ホテルの明細書や愛のメールで「不倫」は認められるのか? 実際にあった裁判を徹底解説

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2023年09月28日 10:11  弁護士ドットコム

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一生添い遂げることを誓って結婚した夫婦であっても、共に生活していればさまざまなトラブルが起きるものです。その一つが不倫トラブルです。発覚後に夫婦関係を再構築する夫婦もいれば、裁判を起こして法的な責任を追及する人もいます。


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今回、妻が夫の不倫相手とされる女性に対して、不貞行為にもとづく損害賠償請求を起こした裁判を紹介します(東京地裁令和3年1月27日判決、判時2514号39頁)。



夫と女性が「愛おしく思っている」とメールを送ったり、ホテルの利用明細書があったりしたことから、妻は「不貞行為があった」と主張していましたが、訴えられた女性側は「不貞行為そのものがなかった」と真っ向から否定したものです。



はたして、裁判所はどのように判断したのでしょうか。年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による解説をお届けします。



●夫とA子は会社の同期だった



事案としては単純です。妻である原告が、原告の夫と被告A子が不貞行為をおこなったとして、妻がA子に対して、不貞行為に基づく損害賠償請求をおこなったものです。なお、A子も結婚しており、夫がいます。また、夫とA子は、同じ会社の入社同期という関係です。



夫は、2016年5月28日に海外出張に行ったあと、妻の住む自宅に戻らなくなり、別居を開始しました。



妻は、遅くとも2012年頃から、A子と夫が交際を始め、デートに行ったりホテルに行ったりして不貞行為をおこなっていると主張していますが、A子は不貞行為そのものがなかったと否定しています。



●妻はホテルの利用明細書を発見

判決で認められた主な事実関係は、以下のとおりです、



2013年7月18日 夫が妻に対して離婚を申し出る。ただし、理由は「愛情を持てなくなった」という程度のあいまいなもの。2014年12月 妻が自宅でホテルの利用明細書を発見。2014年12月2日にホテルを利用した旨の記載がある。(証拠:ホテルの利用明細書)2015年1月26日 妻が夫とA子との間のメールのやりとりを発見。内容は後述。(証拠:メール)2015年1月28日 妻が夫に対し、不倫ではないかと問い詰める。2015年11月29日 夫から妻に対し、再度離婚を申し出る。2016年5月28日 夫が海外出張に行ったあと、妻の住む自宅に戻らなくなった。2020年12月4日ごろ 妻が夫の手帳を発見。手帳の内容は後述。(証拠:手帳)





●夫のメールと手帳を証拠として提出

また、裁判において提出された証拠として、夫とA子の間でされたメールと夫の手帳がありましたが、その内容は以下のとおりでした。



●メール

2014年10月21日
夫→A子 雨が止んでたら夕方16:00から会えます
A子→夫 え?明日は予定が変わったの? お天気次第になったの?●さん(原告の夫)との約束と同じくらい大切な用事を貴方との約束あると思い、午後、夜共に断っているので、明日はそちらの都合の方を優先してもいいかな。お目にかかるのはまたにしましょう。 お互いを思いやる愛情と信頼でのみつながっている私達の儚い関係を思えば、せめて、理由を聞かせてほしいとは思わないでしょうか。



2014年11月16日
A子→夫 (原告の夫から予定を聞かれたことに対し)書類を3時間位までに目処つけてそれから4〜5時間位君を見つめる時間かな!
晩御飯まで一緒に食べれますがそちらの都合をベースに考えてみて下さい。そちらへ行っても構いません。
連絡ありがとう!昼ごはんは食べた??渋谷で待ってるね。



2014年12月17日
A子→夫 国分寺で待っていてもいいかしら。一緒にご飯を食べようね。19:00頃有楽町に到着できるけれど、いかがですか?
夫→A子 有楽町のエストネーション(ビックカメラ横)でお会いしましょう。
A子→夫 19:10 有楽町到着です。



2014年12月20日
A子→夫 お互いにかけがえないと奇跡のように心から愛しあって、愛おしく大切に思ってきて、何に負けてしまったんだろう。
…貴方が、私への愛情から難しい状況の中でふたりのために精一杯努力して、出来る限りのことをしてきてくれていたこと、ずっとずっと有難くて本当に嬉しく思っていたよ。



夫→A子 ねぇA子 僕達まだ遅くないよ。だって、今でも心から愛してるから。 いつも君を愛おしく思っているし、繋がっています。



2014年12月27日
夫→A子 君の隣で空気を吸いたい…



2014年12月28日
A子→夫 今日も寒いね 元気?
夫→A子 貴女を思ってます!Huluで失楽園を見てしまい、更に貴女を思い焦がれてしまっております…
A子→夫 失楽園〜!!私達のハッピーな様子は思い描く事ができますか(^^/
夫→A子 もちろん!将来は君と僕で2人で幸せに暮らすぞ〜!顔見て、頬ずりして君の手を触って隣にいたい。君とただただ寄り添っていたい。



2014年12月30日ごろ
A子→夫 もし、今も希望を感じておつきあいを続けていたら一緒にジムに行ったり出来てたのかなと思いました。今日は予定をあけていたので残念です。
夫→A子 …予定を空けておいたの先に伝えて欲しかったよ。⚪️日大丈夫としてたのに
A子→夫 どういう気持ちで会うの?また去年、一昨年の繰り返しでは??



