BALLISTIK BOYZが「タイで売れる」理由とは? JO1や他グループにない強みを専門家が分析

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2023年10月23日 18:41  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 2022年からタイで“武者修行中”のLDH所属・BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE(バリスティックボーイズ)活動が好調だ。タイの音楽業界で注目のアーティスト、TRINITY(トリニティ)とコラボした楽曲「Drop Dead feat. TRINITY」は、23年2月にYouTubeでMVが公開されると再生数は1000万回を突破。コメント欄には日本語とタイ語が入り乱れた称賛が並んでいる。

 さらに8月29日にはタイの人気俳優、ガルフ・カナウットとコラボレーションした「All I Ever Wanted feat. GULF KANAWUT」をリリース。同日にはグループ初となる現地でのファンミーティングを開催した。

 一方、LAPONEエンタテインメント所属のJO1も昨年7月からタイ語でもSNS投稿を行い、現地ファンを喜ばせてきた。来月11月から始まる初のアジアツアーでは、インドネシア・ジャカルタ、タイ・バンコク、台湾・台北、中国・上海の4都市をめぐる。

 そのほかにも、LDHのPSYCHIC FEVERや旧ジャニーズ事務所のSnow Manもタイ活動を展開しているが、現地点ではBALLISTIK BOYZが人気の面では優勢といえるだろう。

 実は22年8月に公開した記事で、タイポップス探検家の山麓園太郎氏がBALLISTIK BOYZについて「タイで売れる可能性が高い」とコメントしていた。タイ進出する他ボーイズグループにはないその理由とは? あらためて記事を紹介する。

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 7月上旬、タイのとあるネットユーザーが、『PRODUCE 101 JAPAN』(GYAO!、TBS系)を称賛するツイートを投稿。同番組は、韓国発のデビューを目指したサバイバルオーディション番組『PRODUCE 101』の日本版だが、この投稿がタイ国内外で4.7万リツイートされるほどの“バズり”を見せ、タイのネットユーザーのみならず、日本でも大きな話題になった。

 特に『PRODUCE 101 JAPAN』から誕生したボーイズグループ・JO1のファンが敏感に反応し、タイに向けてSNS上で“布教”を開始。JO1の運営元である吉本興業のタイ支社や、JO1の公式Twitterも、タイ語の投稿を行う展開となった。一つのTwitter投稿によって、事務所まで巻き込む“タイ進出”が始まったのだ。

 一方、同じ日本のボーイズグループだと、ジャニーズ事務所所属のタレントは以前からタイに進出しており、2006年には山下智久とタイの兄弟ユニット・GOLF&MIKEによる3人組ユニット「GYM」が日本とタイでデビューするなど、つながりは深い。近年では20年、Snow Manがタイの音楽イベント『Japan Expo Thailand 2020』に出演。メンバーの向井康二がタイ生まれとあって、“CDデビューから10日”という異例の早さで、初の海外パフォーマンスを成功させている。

 さらに今年は、LDHの若手グループ・BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEとPSYCHIC FEVERが活動拠点をタイに移し、武者修行をすると発表した。

 このように、ジャニーズ、LDH、そして吉本という日本の大手芸能事務所とタイの関係が今後深まっていきそうな気配があるが、果たして、JO1、Snow Man、BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE、PSYCHIC FEVERの4組が、「タイで売れる」可能性はどれほどあるのだろうか?

 そこで今回、タイポップス探検家であり、タイの音楽関係者とも交流を持つ山麓園太郎氏に、タイの国民性や音楽カルチャーを踏まえながら、4組それぞれについて「売れそうなポイント」を分析してもらった。

――日本のボーイズグループが続々とタイに進出していることに対して、どのように感じていますか?

山麓園太郎氏(以下、山麓) ここ2〜3年の間、日本で“タイドラマブーム”が起こったように、タイは今、韓国と並んで「アジアのエンタメ発信地の一つ」になっていると思います。タイで活動することは、日本のアーティストにすごくいい刺激を与えるはずですし、成長できる機会になるでしょうね。なので、どんどん進出してほしいです。

 もともとタイは親日国なので、すでに日本のカルチャーは注目されていて、「日本の音楽が好き」っていうファンコミュニティもある。メジャーなアーティストでいうと、YOASOBIやSEKAI NO OWARIなんかは、すでにタイでも知名度があります。日本でそこまで有名じゃないアーティストもしっかりチェックしている、“日本好き”な人も多いんです。

Snow Manの強みは、〇〇と「タイ舞踊」のようなダンス!?

