どれだけ知ってる? 教習所で教わらないバイクTips 第27回 バイクで転倒! そのとき、どうなる? どうする?【前編】

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2023年09月25日 16:01  マイナビニュース

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バイクは「転倒」のリスクを抱えた乗り物ですが、「走行中の転倒」は「立ちゴケ」とは比較にならないほど大きなダメージを受けます。しかし、バイク免許の技能教習には「上手な転倒の方法」といったものはないため、ほとんどのライダーは「初めての転倒」を公道という危険な場所で経験しているはずです。その時には頭の中が真っ白になり、何もできなかったとしても無理はありません。



転倒のケースはさまざまですが、バイクはなぜ転倒し、乗っているライダーがどうなるかを理解しておけば、何も知らないよりは身を守るために役立つはずです。今回は前編/後編の2回に分けて「バイクの転倒」について解説します。

■バイクはなぜ転倒するのか?



停止中と違い、走行中はバイク自身が転ばないようにバランスを取るため、ライダーが足で踏ん張る必要はありません。そのバランスしているはずのバイクが転倒してしまうのは、砂や雨などの路面や、ライダーが誤った操作をしてタイヤを滑らせたことが原因です。

しかし、タイヤが滑っても、転ぶか転ばないかは個人差があります。ちょっと滑っただけで転んでしまう人もいれば、車体を真横にしながら平然と走らせるプロもいます。転倒する理由をもう少し正確に言えば、“そのライダーがタイヤのグリップをコントロールできなくなった時”と言えるでしょう。



タイヤは路面と歯車のようにガッチリと組み合っているわけではなく、加減速や遠心力、ゴムの変形などによって非常に小さなズレ(スリップ)とグリップを繰り返しています。さまざまな速度の直進やコーナリングなどを経験していくことで「コントロールできているから転倒しないだろう」という安心感を持つことができます。



例えば、オンロードしか走ったことがないライダーがオフロードを始めて走ったとしましょう。最初はアスファルトよりも不安定なグリップ感に恐怖を感じますが、次第にダート独特のフィーリングに慣れ、要領のよい人ならタイヤを滑らせて走ることができるようになります。



その後、再びオンロードに乗り替えると、わずかに滑った程度なら慌てずにグリップを回復させられるでしょう。アスファルトと違うダートという路面や、タイヤが滑った時の挙動を体験したことでタイヤのグリップをコントロールするスキルがアップしたからです。曲芸のような走りを見せるプロのライダーも決して無謀なことをやっているのではなく、さまざまなトレーニングを積み重ねたことで高度なグリップ・コントロール術を会得しているというわけです。



しかし、いくら上手なライダーでもさすがにスリックタイヤで氷上を走ることはできないように、転倒リスクを下げるにはタイヤというものが重要になってきます。


■グリップをコントロールするにはタイヤも重要



バイクで安全に走るには「タイヤ」が重要であることは多くのライダーが知っています。しっかり路面にグリップしてコントロールできている安心感を得るには、空気圧や劣化具合の管理は当然ですが、長い歴史を持つ有名メーカーの製品であれば信頼度も高まります。しかし、高価で最高級のハイグリップが一番安心というわけでもありません。



サーキットの走行も想定したハイグリップタイヤは確かに強力なグリップ力を持っていますが、中には温度依存が高く、雨天や低気温、路面の荒れなどがある一般公道ではスポーツやツアラータイヤより扱いが難しい製品も存在します。絶対的なグリップ限界の高さよりも、滑り出しは早くても過渡特性が穏やかな方がコントロールしやすいというライダーも数多くいます。



また、新品タイヤは滑りやすいため、親切なショップのスタッフなら『皮むきが終わるまで気をつけて』とアドバイスをしてくれるはずです。「皮むき」といっても玉ねぎのように路面に接する「トレッド」を一皮むくわけではなく、バンク角は徐々に増やすと同時に、直立状態の加減速でタイヤ全体を揉んで内部をなじませる必要があります。これは数百キロも行う必要はありませんが、「皮むき」が終わればいつでも性能をフルに発揮してくれるというものではないので気をつけてください。



新車のバイクは1,000kmほどの「慣らし運転」をしますが、この期間が終わっても冷間からの始動時はエンジンが適温になるまで急激な操作や回転数を控えた「暖気運転」を行います。これはタイヤも同じで、常に乗り始めはタイヤの接地面だけでなく、走行することでタイヤ全体が温まっていくのを意識してください。タイヤが温まりにくい冬期や、何カ月も乗らなかった時は念入りにウォーミングアップした方がよいでしょう。


