フォロワー56万人の心に寄り添い続けるゲイ作家が綴った「自分のつらさの吐き出し方」

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2023年10月26日 18:11  BOOK STAND

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『つらいと誰かにいうことが一番つらいから』もちぎ 扶桑社
 幼少期からの波乱に満ちた経験を活かし、多種多様な人々の生きやすさについて発信している「もちぎ」さん。なかでも新著『つらいと誰かにいうことが一番つらいから』は、とりわけ「自分が生きていくためにどうやって心の内を他人に打ち明けているのか」を主軸に綴られた描き下ろしコミック&エッセイです。

 もちぎさんの半生を見てみると、わずか6歳のときに父親が自殺。母親に虐待されながらすさんだ家庭で育ち、高校時代は運転免許代と家出費用を稼ぐため男性相手に売春。高3のときに母親にバレて家出し、ゲイ風俗で5年働きながら大学に通います。卒業後は一般企業に勤めたもののゲイバレ&パワハラで鬱になり退職。ゲイバー勤務や農業の経験を経て、2018年から始めたツイッター(現「X」)がフォロワー56万人を超える人気に。アラサーとなる現在は、二度目の学生生活を送りながらエッセイや小説などを手がける作家として活動しています。

 こうした経歴を持ちながら、「前途多難でハードな人生に思われるかもしれないけど、あたいは案外そう思っていない」というもちぎさん。それは「人生の要所要所であたいを助けてくれる出会いと巡り合わせがあり おかげでなんとか生き延びてこれたから」(同書より)。

 「頼るだけじゃなくて頼られて、頼られるだけじゃなくて頼る」ことができたら、人生がグッとラクになったといいます。極力誰とも付き合わず、自分のつらさを誰にも明かさず、孤独なまま生きることもできるけれど、やはり人間は「他人を頼らなきゃ人生の難易度が上がる時があるし たまには誰かから頼られなきゃ満足しないようなめんどうな生き物」(同書より)。だからこそ、それぞれの「つらさの吐き出し方」を見つけることができれば、もう少し人生をラクに生きられるのではないでしょうか。

 同書は、もちぎさんの知り合いである身近な11人に、どのように自分のつらさを話しているかを聞き出すインタビュー形式になっています。「お金をかけてプロに相談する」「同じ立場の人のいる場所に出向く」「ネットやSNSに気持ちを書く」「つらさをいったん放置する」など、吐き出し方は人によってさまざま。皆さんが取り入れてみたいと思う手法も見つかるかもしれません。世の中の人がどのように自分のつらさを吐き出しているかを知る機会は、実はなかなか貴重ではないでしょうか。

 人によってつらさは千差万別で、互いのつらさを100%理解し合えることのほうが少ないでしょう。それでも、つらさについて解釈するという「そんなしんどくてつらい作業のひたすらの繰り返しこそ、生きている人間にできること」(同書より)だと記すもちぎさん。つらいと感じる自分もまるっと含めて、自分のことを愛してほしい――そんなもちぎさんのメッセージが詰まっています。そっと寄り添ってくれるもちぎさんのスタンスが心地よくて、カサカサした心がゆるっとほぐれていく一冊です。

[文・鷺ノ宮やよい]



『つらいと誰かにいうことが一番つらいから』
著者:もちぎ
出版社:扶桑社
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