古橋亨梧のイチオシ「大橋祐紀って誰だ?」 得点ランク日本人3位タイの湘南FWが覚醒した理由

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2023年12月01日 06:21  webスポルティーバ

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 人知れず味わってきた悔しさと痛みと、歯痒さと苦悩を、ついに結果へつなげた。

 湘南ベルマーレの大橋祐紀である。プロ5年目の今シーズンは自身初のふたケタ得点を記録し、チームのJ1残留に貢献した。

 最前線で身体を張り、味方を使いながら自ら持ち出し、左右両足から力強いシュートを繰り出す。ハードワークを身上とするベルマーレの選手らしく、前線からプレスを仕掛ける。献身的なその姿勢が、観る者の胸を揺さぶる。リーグ残り1試合の時点での13ゴールは、得点ランキングの6位タイ(日本人では大迫勇也の22得点、細谷真大の14得点に次ぎ、鈴木優磨と並ぶ3位タイ)となる。

 結果に対する強いこだわりを持って臨んだシーズンだった。

「去年の終盤はメンバー外の試合が多かったんです。試合に出ても途中出場が多く、プレータイムは900分に満たないぐらいでした。危機感というか、崖っぷちというか、とにかく自分のなかでどうにかしないといけないという思いがありました」

 2022年シーズン後のオフは、カタールワールドカップ開催の影響でいつもより長かった。大橋はトレーニングに多くの時間を割き、体重を2キロから3キロほど増やした。

「選手なら誰もがそうだと思うんですが、自分の身体をどうするかというのは、ずっと試行錯誤しています。過去には身体のキレを出したくて、体重を軽くしたシーズンもありました。今回は2キロほど増やしたままプレシーズンに入ったんですが、それでも重さを感じずに動けました。プレシーズンでも点を取ることができていて」

 いきなり結果を残した。サガン鳥栖との開幕戦で、自身初のハットトリックを成し遂げる。ベルマーレ所属選手としては、実に25年ぶりの記録達成となった。

「鳥栖戦でいいシーズンの入りができたことで、自分のなかでも気持ちの余裕が生まれたと思ったのですが......」

 3節の川崎フロンターレ戦で、右太もも肉離れのケガを負ってしまう。全治まで10週間と診断され、11試合連続でメンバー外となった。

「シーズンの入りがよかったけれど、すぐにケガをしてしまったので、プラスマイナスゼロみたいなところはありますけど、振り返ればその離脱期間に、また身体に向き合うことができたと思います。自分のキャリアがずっと右肩上がりにいくとは思っていませんので」

【町野修斗のドイツ移籍は「まったく関係ない」】

 プロ1年目の2019年に、前十字じん帯損傷、外側側副じん帯損傷、大腿二頭筋損傷で全治8カ月の大ケガを負った。翌年3月には、右反復性肩関節脱臼で全治5カ月の診断を受ける。同年8月には、左鎖骨骨折で3カ月の離脱を強いられた。プロ入りから2年で実に16カ月もの月日を、ケガの治療とリハビリに費やした。

「壮絶と言えば壮絶ですが、8カ月、5カ月、3カ月と離脱期間がだんだん短くなったので、それは幸いだったかもしれません。それと、ひざのケガから復帰した直後は、当たり前ですけど全然しっくりいってなかったんです。でも、そのあとの離脱期間にリハビリなどができたので、ひざの違和感がだんだん抜けていきました。

 肩も復帰したばかりの頃は、転んだ時に地面に手をつくのが怖かった。それも、鎖骨のリハビリ期間によくなっていった。そうやってコンディションが戻っていって、3年目で戦えるようになったんです」

 プロ3年目の2021年は、31試合に出場して4ゴールを記録した。シーズンを通して戦う準備が整ったが、4年目は22試合出場で2得点にとどまった。

 胸のなかで危機感が膨らんでいく。だが、悲壮感はなかった。

「そういうサッカー人生なのかな、と思っているので」と、自然な笑みをこぼす。

「自分なりにいろいろな挫折を経験してきて、そのぶん大器晩成型だと思っています。あれこれと悩んでもなるようにしかならないし、またかと思うこともありますけど、最終的には『まあ、大丈夫だろう、いけるっしょ』という考えに至るんです」

 今シーズンは7月22日の22節から、コンスタントに得点を重ねていった。その直前に、町野修斗がドイツのクラブ(ホルシュタイン・キール)へ移籍している。責任感を膨らませていったのだろうか。

「町野がいなくなったというのは、まったく関係ないです。その代わりに入ってきた選手もいましたし、その時点では4点しか取っていなかったので、まずは自分が試合に出て結果を残さなきゃいけない、ということしか考えていませんでした」

