映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』原作にどこまで忠実?  水木しげるから受け継いだ“理不尽への抵抗”

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2023年12月08日 07:10  リアルサウンド

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   故・水木しげる氏の生誕100年を記念して制作され、大ヒットを記録している劇場アニメ『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。その内容は、原作で描かれていない部分に切り込んだオリジナルストーリーとなっており、鬼太郎すらほとんど出てこない。


【写真】映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」を大解剖した内容濃すぎるムックの内容


  そこでまだ映画館に足を運んでいない人々のなかには、「どこまで原作に忠実なのか?」と気になっている人もいるかもしれない。しかし結論から言うと、むしろ同作は『ゲゲゲの鬼太郎』と水木氏の精神を忠実に受け継ぎ、次の世代へとバトンを渡すことに成功しているように思われる。


  まず、あらすじから確認しておくと、同作の舞台となるのは昭和31年の哭倉村(なぐらむら)。財政界の大物である龍賀一族に支配された村に、血液銀行に勤める男性・水木と不思議な力をもつ鬼太郎の父が足を踏み入れ、忌まわしき怪奇現象に巻き込まれていく──。


  公式サイトなどでは「鬼太郎の父たちの物語」とまとめられているが、ここで重要なのは“鬼太郎の父”が複数形で表現されていることだろう。原作の時点で、鬼太郎には生みの親と育ての親の2人が存在した。生みの親は言わずと知れた目玉おやじで、育ての親にあたるのが他でもない水木の方だ。


 『ゲゲゲの鬼太郎』が誕生した経緯はやや複雑で、原型となる紙芝居が存在しており、それを水木氏がオリジナルの世界観に昇華させることで、現在よく知られている鬼太郎たちの物語が形作られていく。そこで大きな契機となったのが、1960年頃に発表された貸本マンガ版『墓場鬼太郎』の1話目にあたる『幽霊一家』だった。


  この物語は血液銀行勤務の男性・水木が主人公となっており、ある日隣に不気味な夫婦が引っ越してきたところから始まる。彼らは実は人間に迫害され、絶滅寸前となっている“幽霊族”だった。しかし不治の病にとりつかれていた夫婦は、その後命を落とし、水木は墓場の土の中から生まれてきた赤子を育てることにする。


  こうしたプロットと、育ての親としての水木というキャラクターは、その後『週刊少年マガジン』などで連載された『ゲゲゲの鬼太郎』でも変わっていない。1968年発表の「鬼太郎の誕生」では、ほとんど同じ話の流れで鬼太郎の出生が描かれていた。


  ネタバレを避けるため、詳細は伏せるものの、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はこの出生エピソードに直結しうるストーリーとなっている。水木の設定や、鬼太郎の両親に関する描写などと密接にリンクするように作られているため、原作と映画を見比べることで深い感動を味わえるはずだ。


水木しげる氏が戦記マンガで伝えようとしたこと


  さらに『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』でもう1つ重要なのが、水木氏の創作のテーマに関わる部分を受け継いでいることだ。


  同作に登場する水木は、血液銀行の社員であると同時に、徴兵によって戦争で地獄を見た過去をもつ。なんとか命からがら生き延びたようだが、その体験は壮絶なものだったらしく、平和な時代がやってきた後も彼の心に暗い影を落としている。


  そして徴兵といえば、水木氏自身の体験を連想せざるを得ないだろう。21歳の頃に召集された水木氏は、南方戦線のニューブリテン島にて、仲間のほとんどが命を落とし、自身も左腕を失うという壮絶極まりない状況を体験することになった。後に執筆した戦記マンガの数々では、当時戦地で起きていたことが生々しく描写されている。


  とくに1973年に発表された『総員玉砕せよ!』は、「九十パーセントは事実です」とあとがきで綴られているように、ほぼ実体験に基づく作品だ。そこでは水木氏を含む兵隊が上官から日常的に暴力を振るわれ、無茶な作戦に従事させられたり、「玉砕」を命じられたりするシーンがある。命令に背けば罰せられ、命令に従えば玉砕……。理不尽な状況のなかで、人間としての権利を剥奪される兵隊の憤りが、そこには描き出されていた。


  翻って『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の内容を見ると、水木はまさに戦中に上官から受けた暴力によって傷つけられた人物であり、水木氏の戦記マンガを髣髴とさせる回想シーンも出てくる。しかし同作の風刺は、そうした戦争関連の描写だけでは終わらない。因習と利権に絡めとられた哭倉村では、“理不尽に虐げられる人々”が他にも多く存在しているのだ。


  さらにそのテーマの射程は、龍賀一族の描写を通して、戦後の日本社会全体にまで広がっているようにも見える……。


  別の言葉で言い換えれば、同作は水木氏のさまざまな作品に通底するテーマを受け継ぎ、現代社会に届けようとした試みと解釈できるのではないだろうか。令和の時代に生まれた正統的な“水木しげる作品”として、より多くの観客のもとに届くことを期待したい。


(文=キットゥン希美)


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  • 6期は映画も話題になってるのに、いきなり中途半端な形で打ち切られた5期が不憫
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