日産リーフの強敵? 中BYD「ドルフィン」は性能も価格も“衝撃”のEVだった

0

2023年09月29日 11:31  マイナビニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
中国BYDの小型電気自動車(EV)「ドルフィン」が日本で発売となった。集合住宅の機械式駐車場にも入る絶妙なサイズと補助金込みで300万円を切る価格設定が見事だが、肝心なのは乗ってどうなのかだし、性能と価格のバランスも気になる。2つのグレードに試乗してきた。


○日産「リーフ」と比べてみた



ドルフィンは日本では「ATTO3」に続く2台目のBYD製EVだ。ATTO3はSUV、ドルフィンは小型ハッチバック車である。



ATTO3と比べるとドルフィンは一回り小さい。ボディサイズは全長4,290mm(ATTO3に比べ-165mm)、全幅1,770m(同-105mm)、全高1,550mm(-65mm)だ。車幅が1.7mを超えるので3ナンバー車になるが、全高は1.55mなので、多くの立体駐車場にとめることができる、集合住宅の多い都会でも手に入れやすいEVだ。


グレードは標準的な「スタンダード」と一充電走行距離がより長い「ロングレンジ」の2種類。車両価格はスタンダードが363万円、ロングレンジが407万円だ。



車格として近く、競合車と目される日産自動車「リーフ」は、標準車種で最も廉価な「X」が408.1万円、車載バッテリー容量の大きい「リーフe+」が525.36万円から。価格差は45.1〜118.36万円だ。別の視点でいえば、リーフのXグレードとほぼ同じ価格でドルフィンのロングレンジが買えるともいえる。



ちなみに、ドルフィンの車載バッテリー容量はスタンダードが44.9kWh、ロングレンジが58.56kWh、リーフは標準車が40kWh、e+が60kWhでほぼ同等だから、競合比較の対象としてふさわしいのではないだろうか。


一充電走行距離はドルフィンのスタンダードが400km、ロングレンジが476km(それぞれWLTCでの自社調べ値)。リーフは標準車が322km、e+が550km(ともにWLTCでの国土交通省審査値)となっている。



個々の好みはあるだろうが、ドルフィンは日本のEV市場で高い競争力を持っているといえる。すでに中国やタイ、シンガポール、オーストラリアなどでは販売が始まっていて、これまでに累計で約43万台が売れているそうだ。

○2グレードを乗り比べ!



それでは、ドルフィンの乗り味はどうなのか。今回はスタンダードとロングレンジの双方に試乗することができた。



イルカを主題とする外観は写真では顔つきの可愛らしさが印象的だったが、実車を目にすると質の高い存在感がある。可愛らしいというより、老若男女にとって親しみやすい小型EVといえそうだ。


車内は外装色によって色使いが異なる。試乗した白のスタンダードは車内が黒と茶のツートーンだった。真っ黒な室内に比べ明るさが感じられて、居心地がよかった。車体色がグレーだと室内色は黒とグレーとなるが、ほかにピンクの選択肢もあり、この場合は室内がグレーとピンクでより明るい雰囲気になる。EVのような環境性能を前提とした車種では、快適さを実感させる明るい室内は好ましいと思う。


最初に試乗したのはスタンダードのほうだ。このクルマの印象がとてもよかった。

アクセル操作に対する加減速の様子が軽やかで、自在に操れる感触がある。通勤や買い物で毎日のように乗るとしても、ストレスは感じないはずだ。そのくらい快い走りだった。ハンドル操作に対する動きも身軽で、心地よい。少し走らせただけで、ドルフィンがいいEVであることがわかった。



