クルマのサブスク「KINTO」が“旧車”に注力する理由とは?

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2023年10月20日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
「KINTO」といえばトヨタ車/レクサス車のサブスクリプションサービスを手がける会社だが、ここ最近は“旧車”にも力を入れているらしい。「セリカ」や「スープラ」といったトヨタの名車をレストアしてレンタカーを展開するなど、クルマ好きには嬉しい取り組みだ。そこで気になるのは、なぜKINTOが旧車に注力しているのかということ。そのうち旧車のサブスクも始めるつもりなのだろうか? 担当者に話を聞いてきた。


○「Vintage Club by KINTO」とは?



KINTOはクルマのリースや修理、点検、車両管理、中古車売買などを手掛ける企業だ。設立は2019年1月。「モビリティプラットフォーマーのトップランナーとして一人ひとりの『移動』に『感動』を」をビジョンに掲げ、いわゆる「クルマのサブスク」(新車と中古車)を展開する企業として知られている。



KINTOが革新的だといわれるのは、クルマに乗るための障壁を低くしたからだ。クルマを購入するとなると、購入代金のほかに任意保険や自動車税などの諸経費がかかる。こうした諸経費とクルマの利用料が全て月額料金に組み込んであり、追加費用のない毎月一定の金額でクルマのある生活を楽しめるところがKINTO最大の特長だ。



申し込みから契約までWEB上で完結できるところも手軽で便利。車種ラインアップも豊富で、コンパクトカーの「ヤリス」「アクア」からSUVの「RAV4」「クラウンスポーツ」、ミニバンの「ノア」「アルファード」、本格スポーツカーの「GR 86」まで選択肢は多岐にわたる。



そんなKINTOが旧車にフォーカスを当てた取り組み「Vintage Club by KINTO」を始めた。「利用者とKINTOが一緒に旧車を楽しむためのコミュニティ」との位置づけで、試乗会などのイベント開催や「特選旧車レンタカー」などが主な内容だ。


なぜKINTOは旧車を取り扱うことにしたのか。「Vintage Club by KINTO」の仕掛け人でもあるKINTO 総合企画部 部長の布川康之さんに話を聞いた。


○きっかけは「ソアラ」のレストア?



旧車レンタルのきっかけになったのはトヨタの「ソアラ」だったという。



「たまたま取引先で状態のいい1982年製のクーペ『ソアラ』を手放そうとしていた方がいたので、もったいないと思い当社で引き取りました。その頃、トヨタの電動パワトレ開発統括部とお会いする機会があり、メーカー側の技術を使ってクルマの再生をやりたいという話をいただき、トヨタ博物館の展示車の整備を担当している新明工業さんもジョインして、3社でこのクルマを何かに役立てられないかと話し、いまの旧車コミュニティの企画の形を考えました」



そもそも、旧車をレンタルできるショップはそう多くない。「特選旧車レンタカー」のクルマはトヨタと新明工業がレストアを担当していて、トヨタの正規販売店で借りられるので、かなり安心して乗れるのが魅力だ。



旧車のレンタルは「移動に感動を」というKINTOのビジョンに合致しているだけではなく、トヨタやKINTOのファン作りのための絶好の機会にもなると布川さん。「Vintage Club by KINTO」の立ち上げは2022年4月で、旧車レンタカーは計4台でスタートした。

旧車を借りるには公式サイトにアクセスすればいい。ネット上で予約から決済まで完結できる。クルマは期間を区切って日本各地を巡回しているので、利用するならどこで何が借りられるかを確認してみよう。



場所を変えながら旧車レンタルを展開する理由について、KINTO 総合企画部の堀田周佑さんはこう語る。



「これまで全国のトヨタ販売店で旧車のレンタルを展開してきました。例えば三重、長野、静岡、埼玉などで、いずれも3カ月ほどの期間限定で実施しました。順次場所を変えているのは、全国のさまざまなお客様に旧車に触れていただきたいからです。もし、どうしても借りたい旧車が近くにない場合はお待ちいただくことになりますが、中には、岩手県にお住まいのお客様が三重県までお越しいただき、旧車をレンタルしていただいたケースもあります。旅行ついでに旧車に乗るのも醍醐味かと思います」


○旧車に求める役割とは



旧車人気は加熱中だが、KINTOは「Vintage Club by KINTO」にまつわる事業や旧車レンタルで大いに稼いでやろうとも思っていないようだ。高額な旧車サブスクプランを用意するつもりも、今のところはないらしい。狙いは売上とは別のところにある? 布川さんの説明はこうだ。



「旧車を博物館に展示するのであれば、乗る際の快適さはそこまで考えなくていいんです。ピカピカに磨けば完結します。でもレンタカーとなると、そうはいきません。お客様が快適に、安心して乗れるように、例えば暖房しかない旧車であれば冷房を後付けするとか、ブレーキを強化するなど、現代のクルマとは違った整備が必要になります。万が一故障しても、部品がないというケースもたくさんあります。そう考えると、旧車をサブスクのビジネスモデルに当てはめるのはかなり難しいことがわかります。KINTOは短くても3年契約で新車にお乗りいただいています(中古車は最低2年)。旧車を3年間、諸経費込みでメンテンスしながら乗るとなると、月額料金がかなり高額になる可能性が高く、現実的ではありません」



旧車には、タッチポイントとしての役割を期待したいと布川さん。



「『Vintage Club by KINTO』が、トヨタやKINTOを知ってもらうきっかけになればと思っています。旧車のレンタルを始めて意外だったことは、利用者の3分の1が20代〜30代のお客様だったことです。若いお客様に、SNSなどを通じて旧車について発信してもらえれば、クルマ好き、あるいはクルマに興味がないユーザーにも、広く旧車を含めたクルマの魅力を伝えられるのではないでしょうか」



「そうしたことを考えると、今後はトヨタ車だけでなく、メーカーの垣根を超えた旧車のラインアップも視野に入れながら、定期的に車種を入れ替えて、全国さまざまな地域でレンタルできるようにサービスを拡充していくことを検討していきたいと思っています。台数も増やしたいんですが、旧車に触れる機会自体を増やしていきたいという考えです」


Vintage Club by KINTOでは新たな取り組みとして「よろず相談」を始めたところ。旧車にまつわるあらゆる困りごとや悩みなどをSNSで受け付けるという趣向で、すでに多くのコンタクトがあり、3件ほどは具体的な修理が進んでいるという。ここから、旧車のレストアにつなげていく可能性もあるそうだ。今後のアイデアとしては、旧車の修理・整備で大きな問題となる「部品不足」にも対処できないかと考えているとのこと。例えば需要のあるパーツについては、クラウドファンディングなどのツールも活用しながら、自ら作ってしまうことも含め検討してみたいとのことだ。旧車を軸に広がりを見せるKINTOの取り組みに今後も注目したい。



室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら(室井大和)
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