高橋ヨシキが映画『私がやりました』と『理想郷』をレビュー!

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2023年11月03日 17:11  週プレNEWS

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高橋ヨシキが映画『私がやりました』と『理想郷』をレビュー!

日本有数の映画ガイド・高橋ヨシキが新作映画をレビューする『高橋ヨシキのニュー・シネマ・インフェルノ』! 巨匠フランソワ・オゾン監督の新作クライムミステリーと、スローライフを求め、田舎に移住した夫婦を襲う恐怖を描いたスリラー!

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【写真】『理想郷』のレビューにも注目!

『私がやりました』

評点:★4.5点(5点満点)

「映画の持つ力」そのものを体験させてくれる

せめて映画の中くらいでは幸運なめぐり合わせがあってほしいし、せめて映画の中では絵に描いたようなハッピーエンドが実現したっていいじゃないか、と思うことがある(逆に「映画なんだからもっと残酷でもいいのにな」と思うことも多いが、それはまた別の話)。

1935年のパリを舞台に、ひょんなことから殺人の濡れ衣を着せられた若い女優が、仲良しの弁護士の女性と一緒になって事件を逆手に取り、「私がやりました!」とひと芝居打って名声を掴つかもうとする、という本作はまさに「映画ならでは」の展開が詰まった幸せな一作である。

映画の作り自体も1930年代に流行したスクリューボール・コメディのパスティーシュになっているのだが、そのような「往年の作劇フォーマット」が持つ力が21世紀の現在においても完全に有効である、と改めて見せつける本作の芯には、熱い「シネマへの信頼」がある。

女性の置かれた不利な立場や、さらにいわゆる「キャスティング・カウチ」問題など、きわめて現代的なテーマをしっかりと織り込みつつ、それでいて観ていて思わずニコニコさせられてしまう――そのとき、観客は「映画の持つ力」そのものを体験しているのである。

STORY:パリの大豪邸で有名映画プロデューサーが殺害され、新人女優マドレーヌが容疑者に。鮮やかな弁論とスピーチで無罪を勝ち取ったマドレーヌだったが、そんな彼女の前に大女優オデットが現れ、真犯人は自分だと主張し始めた。

監督:フランソワ・オゾン
出演:ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペールほか
上映時間:103分

TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開中

『理想郷』

評点:★3.5点(5点満点)

乗り越えられない断絶を前に我々はどうすべきか?

「Iターン」という言葉はもはや死語かもしれないが、本作の主人公の夫婦は有機農業と古民家のリノベーションをしたい、という夢を胸にスペインの田舎町に移住してきたフランス人。

だが、村人たちが「よそ者」に向ける視線は冷たく、さらに風力発電施設の誘致を巡って彼らの対立は激化していく。

「俺たちを学がないと馬鹿にしているんだろう」「この村でみじめな暮らしをしている俺たちにとって、風力発電の補償で手に入るカネがどれだけ大事かお前には分からないだろう」......村人たちは「偏狭で排他的」というクリシェそのものに見えるが、彼らのこうしたセリフからは、「より良い世界」に生きる人間の高邁な「理想」がどこまでも虚ろにしか響かない、「貧しい世界」の現実が透けて見える。

その「貧しさ」は経済的な格差だけではない。「持てない者」から見えている世界は、「持てる者」のそれとはまったく異なるのである。

本作を一種の「田舎ホラー」と見ることは可能だろうが、「田舎ホラー」というジャンルそのものの前提を揺さぶる強度を備えた作品であり、また乗り越えられない断絶を前に我々はどうすべきなのか? という問いを突きつけてくる作品でもある。

STORY:フランス人夫婦のアントワーヌとオルガは、スペインの山岳地帯の小さな村に移住した。だが、彼らを嫌う隣人から嫌がらせを受ける。そんな中、村に富をもたらす風力発電のプロジェクトを巡り、夫婦と村人の意見が対立し......。

監督:ロドリゴ・ソロゴイェン
出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラほか
上映時間:138分

シネマート新宿ほか全国順次公開中

●高橋ヨシキ(たかはし・よしき)

デザイナー、映画ライター、サタニスト。長編初監督作品『激怒 RAGEAHOLIC』のBlu-ray&DVDが発売中。

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