神奈川のブランド牛をカラスから守る! スマート畜産システム実証実験が開始

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2023年10月20日 13:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
NTT東日本、古野電気、フルノシステムズおよび長崎牧場は、神奈川県南足柄市にある長崎牧場にて、スマート畜産の実証実験を実施した。



それぞれの組織が持っている得意分野を融合させ、鳥獣対策はもちろん新たな可能性を見出すための取り組みとして、各方面から注目されているようだ。どのような成果が出ているのか、現地で取材してきたので紹介しよう。


○地元を中心に広く愛されている相州牛



神奈川県南足柄市の山間に拠点を持つ長崎牧場は、神奈川県が誇る高品質な和牛ブランド「相州牛」を飼育していることで知られている。肉質と食味のすばらしさから、シェアを広げている人気のブランドだ。



「消費者の皆さまにどこよりもおいしい牛肉を届けるために、品質向上を常に考えながら牛の飼育を続けています」と語るのは同牧場の代表取締役 長崎光次氏だ。


畜産の現場では、カラスの飛来による被害が拡大中だ。伝染病を媒介する可能性があることはもちろんだが、皮膚病に掛かっている牛の背中を直接嘴でつつき、けがをさせる例もあるのだという。



肉用牛経営においては1頭あたりの生産コストや取引単価も高額になるため、被害を受けた場合の影響も大きく、その対策は重要な課題となっているのが現状だ。



「私たちの牧場では食肉用の牛として珍しく、若い時期に放牧をベースにした飼育をしています。牛たちが体を動かすことで、内蔵の発育が良くなり、食欲も旺盛になります。長崎牧場では肉質を上げるため、おから等をベースにした飼料を与えるのですが、食べ慣れない飼料に慣れさせるためにもこの工程は欠かせないものとなっています」と長崎氏。



放牧中はなるべく誰かが見守ることにしているが、それでも目が届かない場所や人が居ない時間帯はできてしまうのだという。



「そんなときにカラスによる被害があるかも知れません。私たちもいろいろ試してはいましたが、NTT東日本さんとフルノグループさんから今回の実証実験の話をいただいたとき、これほど広い範囲をカバーできるシステムはなかったので、どのような結果が出るのかとても興味がありました」と長崎氏は言う。


○畜産業の課題解決を目指す実証実験



今回の実証実験に使われている監視カメラおよび無線システムは古野電気およびフルノシステムズによる共同開発の試作モデルとなる。



「一番の特長は半径1kmをカバーする無線LAN規格の802.11ah、通称『Halow(ヘイロー)』を用いていることです。また、カメラや無線機器のバッテリーに電気を供給するのに太陽電池を使うことで、電源を気にせずどこでも設置でき、なおかつ長距離でも安定したデータの送受信がおこなえるシステムにしました」とフルノシステムズ 小泉智氏は語る。



カメラや無線デバイス、太陽電池の特性を活かした自社開発ができるのは、確かな技術とノウハウがあるフルノグループならではといえそうだ。


これらのデバイスからの情報を集約したシステムを開発したのはNTT東日本だ。

「無線の届く距離や場所、ソーラーパネルに必要な陽光が得られる角度等を調整しながら設置しました。出てきた課題を一つひとつ解決しながらシステム構築を進めました」と語るNTT東日本 川畑直樹氏。



今回、長崎牧場に設置されたカメラは2台で、ひとつは先ほどから話題に出ている放牧エリア、もうひとつは子牛専用の牛舎になる。ふたつの場所は牧場の管理事務所を挟んで正反対の位置にあり、放牧エリアは直線だが距離があり、牛舎にいたっては山裾と施設が間に入るという難易度の高い位置にある。



「ですが、Halowの特性上、障害物があっても電波を回り込ませることができます。ですから、その辺も考慮してこの位置関係なら可能だと考えました」と小泉氏は解説する。


○実証実験により新たなニーズも発掘



実証実験がはじまったスマート畜産システムだが、実際の現場ではどのように捉えられているのだろう。



「もちろん、これまでは現地へ行ってみなければ分からなかったことが、事務所のPCやスマートフォンを見れば確認できるようになったので、管理負担は大きく軽減できました。牛の状態がよく分かるので、慣れてくれば自立困難に陥っている牛も見つけられるかも知れません。しかし、追い払ったり、自立困難な牛を助けたりするのも私たちです。完全に自動化するにはまだまだ課題は山積です」と語る長崎氏。



同氏が言うような、新たなニーズや課題を見つけるのも実証実験による成果といえる。


「厳しい意見かも知れませんが、このシステムは私たち牧場の鳥獣被害対策だけでなく、あらゆる産業に必要な仕組みだと捉えています。農業、漁業従事者で遠隔監視を必要としている皆さんのためにも、よりよい意見がフィードバックできればと考えています」と長崎氏は言葉を続ける。



実は長崎牧場では飼育を続けることで発生する大量の堆肥を地域の農業事業者に預け、肥料として有効活用するなど、様々な業種と連携していく循環型の地域連携を目指しているのだという。



「私たちからは良質な堆肥を、農業従事者からは藁は籾殻をといったように、お互いにメリットのあるものを交換し、自分たちの事業を効率化していけば、もっと楽に、より品質の高い生産物ができるはずです。そのような取り組みによって生まれた生産物はブランド的にも魅力が出ますし、そうなることでより大勢の方が神奈川県を好きになってくれるはずです。NTT東日本さんやフルノグループさん、南足柄市とはそのための話し合いを続けていて、今回の取り組みもその中から生まれたといっても良いと思います」と長崎氏は経緯を語る。



「長崎牧場を中心に異業種交流が生まれれば新しい価値が生まれると確信しています。お互いに何ができるのか可視化できれば、一緒に取り組みたいという人も増えるでしょうし、きっと地域活性化に繋がっていくはずです」と言葉を受け取る川畑氏。



「フルノグループとしても新しい価値を届けるために常に前を向き事業を展開しています。今後も私たちの技術が様々な産業に生かしていけるような取り組みを進めたいと考えています」と続けて語る小泉氏。



地域活性化を常に考えているNTT東日本およびフルノグループと長崎牧場はお互いに同じ方向を見ながら歩んでいるのだ。


○成長を続けるスマート畜産システムの今後に期待



長崎牧場をベースに行われているスマート畜産・実証実験は、今後どのように育っていくのだろう。



「私の希望としては、カラスが入ってきたことが分かるだけでなく、それを撃退してくれるところまでやれるとよいですよね。でも、それはこれから先の話だと思うので、今後に期待しています」と長崎氏。



「このシステムは様々な課題に応用していけるので、今回得られたデータをベースにフルノグループの皆さんと共にこれからも開発を進めたいと考えています。長崎牧場さんに関しては、最終的においしいお肉を消費者のもとへ届けるという目的がありますから、その目的を拡大していけるように、生産者の方々の意見を聞きながら、技術的な部分だけでなく、先ほど触れたエコシステム的な部分も含めてご一緒にやっていければと考えています」と最後に川畑氏は語ってくれた。



相州牛ブランドの価値をさらに高めていくだろう長崎牧場。彼らを中心に周囲を巻き込んでのソリューション活用と地域活性化への取り組みに今後も注目していきたい。(エースラッシュ)

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