――となると、日本のボーイズグループもタイで人気を獲得できそうですね。

山麓 ただ、ボーイズグループとなると、タイではまだまだK-POP勢が強い。そんな中でも唯一浸透している日本のボーイズグループは、やはりジャニーズだと思います。今回、4組のミュージックビデオ(以下、MV)などをチェックしましたが、Snow Manはタイにルーツのある向井くんがいることもあって、人気が出ると思いますよ。K-POPガールズグループのBLACK PINKも、メンバーのリサさんがタイ出身なので、やっぱり人気。仲間意識というか、“母校を応援するような気持ち”と一緒なのかもしれません(笑)。

――Snow Manは、音楽面ではどのように評価されそうですか?

山麓 ジャニーズは、もう「ジャニーズ」っていうジャンルが確立されています。安心して見られる/聞ける、“安定の日本ブランド”のようなものですね。タイでは「ジャニーズ=J-POPの王道」という認識ですから、Snow Manはやはりジャニーズブランドがしっかり確立されているだけに、人気も出やすいと思います。

 でも、Snow Manの一番の強みって、僕はダンスだと思っていて。JO1とLDHの2組とSnow Manを比べて見たとき、ダンスのスキルは全グループ高くて、優劣はつけられませんでした。ただ、JO1とLDH2組がストリートにルーツを持ち「カッコよさ」を突き詰めていくタイプのダンスに見えるのに対して、Snow Manはバレエやミュージカルをルーツに持つ「エレガント」な動きがよく見られますよね。これはジャニーズのグループ全体にいえることですが。

 特に「オレンジkiss」のMVを見ると、指先まで使った感情の表現がとても見事。タイ舞踊でも、こうした指の動きはすごく重要になるので、現地の人たちは、絶対にそこを見逃さないはずです。

――K-POPが人気となると、韓国のサバイバルオーディション番組『PRODUCE 101』の日本版『PRODUCE 101 JAPAN』から誕生したJO1も、タイの人には受け入れやすいのでしょうか?

山麓 そうですね。JO1がタイに進出したら、おそらくK-POPの延長線上で評価されると思います。タイって1990年代にJ-POPブームが、2000年代に今度はK-POPブームが起こり、これによって、T-POP(タイポップス)のベースみたいなものが作られたんです。

 そう考えていくと、JO1自体がJ-POPとK-POPを融合したような形なので、4組の中では一番、タイの人たちの耳や体にスッと入って、受け入れられやすいサウンドだと思います。特に「With Us」は、2000〜10年代にK-POPの要素を積極的に取り入れて大ヒットを連発した、タイの大手音楽レーベル・RSのサウンドや曲調に、とてもよく似ている。なので、タイの人にはすごくしっくりくるでしょう。

 また、JO1の運営元である吉本興業は、17年に「SWEAT16!」という女性アイドルグループをタイで結成して、人気を獲得していました。この実績があるので、もし本格的にタイ進出を仕掛けるときには、そのノウハウが生かせるはず。タイの人たちは、“かわいくてかっこいい男の子たち”のことが大好きですし、そこもJO1の強みだと思います。

――同じ日本のボーイズグループでも、Snow ManはJ-POP、JO1はK-POPとして、タイの人々に注目されそうなんですね。

山麓 ちなみに、ひと昔前のタイでは、ルックス完璧、歌もうまい、演技もできる、なおかつ性格もいい……といった品行方正で成績優秀なタイプの芸能人が、人気者の“テンプレ”でした。しかし、AKB48グループの一つであるBNK48がタイでブレークした17年頃から、“成長の過程を見せる”エンターテイメントがはやりだしたんです。

 JO1を生んだオーディション番組『PRODUCE 101』シリーズや、ジャニーズJr.が成長してデビューする姿をタイの人たちが楽しむようになったのは、実はここ5〜6年の話。なので、JO1やジャニーズJr.はまだまだ新鮮な存在ではないかと思います。

BALLISTIK BOYZ&PSYCHIC FEVERの楽曲は、タイで売れる可能性が高い!

――そういう意味だと、LDHの2組がタイで「武者修行」をするのは、成長過程を共有しようという狙いもありそうです。

山麓 タイでの生活をリアリティショー『New School Breakin’』という番組にして、YouTubeで配信することも決まっていますよね? これをタイのテレビで放送すれば、すごく視聴率がいいでしょうね。しかも、このプロジェクトのプロデュースを務めるF.HERO(エフ・ヒーロー)さんは、タイの音楽シーンも知り尽くしているし、日本の音楽にも詳しい方なので、2組をすごくいい方向に導いてくれるのではないかと思います。

――BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEとPSYCHIC FEVERの音楽面についてはいかがでしょうか?