2014年12月31日
A子→夫 (原告の夫がアメフトの試合のチケットを取ったことに対し)ライスボウルのチケットもご手配ありがとう!とっても楽しみです〜(絵文字)11:30水道橋ね!それから、●(原告の夫)さんの44歳を(絵文字)新年にふたりであらためてお祝いしましょうね(絵文字)





●手帳:2014〜15年のメモ

12/17(水)有楽町 韓国 ¥4000 ¥4000国分 1100 電車5/29 … 3800ホ渋 …8/8 … 国分寺6762円 …9/1 … 国分泊タクシー910



さて、これらの証拠を見たら、皆さんは、夫とA子の間に不貞行為があったかどうかについて、どのように考えるでしょうか。



●裁判所の判断は?



結論から言えば、このような事実関係や証拠で、裁判所は、不貞行為があったとは認められないとして、妻の請求を棄却しました。



判決では、上記メールのやりとりから、夫とA子が何回か会っていることや、主に太字の文面を引用して、「非常に親密な内容のメールを交換している」ことは認められるとしました。



しかし、「A子と夫が、非常に親密な関係にあり、また、会うことがあったことは認められるものの、それを超えて不貞行為を行っていたことまで推認できるとはいえない」と判断したのです。



また、手帳において、「ホ渋」「国分」「国分寺」「国分泊」と記載されており、さらに、ホテルの利用明細書があったことから、妻は、A子と夫がラブホテルを利用したり、A子が当時住んでいた国分寺を訪れたり、宿泊したことがわかると主張していましたが、利用明細書については、「ホテルの利用日時が記載されているにすぎず、これをもって、夫がA子とともにホテルを利用したと認めることはできない」と判示しました。



手帳の記載については、「夫が、渋谷のホテルを利用したことや、当時A子が住んでいた国分寺を訪れたり、国分寺に宿泊したりしたことは窺われるものの、そのことからA子と夫が不貞行為に及んだと推認するのは、飛躍があるといわざるを得ない」と判示しています。



なお、A子は「心から愛しあって」「愛おしく大切に思ってきて」などの文言は、A子が帰国子女であり、「愛する」という言葉への感覚が欧米的であることによるなどと主張していました。



また、「もし、今も希望を感じておつきあいを続けていたら一緒にジムに行ったり出来てたのかなと思いました」との文言は、「会社の同期として行き過ぎた言動を夫がすることなく、同期にふさわしい関係が維持され、長い人生のなかで生起する様々な困難をともに乗り越えていけるという希望を持てる状況であれば、一緒にジムでトレーニングをしたかったという述懐である」などと主張したりしていました。



しかし、判決において、これらはいずれも不自然不合理であるとされ、A子の主張は採用されていません。しかし、「A子が、夫との関係について、不自然不合理な主張及び供述をするからといって、A子と夫が不貞行為を行っていたと推認できるものではな」いとされて、結論は動きませんでした。



●不貞行為の立証のハードルは高い

メールや手帳を見た方の中には、A子と夫との間で不貞行為がおこなわれているだろうな、と感じる方が多いのではないでしょうか。



特に、メールにおいて、2014年12月20日と12月27日のやりとり(特に、判決文が引用している太字の部分)を見たり、手帳において、ホテルに宿泊していると思われる記載があれば、不倫しているだろうと考えるのも無理はありません。



しかし、今回のケースのように、実際にはここまでの証拠があっても、不貞行為が認められなかった事例もあります。もちろん、裁判官にもよるところはあるので、同じ証拠で不貞行為を認める裁判官もいる可能性はありますが、担当裁判官を選ぶことはできないので、確実なことは言えません。



そのため、訴訟において、不貞行為が認められるためのハードルは、普通の人が「浮気しているだろう」と考えるレベルよりも、相当高いと覚悟しておいたほうがいいと思います。



ただ、だからといって、闇雲に探偵に頼むなどして、証拠収集に躍起になる必要はありません。相手が不貞行為を認めてくれれば、それ以上の証拠は不要なので、普通の人が「浮気しているだろう」と考えるレベルで、相手が観念するケースはよく見かけます。



そのため、事前に弁護士と相談して、手持ち証拠とこれから取得できる見込みの証拠を検討したうえで、その後の対応を検討することをおすすめします。




【取材協力弁護士】
中村 剛(なかむら・たけし)弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URL:https://rikon.naka-lo.com/


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