「料理人を目指すきっかけに」「ストーリーに感動」料理のプロ15人が認めた《三つ星級食ドラマ》

105

2023年11月24日 21:00  週刊女性PRIME

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週刊女性PRIME

(左から)滝沢秀明、木村拓哉、中居正広、稲垣吾郎

 ここ数年、グルメドラマの勢いが止まらない。今期も『フェルマーの料理』(TBS系)、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)など、食をテーマにした作品がラインナップ。

 長年、医療ものと刑事もので飽和状態だった民放ドラマ業界に、新たな風を吹かせている。しかし、そうしたグルメドラマは、現場に立つ“食のプロ”たちの目にはどう映っているのだろうか?

 過去のヒット作から近年の話題作まで彼らが「唸った」食のドラマを聞いてみた。

リアルな板場の雰囲気を忠実に再現

 現場で働く料理人たちに、大きなインパクトを与えたのが一流料亭を舞台にしたドラマ『味いちもんめ』(1995年・テレビ朝日系)。中居正広演じる新人板前が、料理人として成長していく模様を描いた作品だ。当時すでに料理人として働いていた「日本料理 銀座 いしづか」店主・石塚規さんは、同作の料理シーンを高評価。

「板前が主人公で、料亭が舞台のドラマなんて当時はほかになかったので、最初はちょっと見てみるかくらいの気持ちでした。でも予想以上に料理のシーンがよく作り込まれていて、素直に面白かったです」(石塚さん)

「神楽坂くろす」主人・黒須浩之さんは、「板場の雰囲気がものすごく忠実に描かれていた」とリアルな世界観を絶賛。

「兄弟弟子や親方との関係性がとても共感できました。中居さんが演じていた生意気な主人公を見ていると、新人時代の自分を思い出します。煮魚の仕込みのシーンなど、技術的にも入念に取材して作られていたように思います」(黒須さん)

「うなぎ時任」店主・時任恵司さんにとってこのドラマは、自身のキャリアを決めるきっかけのひとつだった。

「不器用だけど一生懸命な主人公が、少しずつ料理の高みへとのぼっていく姿が印象に残っています。当時すでに料理人になろうと思っていた私に、さらに覚悟を持たせてくれたドラマです」(時任さん)

 同様に、飲食店のリアルをうまく取り入れた作品として名前が挙がったのが、三谷幸喜脚本の『王様のレストラン』(1995年・フジテレビ系)。

 つぶれかかったフレンチレストランを再建させるというストーリーで、主演は松本白鸚(当時は松本幸四郎)。飲食店コンサルティングを行う「ビープラウド」代表取締役・大山ジュンさんは、同作のエピソードが実体験と重なったという。

「オーナーの熱意とギャルソンのスキルが融合したときに、奇跡が連続して起きる展開に感動しました。実際の経営でも、みんなの力が重なったときに本当に奇跡のようなことが起きます」(大山さん)

 居酒屋運営グループ「株式会社 渋谷の歩き方」代表取締役の久保木秀直さんも、同作を推す。

「松本幸四郎さんが演じる高いプロ意識を持つギャルソンをはじめ、個性豊かな従業員たちが一つのチームとなってトラブルを解決していく物語に共感しました。リアルなお店もドラマのように問題を解決しながら、結束を高めていくんです」(久保木さん)

 日本橋の高級会員制すし店「鮨 不二楼」店長・宮川隼汰さんは、作中に登場したレシピを今でも鮮明に覚えているという。

「このドラマに出てきた“オマール海老のびっくりムース”が忘れられません。当時、食べたくて仕方がなかった思い出があります」(宮川さん)

『高校生レストラン』の卒業生が従業員に

 飲食店の経営者たちに人気なのは『孤独のグルメ』(2012年〜・テレビ東京系)。シリーズは10作品、大みそかスペシャルも恒例となり、すっかり国民的ドラマとして定着した。

 フードサービスアドバイザーの武田あかねさんは、「お休みの日は、食通の知人たちと一緒にお店ツアーをしている」ほど、同作のファン。

「作中に登場するのは、ちょっと入りにくいようなお店ばかり。でもそのお店ならではのおいしさがしっかり伝わってくる構成が素晴らしいです。五郎さんがお店について語るシーンを見ていると、人に好かれるお店とはどんなものなのか?と考えさせられます」(武田さん)