山麓 タイではここ数年、ヒップホップがトレンドの一つ。それに加えて、J-POPの哀愁も感じるBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEとPSYCHIC FEVERの楽曲は、タイで売れる可能性が高いんじゃないかと思いますね。K-POPとはまた違う、「日本製のダンスポップ」として受け入れられたらいいな、と。

 BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBEは、「ラストダンスに BYE BYE」を聞いたんですが、今のタイのヒット曲と構造がすごく近いんですよ。イントロからの展開とか、キック(バスドラム)が強めなところとかが似ている。特にサビのメロディーは、そのままタイ語の歌詞を乗せてもしっくりきそうだと思いました。

 PSYCHIC FEVERのほうは、さらにストリート感が強いですが、中には「Snow Candy」みたいなメロウな曲もありますよね。これもまた、タイの人がすごく好きなタイプの曲。テンポがちょっとゆっくりで、やわらかい雰囲気の曲っていうのは、タイの人の大好物なんですよ。

――音楽面以外で、日本のボーイズグループがタイで人気を得るカギはなんだと思われますか?

山麓 ずばり、「ファンサービス」です。例えば、日本ではコンサート中に客席に手を振ることもファンサービスに数えられると思いますが、タイのアーティストはコンサート中、客席に降りていっちゃいます(笑)。客席中を練り歩いて、サビの「愛してるよ」みたいなフレーズで、あえて目の前にいる1人のファンに向けて歌う……これがタイのファンサービスです。日本のアーティストがここまでやったら「神対応」と絶賛されると思いますが、タイでは「普通」のこと。これは大きな違いでしょう。

 また、イベント中にファンから写真をお願いされたら、肩を組んでツーショットを撮ってくれるなんてことも。よっぽど怪しい人じゃなければ、基本的に「誰でも写真OK」というほど寛容なんです。なぜならば、ファンがこうしたツーショット写真などをSNSにアップすること自体が、タレントのプロモーションだと考えている芸能事務所が多いから。たくさんの「いいね」がついて話題になれば、それだけで宣伝になりますよね。

――ジャニーズを筆頭にタレントの肖像権に厳しい日本では、なかなか見られない対応です。

山麓 日本は基本的に、コンサート中に写真や動画を撮影するのも禁止ですよね? でもタイでは、スマホやカメラで推しを撮影して、YouTubeやSNSにアップするのが普通。むしろ日本のように、撮影が禁止されている国のほうが少ないと思いますが……。とにかく、日本からタイに進出するなら、そのあたりの文化もタイ側に合わせる必要があるでしょうね。

 特にジャニーズは肖像権に厳しい事務所だと思うんですが、タイのイベントに限って写真撮影OKにするとか、ローカルルールへの歩み寄りは必要だと感じます。

――そのほかにも、日本とタイのアイドルカルチャーで大きな違いはありますか?

山麓 タイの人たちには「担降り」という概念があまりないかもしれません。「推しは多いほうが楽しい」といった感じで、ずっと同じアーティストを応援しながら、新人にもすごくオープンマインドで、気になったらその人も一緒に推すという感じ。常にアンテナを張って、ちょっとでも引っかかったものはどんどん吸収していくような人が多いですね。

――これからタイ進出を狙う日本のアーティストに対して、何かアドバイスはありますか?

山麓 日本の音楽業界には、グローカルな視点で世界へもっと「今のJ-POP」を発信してほしいと思っています。今、日本のシティポップが世界中から注目を集めていますが、言ってしまえばこれは「遺産」。過去の音楽が掘り起こされているだけなので、新しい動きでもなんでもないわけです。対して、T-POPはタイドラマブームから派生した「今話題の新しいコンテンツ」なので、一歩先を行っているといえるでしょう。

 なので、これからタイに進出しようとしている日本のアーティストには、「エンタメ業界が盛り上がっているタイに勉強しに来ました」という姿勢でいてほしいなと思います。上から目線で「進出」するなら、それはちょっと違うかなと。そこを踏まえた時、LDHが「武者修行に行く」姿勢でタイに来たのは、海外進出の面で、ほかの大手芸能事務所よりは一歩リードしていますよね。

 日本のアーティストがアジア進出をする際、 国内で築き上げてきたビジネスモデルは全く通用しないかもしれません。でも、そこで新しいものが生まれれば、日本を含めアジアの音楽シーン全体が盛り上がり、結果として世界規模で注目される、いいきっかけになるはず。日本のボーイズグループのタイ進出を見ながら、その可能性に期待を寄せているところです。

※2022年8月11日公開の記事を再編集しています

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