アレックス・パロウが圧倒した2023年インディカー。年間5勝でタイトルを獲得した強さの秘密

0

2023年09月22日 15:50  AUTOSPORT web

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

AUTOSPORT web

自身2回目のインディカー・シリーズタイトルを獲得したアレックス・パロウ
 2023年のNTTインディカー・シリーズは、第16戦ポートランドでシーズン5勝目を挙げたアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ)が、2021年に続くアメリカ最高峰シングルシーターにおける自身2回目のタイトル獲得を参戦4年目で早くも果たした。パロウは今シーズン、一貫して速さを披露し続けていたが、その速さは後半に連れて強さを帯びながら増していった。その秘密に注目してみよう。

 パロウの成長、そして彼が至った完成度の高さにはただただ驚かされる。デイル・コイン・レーシング・ウィズ・チーム・ゴウからデビューした2020年の時点で、スピードそのものや新たな環境に対する順応力の高さ、年齢に似合わない冷静なレース運びを見せていた。

 翌2021年には名門のチップ・ガナッシ・レーシング入りを果たし、シリーズトップの信頼性を誇るマシンとクルー、さらには高い作戦力までをも与えられると、成績は飛躍的に向上。移籍初年度にして1度目の王座へと上り詰めた。

 昨年はマクラーレンとの契約問題なども絡んだためか、シーズンで計1勝、ランキング5位という結果に終わったが、今年はライバル勢も舌を巻く強さと安定感をシーズンを通して披露し続けた。

 今年のパロウの戦いぶりを見ていると、初タイトルを獲得した2シーズン前より一段も二段もレベルアップしていたと感じた。ポールポジション獲得回数は2回と、少ないと感じさせる数しか獲得できなかったが、ストリート&ロードコース12戦での予選におけるファイナル進出は9回と、パト・オワード(アロウ・マクラーレン)と並んでのシリーズトップの成績だった。

 さらに言えば、パロウの強さはシーズンを通して予選でよりレースで発揮されていた。第16戦ポートランドでの戦いぶりには、それが明快に現れていたと言えるだろう。

 予選を5番手で終えた彼に対して、「大逆転チャンピオンに向け、目指すは勝利のみ」というライバルのスコット・ディクソンはひとつ前の予選4番手。

「相手に大きく差を付けられなければタイトル決定」という、外野には余裕も感じさせる状況にあったパロウは、無理をせず慎重に相手を視界に収めたままゴールを目指す……という戦い方もあっただろう。

 迎えたレースでは、アクシデントの起こりやすい1周目のターン1にも落ち着きを払い、隙を見て堂々かつ果敢にアプローチした。すると目の前が開けて、2ポジジョンアップを実現した。

 逆にディクソンは2ポジションのダウン。パロウの先行を許した彼は、レースの主導権を得ようとプッシュ・トゥ・パスを積極的に使いレース序盤からプッシュした。するとパロウは、ディクソンの思惑を打ち砕くべく、ハイペースを保って対抗し、そのまま優勝へと逃げ切った。

 シーズン5回目となる優勝を挙げてのタイトル獲得決定。こうしてパロウが理想的な形でチャンピオン争いに決着を着けることができたのは、彼がレース中の状況に合わせた最速ペースで周回を重ねる能力において、ライバル勢を大きくリードしていたからだ。

 タイトルを決めたポートランドでの彼は、ソフトタイヤ装着時にプッシュし過ぎてタイヤを傷めないよう気を配りながら、ペースの不足分はプッシュ・トゥ・パス利用で補い、ディクソンの接近=逆転の雰囲気の醸成を防いでいた。

 2度のタイトル獲得を成し遂げながらも、実はまだパロウはオーバルレースでの勝利がない。しかし、インディカーの世界で彼のオーバルでの実力が低いと考えている者はいない。

 今年のインディ500でパロウはポールポジション(PP)を獲得した。彼にとって初めてのインディPPは、先輩チームメイトのディクソンが狙う歴代最多6回目の(リック・メアーズと並ぶ)PPを阻止するものとなった。

 レースでも彼は余裕を持ってトップを走行。しかし、ピットで他車にぶつけられて勝機を逸した。それ以降のインディアナポリス以外のオーバルでも、パロウはスピードと安定感を見せ続けており、オーバルでの勝利が記録されるのは遠い日のことではないだろう。

 2022年シーズンの半ばには、「来年はもうガナッシでは走らない。マクラーレンに移る」と宣言したパロウだったが、訴訟騒ぎ、調停、交渉を経て2023年はガナッシからの継続参戦に落ち着いた。

 2023年のタイトル獲得が決まった直後、チーム代表のチップ・ガナッシは「パロウは来年も我々のマシンに乗る」とテレビカメラを目の前にして発表した。スペイン出身の26歳はアロウ・マクラーレンへの移籍を取りやめたのだ。

 すると、タイトル獲得に向けた戦いを続けるなかで“チーム移籍にメリットなし”と考えを180度転換。今度はマクラーレンがパロウを告訴する事態となっている。

 結局、マクラーレンの3台目に座るドライバーがデイビッド・マーカスになることを発表した通り、彼らはパロウ獲得は断念。しかし、その混乱に対する損害賠償として20〜30ミリオンドル(時価総額約29億4000〜44億1000万円)を請求するようだ。
    ニュース設定