【中野信治のF1分析/第19戦】角田裕毅の日本人3人目となるファステスト獲得の快挙には驚きなし

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2023年10月26日 17:40  AUTOSPORT web

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2023年F1第19戦アメリカGP 角田裕毅(アルファタウリ)
 サーキット・オブ・ジ・アメリカズを舞台に行われた2023年第19戦アメリカGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が6番手から決勝を制し、F1キャリア通算50勝目を飾りました。今回は日本人としては2012年の小林可夢偉以来、3人目となるF1ファステストラップ獲得を果たした角田裕毅(アルファタウリ)の戦いや、レッドブル&フェルスタッペンに迫るルイス・ハミルトンとメルセデスの躍進などについて、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。

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 アメリカGPでは、予選Q3でトラックリミット違反からベストタイム抹消となったフェルスタッペンが3年連続王者の貫禄を見せ、6番手から今季15勝目、F1キャリア通算50勝目を飾りました。

 そんなアメリカGPでは裕毅が素晴らしい戦いを見せましたね。裕毅的にはいつもと同じ走りをした感じだとは思いますが、ようやく戦略を含めいろいろな流れが裕毅の方に来てくれたというふうに見えました。今回のアメリカGPのように、やるべきことをしっかりとできていれば、チャンスが来た際にポイントを掴むことができます。

 さらに、F1で初めてのファステストラップ獲得というのも、これまでの苦労に対する一種のプレゼントのようなものだとも感じました。ファステストを獲りに行く1周も裕毅は自信に満ち溢れ、しっかりとミスなくまとめていたので、見ている側としては爽快でしたね。

 裕毅は土曜日のスプリント・シュートアウトのSQ1で最後のアタックに臨めず19番手となり、スプリントでは14位とポイント獲得には至りませんでした。ただ、11番手スタートの決勝は見事にチャンスを自分のものにしました。難しい状況のなか、流れをいかに自分自身に引き寄せ、ポジティブな気持ちで戦い続けるかが大切だということを改めて感じる一戦でした。

 ファイナルラップにファステストラップを狙いに行くということは、当然緊張感のある状況でしょう。ただ、それまでに50周以上周回し、路面状況も、クルマのことも全てを理解した上で、かつ燃料が減り車重も軽くなり、一番柔らかい新品のソフトタイヤを履いた状態ですから、このファステスト狙いのアタックは、ドライバーにとってかなり気持ちのいいアタックかもしれません。

 ファステストラップを出すにはタイミングが重要です。レース終盤の一番いいタイミングに、入賞圏内ギリギリの10番手だったとはいえ、11番手アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)とはソフトタイヤへの交換を済ませてもポジションを維持するには十分という状況を作っていたことが今回のファステストへの流れを引き寄せたのだと思います。裕毅は他車の失格もあり、最終的に8位とファステストラップ獲得と、このアメリカGPで一気に5ポイントを獲得し、今季ベストリザルトを更新しました。

 個人的には、ファステストラップ獲得というのは、クルマにある程度のポテンシャルがあり、かつドライバーの能力が高ければ、タイミング次第で獲得できる可能性はあることだと思っていたため、裕毅のファステストラップ獲得そのものに驚きはありません。状況が整えさえすれば、裕毅にはファステストラップを出せるポテンシャルがあることはわかっていましたから。

 そのため、終盤ファステストを狙いに行ける状況にいることができたこと、そちらの方がすごく大事なことだと感じています。今回のファステストラップ獲得は裕毅にとっても、アルファタウリにとっても大きな自信となり、今後の変化のきっかけになるのかもしれないと感じています。

 さて、アメリカGPではルイス・ハミルトン(メルセデス)も競争力のある走りを見せました。決勝は最終的に失格となりましたが、フェルスタッペンに2.225秒差まで迫り、メルセデスのマシンの進化も体現していたと感じます。

 ハミルトン自身もアメリカGPでは流れに乗っていましたね。チェッカーの際に2.225秒差まで近づいたのは、フェルスタッペンにブレーキトラブルがあり、ペースを上げることができなかったことも当然作用していたとは思います。ただ、それでもメルセデスのポテンシャルが上がってきていました。

 メルセデスはもともとタイヤのデグラデーション(性能劣化)の大きくないクルマです。そのクルマのいい部分が、タイヤに厳しいオースティンでの戦いを支えたのだと。さらにいえば、デグラデーションの大きいサーキットでタイヤを保たせたハミルトンの能力の高さも、今回の好走の大きな要因となったでしょう。

 2022年の技術レギュレーションの大変革から、メルセデスのマシンは決して最速ではありません。レースで速さがない分、何を武器に戦うか。メルセデスの場合はタイヤを上手にコントロールし保たせ、最後に上位できっちりとチェッカーを受けるということを続けてきました。ハミルトンとメルセデスがやり続けてきたことが、今回のアメリカGPでの2番手チェッカーに活きたのでしょうね。

 次戦のメキシコシティGPは標高2300mにあるアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスが舞台となります。私はCART時代に戦ったことがありますが、標高が高いため、空気密度が低くなり、ダウンフォースの出方が他のサーキットとは異なります。そしてアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは路面のミュー(摩擦係数)が高くはなく、そこそこバンピーなサーキットです。

 さらに、コーナーもバンクがそれほど付いていないので、クルマの良し悪しの出方も変わってきます。高速コーナーも低速コーナーもあり、ストレートも1.3kmに及ぶ長めであることから、クルマのセットアップをどこに合わせ込むかが難しいサーキットです。

 レッドブルが速いのはイメージできますが、他のチームのセットアップ次第では面白いサプライズもあったりするかもしれませんね。アメリカGPで8位とファステストを掴んだ裕毅とアルファタウリは、いい流れを掴んでメキシコシティGPに臨みます。このスポーツでは流れを掴むことが非常に大切ですので、またいいことが起きるのかもしれないという予感もしています。アメリカで見せた好走を再び見せてほしいですね。

 そしてメキシコシティGPは、セルジオ・ペレス(レッドブル)にとっては地元になります。苦戦が続いているペレスも地元ではいい走りを見せたいと思っているでしょう。このメキシコシティGPをきっかけに、終盤戦に向けてドライバーズランキング2位の座をキープするべく、今一度いい流れを取り戻してほしいですね。地元戦ですし、応援したいです。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。2023年はドライバーとしてスーパー耐久シリーズST-TCRクラスへ参戦。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24
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