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前回からの続き。私は50代後半の田上ミサエです。15年ほど前、世界的金融危機の影響を受けて夫マコトが無職になってしまいました。当時、3人の子どもたち(長女ユミカ・長男ユウスケ・次男タイキ)はまだ小中学生。日々の生活すらもギリギリの状態で、家族で協力しあいどうにか切り抜けてきたのです。このたび長男ユウスケの結婚が決まったのですが、奨学金の返還が残っていることを告げると、お相手から破談したいと連絡が入ってしまいます。私たちは自分たちの不甲斐なさに落ち込みますが、長女ユミカは「仕方ない」ことだと言い切ります。
「破談は仕方のないことなんじゃないの?」というユミカからの言葉に驚き、思わず聞き返した私。「仕方ないって、そんな……!」「あのね、お母さん。気を悪くしないで聞いてほしいんだけれど……」
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「奨学金をよく思っていないご家庭もある、ってことは事実なんだよ? だって借金だもん」ユウスケがお金を借りたのは大学進学のためであって、ギャンブルや身の丈に合わない贅沢などで散財したのとは違うのに……。しかしユミカは「借りた理由は相手には関係ないもん」
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「ギャンブルに使った借金が残っていても許容できる人もいれば、たとえそれが自己投資であっても結婚に難色を示す人だっているよ。それが『価値観の違い』ってやつなんじゃない?」
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「奨学金をどう捉えるかは家庭によって違うんだよ。奨学金を借りているという事実に対してお互いの家庭の価値観が違っただけ」
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「相手のお嬢さんは中学からずっと私立で、それなりに裕福なおうちでお金をかけて大事に育てられてきたわけでしょう? 娘の結婚相手に数百万の借金があると聞かされて、敏感に反応するのは仕方ないと思う」
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「大切な娘の結婚生活が、ゼロからのスタートじゃなくてマイナスからのスタートになるって知ったら、躊躇してしまう親御さんの気持ちもわかるよ」
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確かに藤崎さんが孫にポンと多額のお祝い金を出したとしても、わが家はそんなことはできません。ユウスケが肩身の狭い思いをする場面も出てくるでしょう。両家のお金の価値観の違いは結婚後もずっと続くもの……ユミカに指摘され、返す言葉がありませんでした。
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ユミカの言葉は、落ち込む私たちを励まそうとするものでした。「だからお父さんもお母さんも、過剰に自分たちを責める必要はないよ。私たちはあのときどきで精一杯の判断をして対応をして暮らしてきた。だから後悔するようなことはしてほしくないの」
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奨学金に対する考えは、それぞれの価値観で異なるもの。破談の申し入れの理由は奨学金そのものというより「お金の価値観の違い」なのでしょう。考え方は人それぞれで、そこに正解はないのかもしれません。ユウスケに借金を背負わせて申し訳なかったと自分を責めていた私たちは、ユミカの言葉に少し救われた気がしたのでした。これから2人で話し合うであろう、ユウスケとマイさんの結論を見守りたいと思います。
【第6話】へ続く。
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