【ベルギーの渡辺剛からは「刺激をもらっている」】

 それにしても、である。

 目の前の試合に、目の前のプレーに集中した結果だとしても、前年の2点から13点までゴール数を伸ばした要因はあるはずだ。

「何かをガラリと変えた、ということはないんです。FWなのでいつでも点を取りたいと思っていますし、1年目よりは2年目、2年目よりは3年目と、自分なりに積み重ねてきたものがあって、周りとの関係性が深まって、なおかつ冷静にやろうというのは今年は特に心がけています。自分、自分にならずに、ボールをはたく。何かあるとしたらそこかな、と思います」

 そもそも、エゴイスティックなタイプではない。ストライカーの仕事をいかに全うするかを考え、自分なりのプレースタイルが輪郭を帯びていった。

「以前からパスを出していましたけど、より意識的にという感じです。難しいことをしないで、点を取るところでパワーを出せるようにしよう、と。言語化するとしたら、割りきりでしょうか。そればかりではないですけど、それはあるのかなあと」

 ストライカー特有の「嗅覚」という表現を、使いたくなるゴールもある。大橋自身は「それも大事だと思います」としたうえで、違う言葉を持ち出した。

「たとえば、J1残留が決まった横浜FC戦でガンちゃん(大岩一貴)が得点した場面では、自分と(キム・)ミンテくんもGKが弾いたボールに反応できるポジションにいました。たぶん数年前の試合でも、自分は同じことをやっていると思います。

 嗅覚というよりも、ここにこぼれてきそうだとか、ここにパスが来るといった予測に基づいた習慣と言ったほうが、僕の場合はしっくりきます。湘南ベルマーレとしての戦い方がありますし、周りを使って生かされて、というのもありますし」

 11月のワールドカップ・アジア2次予選に追加招集された渡辺剛は、中央大学サッカー部の同級生だ。ベルギー1部のクラブ(ゲント)で奮闘するCBには、「めちゃめちゃ刺激をもらっています」と言葉に力を込める。

「代表に選ばれた時は、おめでとうと伝えました。横浜F・マリノスの上島拓巳も同級生で、彼らと戦いたい気持ちがありますし、同じ舞台でできたらいいなとも思います」

【日本代表は「何歳になってもあきらめたくない」】

 セルティックの古橋亨梧とも、中央大学で共闘した。ひんぱんに連絡を取り合う間柄ではないものの、2学年上の先輩の心配りが大橋の胸を打つ。

「去年6月にDAZNの『やべっちスタジアム』に亨梧くんが出たんです。J1の注目選手をふたりあげて、ひとりがイニエスタ選手で、もうひとりが僕だったんです。

 観ていた人は『大橋って誰だ?』と思ったでしょうし、事前連絡とかがなかったので自分もびっくりしましたけれど、そんなふうに気にかけてもらって、すごくうれしかったです。もっとやらなきゃと、めちゃめちゃ思いました」

 自身が日本代表に選出されれば、渡辺や古橋と再びプレーすることができる。大橋の眼に、強い光が宿った。

「日本代表はもちろん目標です。何歳になってもあきらめたくないし、向上心がなくなったら終わりだと思うので、そこは常に意識したい。あと二段階、いや三段階くらいレベルアップしないといけないので、もっともっとがんばらなきゃいけないです」

 さらなる高みを目ざす大橋にとって、12月3日のシーズン最終節は、その第一歩となる。

「今年が特別にいいシーズンかと言ったら、そんなことはないんです。僕の得点はワンタッチゴールが多いのですが、それはチャンスメイクをしてもらっての結果だと思う。チームメイトに感謝しつつ、自分自身はまだまだ足りないところが多いので、最終節から来年につなげていきたいと思っています」

 逆境にくじけず、順境にゆるまず、真っ直ぐでしなやかな心で、少しずつ成長の歩幅を広げていく。ほとばしるような情熱をプレーに注ぐ大橋は、まだまだ大きなのびしろを秘めている。


【profile】
大橋祐紀(おおはし・ゆうき)
1996年7月27日生まれ、千葉県松戸市出身。ジェフ千葉のアカデミー出身で八千代高から中央大に進学。大学4年時の2018年には関東大学リーグ2部で得点王となり、特別指定選手として湘南ベルマーレでもプレーする。同年12月の名古屋グランパス戦でJリーグデビュー。2023年のJ1開幕戦ではハットトリックを達成し、湘南の選手としては1998年の呂比須ワグナー以来25年ぶりの快挙。ポジション=FW。身長181cm、体重76kg。

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