■「怖がりすぎ」も危険度を高めてしまう



走行中の転倒は足や腰のほか、身体全体を路面に打ちつけます。転倒の経験をした場合、その時の痛みや恐怖の記憶がトラウマになることもあるでしょう。しかし、過度に転倒を恐れてしまい、危険を感じた場面でバイクの操作を誤ってしまうのもよくありません。バイクという乗り物はライダーの心身にシンクロするため、身体に力が入ってしまうと曲がれるコーナーも曲がれず、ブレーキもロックさせてしまいます。



このようなことにならないように、強いブレーキをかけないで済むような安全運転を心がけるのも大事ですが、不注意なクルマや人が飛び出すことだってあるはずです。教習所で急制動の課題に合格していても、ブレーキのスキルが鈍っていればとっさの急ブレーキを成功させるのは難しいでしょう。



昔から『バイクは見た方向に曲がる』と言われています。正確にはバイクを曲げるにはしっかりしたテクニックが必要ですが、迫り来るアウト側を見てパニックにならないように目線をそらす、という意味もあったのだと思います。「止まれる」という自信があれば、目の前に壁や障害物が迫っても冷静なブレーキ操作ができるはずです。



ブレーキはミスをするとロックして転倒する恐れがありますが、上達すれば転倒や事故を防ぐ最大の武器になります。前後ブレーキの上手な使い方やロック寸前の挙動、ロック時のリカバーが少しでも身につけば万が一の時に必ず役立つはずです。ただ、公道での練習ではリスクも高いので、ライディングスクールなどに参加するのをおすすめします。



自分のバイクを使ったスクールもありますが、レンタルバイクを使ったオフロード走行では、グリップが不安定なダート路面でのコントロールや、タイヤをスライドさせる感覚も体験できます。転倒することもありますが、低速のダートならダメージも少なく、限界時のバイクの挙動や転ぶ時の感覚、受け身の取り方なども身につくはずです。


■「転倒」よりも怖いのは「そのあと」



「滑り台」は公園にある代表的な遊具です。子供が「滑りたい」と言えば、それをとがめる親はほとんどいないでしょう。しかし、その滑り台はとてもスピードが出る上、滑り降りた場所に鉄製の遊具が設置され、周囲にたくさんの子供が走り回っている状態だとしたらどう思うでしょうか。



これはバイクでも同じことが言えます。走行中のバイクが転倒するとライダーは路面に身体を打ちつけた後に滑走していきますが、それだけで命を落とすほどのダメージを負うケースはごく少数です。安全性の高いバイク用ウエアを装備していれば、かすり傷も負わずに済むこともあります。しかし、それは“ただ転んだだけ”ならの話で、滑り台の例で示した例のように、リスクが高まるのは転倒して滑った後になります。



サーキットではライダーが激しく転倒することもありますが、命を落とすことはそれほど多くありません。これは彼らが転倒した時の対応に慣れているほか、コース上に衝突時のショックを軽減するランオフエリアやスポンジバリアが設けられているためです。不幸にも大ケガや死亡事故になるケースもありますが、そのほとんどは安全設備が未設置の区間で起きた転倒や、後続車との衝突によるものです。



公道にはランオフエリアやスポンジバリアもないどころか、ガードレールやコンクリート壁、電柱などの固い構造物のほか、クルマという鉄の塊が何台も走行しています。転倒直後は打撲や擦り傷で済んだとしても、その後にこれらに衝突して大きなダメージを負ってしまうというわけです。



冒頭に書いたように、ほとんどの人がぶっつけ本番で初めての転倒を経験します。しかし、同じような状況で転倒しても「どのように転倒したか」や「ライダーが取った行動」によって身体のダメージは大きく変わってきます。これは次回の後編で解説します。


津原リョウ 二輪・四輪、IT、家電などの商品企画や広告・デザイン全般に従事するクリエイター。エンジンOHからON/OFFサーキット走行、長距離キャンプツーリングまでバイク遊びは一通り経験し、1950年代のBMWから最新スポーツまで数多く試乗。印象的だったバイクは「MVアグスタ F4」と「Kawasaki KX500」。 この著者の記事一覧はこちら(津原リョウ)

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