺めてみると本当に素敵だ。そう思った僕は、このバッグを普段使いすることにした。

嵩張るカメラ一式を持ち歩くことはなくても、僕はスマホ内蔵カメラでは飽き足らず、今でも出かける際には必ず、何か一台のカメラを持ち歩くようにしている。

小さなカメラだけではスペースはガラ空きだが、僕はこのビリンガム『ハドレースモール』に、日常的に携行するいろんなものも一緒に詰め込むことにしたのだ。

カメラバッグだからカメラ機材しか入れちゃいけないなんていうルールはないのだから、これでいい。



カメラバッグ特有の、コンパクトでコロンとしたフォルムは愛らしく、持ち歩いていると人から「いいバッグだね」と褒められることも多いビリンガム『ハドレースモール』。

これから先も末長く、相棒としていろんな冒険や日常を一緒に楽しんでいきたいと思っている。


文・写真/佐藤誠二朗



佐藤誠二朗 さとうせいじろう 編集者/ライター、コラムニスト。1969年東京生まれ。雑誌「宝島」「smart」の編集に携わり、2000〜2009年は「smart」編集長。カルチャー、ファッションを中心にしながら、アウトドア、デュアルライフ、時事、エンタメ、旅行、家庭医学に至るまで幅広いジャンルで編集・執筆活動中。著書『ストリート・トラッド〜メンズファッションは温故知新』(集英社 2018)、『日本懐かしスニーカー大全』(辰巳出版 2020)、『オフィシャル・サブカルオヤジ・ハンドブック』(集英社 2021)。ほか編著書多数。 この著者の記事一覧はこちら(佐藤誠二朗)

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  • ビリンガム、カメラバッグとしてではなく、ショルダーバッグとして愛用している。
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