「実際にある路地裏の名店を、主人公の五郎さんが毎回独自の視点で分析するのが面白い。食事のシーンはシズル感ある映像に仕上がっていて、本当においしそう。こういうお店が愛されるんだよな、と思わせてくれます」(久保木さん)

 レストラン経営をリアルに描いた作品として、『グランメゾン東京』(2019年・TBS系)の名前も挙がった。木村拓哉演じるカリスマシェフが、ミシュラン三つ星を目指すストーリーだ。

 マクロビレストランを展開する「株式会社CHAYAマクロビフーズ」代表取締役の小川博行さんは、「レストラン業界の良いアピールになったと感じました」と語る。

「人集めに始まり、お店づくりや料理開発など、どのエピソードも現場で実際に行われていることです。普段見せないお店の裏側をリアルに描いていました」(小川さん)

 日本料理店「銀座稲葉」のオーナー兼料理長・稲葉正信さんは、最終回が印象的だったと振り返る。

「最終回のミシュラン授賞式のシーンでは、実際の受賞者が登場していて思わず見入ってしまいました。料理のジャンルが違っても、ストーリーに共感する部分は多く、心に響くものがあります。

 自分も若いときはああいうふうに夢を見て頑張っていたことを思い出しました」(稲葉さん)

 また、稲葉さんは思い入れのある作品として『高校生レストラン』(2011年・日本テレビ系)も挙げた。松岡昌宏が主演を務めた同作は、三重県に実在する高校生が運営するレストランが舞台だ。

「モデルになった高校の教師と親交があり、リアルタイムで裏事情も聞けたのが面白かったですね。実は今、私の店ではこの高校の卒業生が3人働いています。なんとなく縁を感じてしまう作品です」

ドラマの主人公に魅了されリアル店舗をオープン

「ビストロ・ヴィノシティ・グループ」のオーナーソムリエである藤森真さんは、ドラマがきっかけで、今の仕事を目指すようになった。稲垣吾郎が天才ソムリエを演じた『ソムリエ』(1998年・フジテレビ系)だ。

「私がワインに興味を持つきっかけ、そしてソムリエという職業を知り目指すきっかけを作ってくれたドラマです。私と同世代のソムリエに、このドラマの影響を受けた人は多いと思います。

 '90年代のワインブームを牽引したのは間違いなくこのドラマでしょう。主演の稲垣さん自身、ワインに精通していることで知られていますが、今思い返してみても稲垣さんがドラマの中で行うソムリエの所作やワインの扱い方など、かなり完成度が高かったように思います」(藤森さん)

「ショートケーキカンパニー」のシェフパティシエであるイチカワミズホさんも、高校生のときに見た『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』(2001年・フジテレビ系)が自身のキャリアの原点にあるという。

「高校に入るころにはすでにパティシエになると決めていたのですが、当時はSNSはおろか、携帯の写真機能も普及していませんでした。そんなときに見たのが『アンティーク』です。

 まだ珍しかった平置きショーケースや、宝石のようにキラキラしたケーキ、レトロクラシックでおしゃれな内装など本当に素敵で忘れられません。今見ても感動すると思います」

 ストレートに食をテーマにしたドラマだけでなく、最近はやや奇をてらったグルメドラマも多い。

 「こども食堂サザンクロス」を運営する「NPO法人いきば」代表・南谷素子さんがハマったのは、『極道めし』(2018年・BSジャパン)。

 刑務所の受刑者たちがその日のおかずを賭けて、“これまで食べた中でもっともおいしかった食べ物の話”を繰り広げる。

「登場するのは冷やし中華やカレーなど、ごく普通の料理ばかり。でもなぜか魅力的に見えるんです。また、個性豊かな受刑者たちがごはんを通じて人間関係をつくっていく過程を見て、“めしの魅力”を改めて感じました」

 南谷さんによるとグルメドラマは、「人生の学びも多く盛り込まれている」という。例えば『ランチのアッコちゃん』(2015年・NHK)は、恋や仕事に悩む女性を、食べ物の力で救うという一風変わったテーマのドラマだった。

「『自分を変えたいなら食べるものから変えなさい』という言葉が印象に残っています。気持ちもやる気も食事から。人間関係も仕事も、さらには自分の将来まで、すべて食とつながっていることを教えてくれました」

 カフェ「HOLIC color drinks & Food Lab」の店主・谷出一真さんも、『宮廷女官チャングムの誓い』(2003年・NHKほか)を見て自身のマインドがガラリと変わったという。

