トヨタの新型「センチュリー」に「らしさ」はある? デザイナーに聞く

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2023年10月17日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車の最高級車「センチュリー」に新たなボディタイプが登場した。多くの人が「SUVだ」と思う見た目とパッケージングで登場した新型だが、そこに「センチュリーらしさ」はあるのか。作り手は何をもって「センチュリーらしさ」を表現しようとしたのか。デザイナーに話を聞いた。


○どうするセンチュリー! トヨタ社内でも議論



「センチュリー」に新しいボディバリエーションが加わることは、少し前にトヨタ自身が予言していた。2023年6月21日の新型「アルファード/ヴェルファイア」発表会で、プレゼンテーションの最後に「トヨタのショーファーカーのストーリーには続きがあります」と切り出し、「センチュリーさえも大胆に変えようと動いているのです」と明かしたからだ。その瞬間、背後のスクリーンにSUV風のシルエットが映し出された。



ただし、その際には「年内に発表」とのアナウンスがあったので、わずか2カ月半後の9月6日にお披露目されたのは驚きだった。



新型のシルエットに関してはスクリーンに映し出されたままの姿だったが、トヨタは新型センチュリーをSUVとは呼んでいないし、サブネームがあるわけでもない。従来のセダンは今後も販売が続く。


では、新しいセンチュリーはどうしてこの形になったのか。デザインを担当したトヨタ ミッドサイズビークルカンパニーMSデザイン部長の園田達也氏に話を聞くことができた。



まずは、なぜセダンではなく、このパッケージングになったのか。



「センチュリーはどうなるのかという問いかけはトヨタの中にもあって、お客様の使われ方など、いろいろなことを考えました。アルファード/ヴェルファイアもショーファーカーに加わった中で、広さや乗降性などを突き詰めた結果、こういうパッケージになったというのが正直なところです」(以下、カギカッコ内のコメントは園田氏)



アルファード/ヴェルファイアのような、ミニバンタイプの新型を作るという話は出なかったという。センチュリーから外れてはいけないという気持ちがあった一方で、時代に合わせて新しくしたいところもあり、バランスを考えた結果、このプロポーションに決めたそうだ。


○ボディサイドにセダンとの共通項が



多くのSUVと違うところとして園田氏が挙げたのは、ルーフラインのピークがリアシートの頭上あたりにあること。これはセダンのセンチュリーと同じ考え方だ。リアドアがフロントより長めであるところも共通する。



「几帳面」と呼ばれる、平安時代の貴族文化に由来するキャラクターラインの技法もセダンから受け継いでいる。キャビンからリアにかけて、ゆったりと下がっていくところも同じだ。確かに、こうしたラインは多くのSUVと明らかに違う。


パワートレインがセダンと別物であることも特徴だ。セダンはハイブリッドのパワーユニットをノーズに縦置きして後輪を駆動するのに対し、新型はプラグインハイブリッド車(PHEV)であり、パワーユニットは横置きで前輪を駆動し、後輪は独立したモーターで回す4輪駆動になっている。だから真横から見ると、セダンでは離れていた前輪とドアの間隔が詰まっている。

このあたりについて園田氏は「それほど苦労しなかった」とする。前述したルーフラインやキャラクターラインなどをセダンと同様にしたこともあるが、タイヤを大径にしたことが効いているようだ。



タイヤサイズは255/55R20が標準。セダンの225/55R18と比べるとホイールは2サイズ、タイヤは3サイズ大きい。これが背の高いボディでありながら、センチュリーらしいバランスを保てた秘訣のひとつだと思っている。



ただし、大径タイヤを組み込んだ結果、プラットフォームは路面から離れ、最低地上高は185mmとセダンの135mmより50mmも高くなった。フロアも高めになって、乗り降りにはステップを要することになった。



ショーファーカーを極めるのであれば、「ジャパンタクシー」をスケールアップしたような、ステップなしで乗り降りできるパッケージングもアリだったのではないかと感じたが、全体の佇まいを重視した結果、このような姿になったのだろう。

○あえて顔つきを変えてきた意図は



セダンから受け継いだ要素が多いボディサイドに対して、フロントやリアは独自の部分が目立つ。例えば灯火類は、セダンが初代から受け継ぐ角形ヘッドランプと横長のリアコンビランプという仕立てとは明らかに違う。



「もともとセンチュリーは品格を大事にしていますが、今回は威風凛然という言葉をテーマとして掲げており、威厳や風格を加えるべく、二重構造のグリル、片側4灯のヘッドランプなどで、唯一無二の表情を狙っています。今までと違うものを提案しつつ、でもセンチュリーに見えるというところを大切にしています」


インテリアに関しては自由自在のシートアレンジが圧巻だ。このパッケージングゆえに実現できたに違いない。



もちろんシートは新設計で、フロントだけでなくリアもリクライニングが可能。しかも、77度まで倒れる。このパッケージングであれば3列シートにもできたはずだが、荷室との間に隔壁を設け、リアもセパレートにしたので2列に落ち着いたそうだ。


インパネにはセンチュリーならではのエピソードがある。普通であれば、当然ながらフロントシートに座ったときの眺めを第一に考えるところを、このクルマではリアシートに座るオーナーからどう見えるかを優先したというのだ。



これもセダンと共通の考え方。ごちゃごちゃしていないところが大事であり、水平基調で安定して見えるようにして、機能部品は全て下のほうに持ってきており、フロントシート間にあるタワーコンソールのスイッチの配置も、かなり吟味したという。



ディテールでは、トヨタの最高級車にふさわしいこだわりの仕立てが随所に見つかる。エンブレムは彫金加工で、塗装は色塗りと水研ぎを2段階とした4行程。バンパーなどの樹脂部分にも磨き上げを入れた。スカッフプレートは柾目加工を選ぶことも可能。リアドアは特注でスライド式も選べるという。


新しいセンチュリーは日本専用だったセダンとは違い、グローバル展開も視野に入れたクルマだ。それを考えれば、車名をシンプルに「センチュリー」としたことも理解できる。北米をはじめ世界的に人気のSUVスタイルを選んだのも納得だ。日本らしさを盛り込んだディテールの独自性は、日本よりもむしろ海外で受けそうに思えた。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)

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