高速道路に入っても軽快な走りは変わらない。ロングレンジに比べモーターの出力は半分以下だが、高速域での加減速性能に不足はない。遠出にも問題なく使えるだろう。


ロングレンジはスタンダードに比べ車両重量が160kg重い。主な要因は、車載バッテリー容量が1.3倍も多い58.56kWhとなるからだろう。乗り心地はずっしりと重厚になり、ハンドル操作もやや重めになって、別のクルマを運転しているかのようだ。重厚さのせいか、より上級な車に乗っている感覚もある。それでいて扱いやすさは小型車のままなので、まさに「小さな高級車」といった趣向といえるかもしれない。



モーター出力が2倍以上になるので、アクセルペダルを深く踏み込んだ際の加速には猛然たるものがある。スポーティーな走りも楽しめるEVだ。



後席にも座ってみた。着座姿勢が正しく、足を下におろして座れるので、姿勢が崩れにくく快適だ。床下に駆動用バッテリーを搭載するEVでは床が高くなってしまうことが多いが、自社開発のブレードバッテリーを搭載するドルフィンは、エンジン車と変わらない床の高さを維持している。1人で乗ることもあれば、家族や仲間を乗せることもある小型ハッチバックとして、BYDが適切な設計思想を持ってドルフィンを作ったことは明らかだ。当然ながら、EVなので後席の静粛性にも優れている。


スタンダードとロングレンジは明確に性格の違うクルマだが、安全装備を含む標準装備は全く同じだ。つまり、志向は違っても格付けに差はないということになる。



安全装備で特徴的なのは「幼児置き去り検知機能」だ。子供やペットなどを車内に置き去りにしてしまったとき、ライトの点滅とホーンの断続的な鳴動で周囲に危険を知らせる。この警告を5回行うほかに、車載バッテリーに15%以上の電力があれば、空調を自動的に作動し、車内環境を適切に保つ。こうして、子供やペットなどの命を守るのだ。

○気になった部分は?



ドルフィンはいいEVなのだが、気になったのはフロントウィンドウへのダッシュボード上面の映り込みだ。日差しにもよるが、試乗の際はまともに影響を受け、フロントウィンドウの全面といっていいほどの範囲にダッシュボードが映り込んでうっとうしく、前方視界が妨げられた。室内にも海洋生物をモチーフとする造形が施されているが、そうした造形の陰影や、デフロスターなどの送風口の形状といった部分が映り込みを悪化させているようだ。


もうひとつ、シフトスイッチを含めたスイッチ類を横一列に並べる手法は、操作する際に扱いにくさやわかりにくさがあった。EVなのでシフトをスイッチ化することに異存はないが、簡略化し過ぎると扱いにくさが出る。例えば駐車などで前進と後退を何度も繰り返す場面では、シフトを何度も切り替えるので、操作のしやすさは不可欠だ。


ATTO3も同様だが、BYDは現在のところ、回生をあまり強めに効かせない設定としている。強弱の切り替えはできるが、「強」にしてもそれほど回生による減速を効果的に利用できない。回生はEVの大きな特徴で、ワンペダル操作につながる機能なので、今後の改良に期待したい。



ドルフィンは総合的に満足度の高いEVで、価格もこなれて身近さがある。補助金65万円を適用すればスタンダードの価格は300万円を切るし、これに自治体の補助金を加えると、住んでいる地域にもよるが軽EVに近い値段になる。ドルフィンの価格と性能は、かなり衝撃的だ。



安ければいいということではない。しかし、軽EVが1年で5万台以上売れた大きな要因が手ごろな価格であるのも間違いないだろう。この先、ドルフィンがEV価格の軸となっていくかもしれない。



EVはそもそも走りがよく、乗り心地が快適という点で、クルマの大小を問わずエンジン車に比べ上級車種の趣になる。例えば軽EVの日産「サクラ」や三菱自動車工業「eKクロス EV」に乗ると、軽自動車の感じがしないくらいに乗り味が違う。



エンジン車で築かれてきた「車格」の概念は、EVになると払拭される。好みや用途の違いという価値観に変わるのだ。ドルフィンは、まさにそうしたことを実感させるEVだといえるだろう。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定