「味覚を失い思うように料理ができなくなった主人公が、上司の女官から『あなたには味を描く能力がある』と言われるシーンがあります。このセリフを聞いてから、料理への向き合い方が変わりました。

 思いつくまま料理をするのではなく、調理法や味つけを描くことを意識することで、より自分らしい料理を作ることができるようになったんです。これまで食をテーマにした作品はたくさん見てきましたが、私の中ではこれが一番です」

 ドラマの世界観に憧れ、実際に店舗をつくってしまったのが、飲食店グループ「ドリームリンク」代表取締役の村上雅彦さん。『ワカコ酒』(2015年・BSテレビ東京)を見て、主人公の村崎ワカコの生き方に魅了されてしまったという。

「OLのワカコがひとり酒を堪能するお話なのですが、その姿がすごくカッコいいんですよね。まんまと影響され、女性のひとり飲みが似合う『大吉田』という店を、東京・虎ノ門につくってしまいました。ワカコさんのような人が来てくれたらうれしいです」

 配信作品からも名前が挙がった。「クロッサムモリタ」のオーナーシェフ・森田隼人さんは『The Menu』(2022年・各種動画配信サイト)をチョイス。

 太平洋に浮かぶ孤島の人気レストランで起きる、予測不能な事態を描いたサスペンスだが、「まさに私のレストラン『クロッサムモリタ』そのものでした」とのこと。

 リアルな“食”の現場では、まさに毎日がドラマであふれているのかも!

回答してくださった方々(50音順・敬称略)

石塚規(日本料理 銀座 いしづか 店主)
イチカワミズホ(ショートケーキカンパニー シェフパティシエ)
稲葉正信(銀座稲葉 オーナー兼料理長)
大山ジュン(株式会社ビープラウド 代表取締役) 
久保木秀直(株式会社 渋谷の歩き方 代表取締役) 
黒須浩之(神楽坂くろす 主人)
小川博行(株式会社CHAYAマクロビフーズ 代表取締役)
武田あかね(フードサービスアドバイザー・株式会社キイストン取締役)
谷出一真(HOLIC color drinks & Food Lab 店主) 
時任恵司(うなぎ時任 店主)
南谷素子(「こども食堂サザンクロス」運営)
藤森真(ワインスクール・シャルパンテ・カレッジ理事長兼学長 ビストロ・ヴィノシティ・グループ オーナーソムリエ)
宮川隼汰(「鮨&BAR 不二楼」店長)
村上雅彦(株式会社ドリームリンク 代表取締役)
森田隼人(六花界グループCEO クロッサムモリタ オーナーシェフ)

【15人の「食のプロ」たちが唸ったドラマ】
『味いちもんめ』(1995年・テレビ朝日系)中居正広
『王様のレストラン』(1995年・フジテレビ系)松本白鸚(当時は松本幸四郎)
『ソムリエ』(1998年・フジテレビ系)稲垣吾郎
『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』(2001年・フジテレビ系)滝沢秀明
『宮廷女官チャングムの誓い』(2003年・NHKほか)イ・ヨンエ
『バンビ〜ノ!』(2007年・日本テレビ系)松本潤
『深夜食堂』(2009年・TBS系)小林薫
『高校生レストラン』(2011年・日本テレビ系)松岡昌宏
『孤独のグルメ』シリーズ(2012年〜・テレビ東京系)松重豊
『天皇の料理番』(2015年・TBS系)佐藤健
『ランチのアッコちゃん』(2015年・NHK)蓮佛美沙子
『ワカコ酒』(2015年・BSテレビ東京)武田梨奈
『昼のセント酒』(2016年・テレビ東京系)戸次重幸
『極道めし』(2018年・BSジャパン)福士誠治
『グランメゾン東京』(2019年・TBS系)木村拓哉
『きのう何食べた?』シリーズ(2019年〜・テレビ東京系)西島秀俊・内野聖陽
『The Menu』(2022年・各種動画配信サイト)レイフ・ファインズ

取材・文/中村未来 取材協力/オーナーズ11 〜飲食の戦士たち〜(株式会社カロスエンターテイメント)・株式会社ドリームパスポート

このニュースに関するつぶやき

  • 「ほー いいじゃないか こういうのでいいんだよ こういうので」(・∀・)
    • イイネ!22
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(70件)

ニュース設定